【R18.BL】千里結言

麦飯 太郎

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14.家族

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 程なくして、ハルトの仕事が終了し無事に日本に戻ってきた。
 埃が溜まっていてもおかしくないのに、六次の家も空き家も今朝掃除をしたかのように美しい。きっと風花が手入れをしてくれていたのだろう。本当に風花には世話になりっぱなしだ。土産を買ってきたが、それだけでは足りないので今後は積極的に銀花を預かったり手伝いをしようと思う。
 したらしたで、何か別のことで怒られそうだが。
 そんな帰国した翌日、昼前。

「ハルトー、大丈夫ー?」
「う、うん! でも山に登るんでしょ? もっと登山の格好した方がいいんじゃない?」

 すっかり秋の景色になっていた山々は美しく紅葉をしているが、山頂はもう葉が落ち始めている。そんな寒さが気になるのか、薄手のコートにデニムパンツ姿のハルトは戸惑いを隠せないようだ。

「平気平気! 意外と近いから!」

 そう言って、手を引っ張った。
 裏山に入り、人の通う道からすぐに獣道に足を進める。秋の実りを体に蓄えた小動物達がたまに顔を覗かせ、それを見つけたハルトは声を上げずに嬉しそうに眺めていた。

「もっふもふだな」
「冬を越すんだもん。丸々太ってないとね」
「この山は実りが豊かなんだな。もっふもふが沢山いる」
「うん、ここら辺は人の手が加えられないようにしているからね。他の山はすぐに育つからって杉を沢山植えたりしたこともあったらしいけど、杉は実りも無いし、背の低い木は光が届かなくて育てない。そうなると食べるものの無い小動物は生きれないし、それを餌にしていた熊とか狐も生きれない。生きるために人の里に出て荒らすんだよ。害獣って言ってる時もあったけど、そうしたのは人だよ。だから、山本来のブナとかそういう木を植える運動もあるらしいよ」
「詳しいな」
「好きだから、山が」

 人間になり、より多くの情報に触れるようになり、考えることが増えた。大切な人、大切なもの、全ての大切を守るためにどうしたらいいか。人間になったから出来ること、それを考えて少しずつ前に進みたいと考えている。
 そんなことを話しているうちに、目的の場所に到着した。

「マジで屋敷があったよ……」
「ね?」

 多分、普通の人間ならば一生かかっても探せないだろう。人間になっても蓮が縁を切らないでいてくれたから、こうして屋敷に辿り着けるのだ。
 驚きで屋敷を見上げたままのハルトに笑いかけ、戸を叩く。するとすぐにぶっきらぼうな声で「どなたですか?」と言いながら見知った顔が出てきた。

「風花! 久しぶり!!」
「!? は!? 六花!? いつ帰ってきたんだよ! ――ッ!!」

 こちらの顔を見て驚きの言葉を吐いた後、ギョッとした顔をして体を扉の外に出してから思い切り玄関の戸を閉めた。
 そして、怪訝そうに後ろのハルトを見てから苦虫を噛み潰したように眉間に皺を寄せた。

「お前、何考えてんだよ。ふざけんな、帰れ」
「ハルトなら大丈夫だよ」
「そう思ってんのお前だけだろ」
「そんなことない!」

 言い争っていると思ったらしく、ハルトは申し訳ない顔をして一歩下がろうとしたので、その腕を掴み引き寄せ抱き締める。

「僕の大切な人だ。蓮様にご挨拶に来ただけだよ」
「それが良くないんだ! わかるだろ!? こいつはここがどんな場所か分かってんのか!?」
「……たぶん、ある程度?」
「多分?! ~~!! 説明してねぇのかよ!!」

