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10.5.ギブミーマネー
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スヴェンと別れてから、一晩が過ぎた。この調子ならば、あと二日あれば目的地に到着するはずだ。木陰の下で休憩を兼ねて水分を補給していると、子供が三人、近付いてきた。
『こんにちは!! チャイニーズ?』
子供は首を傾げてニコニコと微笑んでいる。
『いや、ジャパニーズだよ』
『ジャパニーズ??』
どうやら子供達は中国は知っているが、日本は知らないようだ。持っていた世界地図を広げ、日本の場所を指さした。
『チャイナはここ。ジャパンはここ。マラウイはこっち』
『うわー!! 遠いんだね!! じゃぁ、ギブミーマネーだね!!』
『ん??』
どういう意味だろうか。お金を下さい……と言っているのか。意味は分かっても、そんな台詞を言われたことがなかったので脳内が固まってしまったようだ。
しかし、子供達は再び可愛らしい笑顔で ギブミーマネー! と叫んだ。
『あ、ごめん。僕、お金は無いんだ』
『ええ!? 海を渡ってきた黄色い肌の人はお金くれてたよ!?』
それがどこの国の人かは分からないけれど、子供達にとってお金をせがむことは悪いことでも恥ずかしいことでも無いようだ。
実際、金銭は帰りの飛行機代金を支払う為のクレジットカード……それも天狗里の者の名義だ。それとなけなしの換金した現金のみ。
『飴しかないから、一個ずつね』
『うわーい! 飴だ!! バイバーイ!!』
缶に入っているドロップを一つずつ手に乗せてやると、それを口に含み子供二人は爽やかに去っていった。しかし、一人の男の子だけはこちらをずっと見上げている。どうしたのかと首を捻ると、クスクスと笑われた。
『びっくりした?』
『え? あ、あぁーさっきの?』
『うん。お金ちょうだいって、僕らは慣れてるし、ヨーロッパ系の人も断ったり追い払うのに慣れてる。でもアジアの……特に日本人は慣れてないみたいだね』
『……君はよく知っているんだね』
去っていった子供達が離れた場所で遊んでいる、それを見ながら男の子は微笑んだ。
『僕の父さんはこの国で少し偉いんだ。今は父さんと母さんが海外出張してるから、じぃちゃんの家で暮らしてる。あの子たちと違って、僕は字が読めるんだ』
この国の識字率は極めて低い。成人した女性でも、読めない人が大半だ。そして、読めなくても困らないと思っている。
その識字率の低さが、この国が最貧国である理由の一つとは考えないのだろうか。いや、分かっていても日々働かねば生きていけない中で、勉学に費やす時間はないのかもしれない。
『僕は、いつかこの国で一番偉くなるんだ。そしたら、まず子供が働かないで勉強出来るようにしたい。子供が死なないように病院も建てたい。そのためにはまずヒューマンパワーとして大人の女性が字を読んで、自ら収入を得られるような国にしないとね。あと、豊かな資源があるわけじゃないから、何か世界が欲しがるような何かを人間が生み出せるようにしたいんだ。天然資源はいつか尽きるからね。今は良くても何百年もきっと持たないし、未知の資源だったら身体に害が無いかよく調べないといけないし』
『す、すごいね』
きっと父親の受け売りもあるのだろうけれど、それを自らの考えとして落とし込んで言葉に出来るのは素晴らしい。まだたった十歳位のはずだ。
『僕が君くらいの頃は……山を駆け回って遊んでたよ。何も考えてなかった』
『はははっ! 最高じゃん。子供って遊んで、色々なことを経験しろってテレビで言ってた。そのテレビも別の国で見たんだけどさ。駆け回って遊べるような国にしたい』
『君ならできるよ』
『本当!? 嬉しいな!! じゃぁさ、飴もう一個ちょうだい!』
思わず吹き出しそうになるのを抑えて、缶から飴を出す。もしかしたら、今の話もこの子の演技かもしれないが、その強かさがこの国では重要なのだろう。
『内緒だよ。もう飴も無いから』
そう言って空になった缶も渡すと、嬉しそうに目を輝かせた男の子は見つからないようにそれをポケットの奥にギュウギュウと押し込んだ。
