【R18.BL】千里結言

麦飯 太郎

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11.再開

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 再び歩き始める。マラウイに到着してから色々とあったが、その全てが自身の知識となっている気がした。
 あの屋敷で蓮から色々と教わったことも大切だった、あの小さな集落で学んだ人間関係も大切だった。そして、今、知らない文化と出会い、他者の考えを知れたこともまた大切だ。

「……これからも。沢山知っていきたいな……」

 ふと出た言葉だが、その知っていく中で隣にはハルトが居て欲しい。分からないことを聞いて、お互いの意見を話す。笑って、喧嘩して、仲直りをして、絆を深めていきたい。
 ハルトを想い、会いたい気持ちに胸が苦しくなり俯いて歩いていたが、グッと顔を上げる。すると、目の前に小さな男の子が立っていた。

『……こ、こんにちは』
『うん』

 男の子はニコニコと笑いながら動かない。その様子にピンときて膝を曲げた。男の子と同じ顔の高さで、申し訳ない気持ちで微笑む。

『ごめんね、お金は無いんだ。お菓子も無い』

 すると、首を振っていらないよと返事をされた。では何故目の前で阻むように立っているのだろうか。少し困惑したが、道の端に寄って、座り込んで水を飲む。
 男の子は当たり前のように隣に座り、またニコニコと笑った。

「いや、ほんとさ。住んでた山より田舎っていうか、物凄い広くてただただ自然ってあるんだな……」

 独り言のように呟きとしながら水を飲む。
 久しぶりに発した日本語は、なんだか少しだけぎこちない気がした。
 すると、男の子がこちらの裾を掴んだ。

『ん? あぁあ、ごめんね。日本語だと分からないよね。凄く自然が豊かだなって、そう言ったの』

 なんでそんなことを言うのだろうとでも言うように、男の子は首を傾げる。そして、裾を掴んだまま再びニッコリと笑った。

『りっか』
『なぁに?? ……は? え? 僕の名前……呼んだ!?』

 いつ名乗ったかと思案したが名乗った覚えはない。でも、もしかしたら誰か世話になった人達が先回りして変な日本人がいると話していたのかもしれない。
 しかし、子供はこちらが名前に反応したことに喜び何度も六花と叫ぶ。その喜びようはまるで探し物を見つけたようだ。立ち上がり飛び跳ねひとしきり喜ぶと、今度は腕を掴まれた。

『りっか!! りっか!!』

 そしてグイグイと引っ張り始めたので、慌てて荷物を掴み引っ張られるままに歩き出す。

『ちょ、ちょっと待ってよ!』

 こちらの言葉に耳を貸さずに大人の集まる場所に連れて来られ、恐怖が心の片隅に現れる。子供ならまだ最悪の事態でも振り払えるが、何人も大人に囲まれれば逃げきれないだろう。
 それに、子供は先程まで英語だったのに、今は大人達と現地の言葉で話している。身振り手振りはあるが、何を言ってるかさっぱり分からない。
 どうするべきか、とりあえずチラチラとこちらを見ている大人に声をかけようとした。

『あの、』
『フゥゥゥゥゥゥー!! リッカ!! ヤッタゼー!!』
『!? え!? 何!?』

 今度は大人達も大喜びし始めた。怖い。何を求められているのだろう。名前を連呼しながら、喜びの舞の様なダンスをしているのを、強ばった身体で眺めているしか出来ない。
 すると、男に荷物を取られる。

『え、ちょっと返して!!』
『リッカ!! リッーーーーーカァァァ!! フゥゥゥゥゥゥ!!』

 聞いてくれないようだ。荷物の無くなった軽い背中をグイグイと押され、道路脇の家の裏に連れていかれる。
 何かの儀式で贄にでもされるのか。
 名前をなぜ知ってるのか、今の状態がなんなのか、何がしたいのか。
 不安なことがグルグルと蠢いて、大の大人なのにも関わらず泣きそうな気持ちになる。
 背中を押され、腕を子供に引っ張られ、何人かが家の裏にある井戸に指を向けた。

『リッカ!! 見ろ!!』

 潤んだ瞳で、井戸に投げ込まれる覚悟をすると、そこには何人かの現地民とは違う様相の男達が居た。大騒ぎをしながら歩いていたので、男達は何事かというように振り向いた。
 その男達の中から、美しい金色の髪と低い背の男が顔を覗かせた。

「ハ、ルト??」
「……りっ、か?」
「ハルト!! ハルトォォ!!」

 今までの恐怖が一瞬で吹き飛び、ハルトに向かって駆け出した。そして飛び付くように抱き締めてから、両手で頬を包んで顔をこちらに向かせる。
 幻想でも夢でもない。本物のハルトだとこの目で何度だって確かめたい。美しい瞳が驚いたようにパチパチと瞬いた。

「え、本物? え?」
「ごめん、来ちゃった」
「いや、オレが夢見てんのか。最近詰めてたしな……」
「ハルト! 何言ってんの! 本物!! 六花だよ。ハルトに会いたくて、あいたくてあいたくてあいたくて!! 会いたくて来ちゃったよ」

 本物のハルト。触れる頬からは温かい身体の熱を感じるし、ふわりと立ち上る香りは太陽のように暑く、でも爽やかな香り。
 そんなハルトが腕の中で顔を赤く染めている。可愛い。堪らない。会えた。もう一度、会うことができた。

「会いたくてって……あの、それって告白みたいだけど……っていうか、ここまで来ちゃってる時点でかなり、その……」

 その言葉にハッとして、ふんわりと微笑んだ。

「――うん!! すき!! ハルトのことが好きだから!! 大好き過ぎて来ちゃった!!」
「だ、大好きって、あ、あ、も、もしかしてテレビでみてたの!?」

 珍しく吃るハルトから目を逸らさずに、頬に触れていた手をするりと動かし、頭を撫でる。

「うん。テレビ見て、急いで準備した」
「えぇ……本当にアレ見てたのか……」

 なんだか困ったような口調のハルトに、微かな不安を覚えてしまい思わずごめんと口にする。それにハルトは驚いた表情をして思い切り首を振った。

「ちがっ! 違うって、六花!! そ、その、嬉しくて、嬉しくて、ヤバい。顔がニヤける……」 

 嫌がられていないと分かり、ホッと息を吐く。すると、先程の子供が裾を掴んだ。

『りっか』 

 その子にニコリと微笑み返し、そう言えばと思い疑問を口にする。

『何で名前知ってるの?』
「――笑わない?」

 子供に問いかけたつもりだったが、腕の中のハルトが目元を赤く染めながら見上げてきた。

「うん。笑わない」

 緊張しているらしく唇を少し舐めて、ハルトは小さな声で呟いた。

「写真。オレの好きな人ってみんなに自慢してて……それで」
「……好きな人?」
「そう、好きな人」
「すき?」
「? うん、好き」

 まさかの言葉に何度繰り返しても頭に入ってこない。

「俺を?」
「うん」

 この状況で別の誰かである可能性は低いが、確認せずにいられなかった。

「特別?」
「もちろん!! あ、えー、六花の好きってもしかして友人として……?」

 まさかこんなことがあるのだろうか。腕の中にいるハルトが潰れるほど抱き締め、耳元でハルトだけに聞こえるように囁いた。

「友人としてじゃない。一人の人間として、ハルトを愛してる」
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