そして、立ち上がりこちらにバイバイと言ってから、遊んでいる子供達に合流していった。
『こんにちは!! チャイニーズ?』
子供は首を傾げてニコニコと微笑んでいる。
『いや、ジャパニーズだよ』
『ジャパニーズ??』
どうやら子供達は中国は知っているが、日本は知らないようだ。持っていた世界地図を広げ、日本の場所を指さした。
『チャイナはここ。ジャパンはここ。マラウイはこっち』
『うわー!! 遠いんだね!! じゃぁ、ギブミーマネーだね!!』
『ん??』
どういう意味だろうか。お金を下さい……と言っているのか。意味は分かっても、そんな台詞を言われたことがなかったので脳内が固まってしまったようだ。
しかし、子供達は再び可愛らしい笑顔で ギブミーマネー! と叫んだ。
『あ、ごめん。僕、お金は無いんだ』
『ええ!? 海を渡ってきた黄色い肌の人はお金くれてたよ!?』
それがどこの国の人かは分からないけれど、子供達にとってお金をせがむことは悪いことでも恥ずかしいことでも無いようだ。
実際、金銭は帰りの飛行機代金を支払う為のクレジットカード……それも天狗里の者の名義だ。それとなけなしの換金した現金のみ。
『飴しかないから、一個ずつね』
『うわーい! 飴だ!! バイバーイ!!』
缶に入っているドロップを一つずつ手に乗せてやると、それを口に含み子供二人は爽やかに去っていった。しかし、一人の男の子だけはこちらをずっと見上げている。どうしたのかと首を捻ると、クスクスと笑われた。
『びっくりした?』
『え? あ、あぁーさっきの?』
『うん。お金ちょうだいって、僕らは慣れてるし、ヨーロッパ系の人も断ったり追い払うのに慣れてる。でもアジアの……特に日本人は慣れてないみたいだね』
『……君はよく知っているんだね』
去っていった子供達が離れた場所で遊んでいる、それを見ながら男の子は微笑んだ。
『僕の父さんはこの国で少し偉いんだ。今は父さんと母さんが海外出張してるから、じぃちゃんの家で暮らしてる。あの子たちと違って、僕は字が読めるんだ』
この国の識字率は極めて低い。成人した女性でも、読めない人が大半だ。そして、読めなくても困らないと思っている。
その識字率の低さが、この国が最貧国である理由の一つとは考えないのだろうか。いや、分かっていても日々働かねば生きていけない中で、勉学に費やす時間はないのかもしれない。
『僕は、いつかこの国で一番偉くなるんだ。そしたら、まず子供が働かないで勉強出来るようにしたい。子供が死なないように病院も建てたい。そのためにはまずヒューマンパワーとして大人の女性が字を読んで、自ら収入を得られるような国にしないとね。あと、豊かな資源があるわけじゃないから、何か世界が欲しがるような何かを人間が生み出せるようにしたいんだ。天然資源はいつか尽きるからね。今は良くても何百年もきっと持たないし、未知の資源だったら身体に害が無いかよく調べないといけないし』
『す、すごいね』
きっと父親の受け売りもあるのだろうけれど、それを自らの考えとして落とし込んで言葉に出来るのは素晴らしい。まだたった十歳位のはずだ。
『僕が君くらいの頃は……山を駆け回って遊んでたよ。何も考えてなかった』
『はははっ! 最高じゃん。子供って遊んで、色々なことを経験しろってテレビで言ってた。そのテレビも別の国で見たんだけどさ。駆け回って遊べるような国にしたい』
『君ならできるよ』
『本当!? 嬉しいな!! じゃぁさ、飴もう一個ちょうだい!』
思わず吹き出しそうになるのを抑えて、缶から飴を出す。もしかしたら、今の話もこの子の演技かもしれないが、その強かさがこの国では重要なのだろう。
『内緒だよ。もう飴も無いから』
そう言って空になった缶も渡すと、嬉しそうに目を輝かせた男の子は見つからないようにそれをポケットの奥にギュウギュウと押し込んだ。
そして、立ち上がりこちらにバイバイと言ってから、遊んでいる子供達に合流していった。
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