 ヒートアップした風花の声が屋敷中に響いていたのだろう。風花の後ろの戸がゆっくりと開いた。

「風花さん、どうしました? ――六花さん!! お帰りなさい!! いつ戻ったんですか? あぁ、貴方が六花さんの想い人ですね?」

 家主である蓮の登場に驚く風花の横を、するりと抜けた蓮はハルトに微笑みかけた。 

「私はこの屋敷の主であり、冬の神のお役目を賜っております、蓮と申します」

 するとハルトは焦ったように腕の中から抜け出て頭を下げた。

「ハルトル・フラプティンソンです。職はフリーライターです。よろしくお願いします。ハルトと呼んでください」

 にこりと微笑んだ蓮は、顔をよく見せてとハルトの頬を両手で包んで顔を上げさせる。数秒視線を交わらせると、満足したように頷いた。

「素敵な瞳ですね。素直で美しく、優しいけれど強さがある。六花さんが惚れてしまうのも頷けます。会いたかったですよ、ハルトさん」

 そう言われたハルトは顔を真っ赤に染めて、小さくありがとうございますと呟いた。
 頬を包んでいた手を離すと、今度は僕とハルトを見比べるように視線を動かし微笑む。

「六花さんも、少し見ない間に立派になりました。何だか肌が焼けましたか? そうだ! 中で恭吾さんと銀花を待たせているんです。お上がりになって下さい、お茶でも飲みましょう! あ! それに今日は天花さんも帰ってくるんですよ! 報告があるらしく……あぁ、それは中で話せばいいですね! とにかく中へどうぞ」

 興奮気味に話をする蓮はとても珍しく、それを無言で見ている風花はまだ苦虫を噛み潰したような表情から変わらず、ハルトのことが気に入らないようだ。
 しかし、これはすぐに解決することでは無いだろう。じっくり理解してもらえれば良い。

「お邪魔します」

 ハルトと共にそう言うと、風花にドンと大きく背を叩かれた。

「イッタ!! 何!?」
「六花もお前も、家族なんだろ。ただいまって言えよ」

 目を瞬かせると、風花はフンと鼻を鳴らして先に玄関に入っていった。微かに見えた耳は少し赤くなっていたような気がする。
 横を見ると、ハルトも驚いたようで目を大きく開いていた。それがこちらに向くと、なんだか嬉しくておかしくて思わず笑いそうになったのを二人で堪える。

「「ただいま!」」




 改めて客間で蓮、恭吾、銀花へ挨拶をする。ほんの少し見ていないだけで、銀花はとても大きくなったような気がした。
 それに銀花はハルトによく懐いた。というよりも、初っ端から挨拶が終わると同時にてちてちと歩いて、何食わぬ顔でハルトの膝に座ったのだ。……こちらに来ると思って差し出してしまった手が、やたらと恥ずかしく困っていたら、風花が大爆笑してその場はとても和んだので、まぁ良しとしようと思う。
 その後も、蓮はハルトに様々なことを聞いていた。この山でずっと暮らしている蓮にとっても、やはりハルトの話は面白いのだろう。出逢った頃の質問攻めの自分自身を見ているようで、少しだけ恥ずかしい。
 そして、その後すぐに天花と華月も合流した。久しぶりの再開を祝い、その夜は宴会をすることになった。
 その準備を……何故か風花とハルトでしてくれたのだけれど、そこで問題が勃発した。

「六花にハルトは勿体ないよ」
「えぇ……何、突然……」

 乾杯をしてすぐ、神妙な顔で風花が言ってきたのだ。

「良い子過ぎんだよ!! なんなの!? 蓮様が神なのも、俺らが鬼なのも知ってたんだろ!? それなのに、家族になれて嬉しいっていうんだよ!? それに料理も出来るし、銀花のあやし方も上手いし、遊んでサボることばっかり考えてた六花には勿体ない!!」
「……えぇ、風花酔ってんの?」
「酔ってない!!」

 風花は決して酒に弱くはないので、本当に酔っていないのだとしたら本心で言ってくれているのだろう。どう返そうかと思案していると、フフッとハルトが笑った。

「ありがとう、風花。オレは兄弟がいないから、仲良くなれて嬉しいよ! それに天花さんと華月さんも」
「あぁ、私達も敬称は付けなくて結構ですよ」
「じゃぁ、天花と華月。二人にも会えて嬉しい! 凄いな。六花は家族がいるって言うけどずっとあの屋敷に一人だったし、本当は一人なのかと思ったこともあったけど、こんな素敵な家族が沢山いるなんてなー」

 本当に嬉しそうに笑うハルトに、皆が優しく微笑んだ。

「六花も、ハルトも、もちろん天花も華月も。ここに居る全員が、みんな家族だからな」
「……恭吾?」

 恭吾がこういう場で、こんなことを口にするのはとても珍しく、ハルトに集まっていた視線が一気に恭吾に向けられる。それに驚いたのか、恭吾は飲み干したお猪口を持ったまま両手を振った。

「あ、いや!! ほら!! 俺も後から家族になったろ? えーっと……家族ってあんまりよく分からなかったけど、俺にとって何よりも大切なのはここにいる皆だから。華月も色々あったし? 六花が屋敷を出る時も、ハルトのことも、色々あったし、これからも色々あると思うんだよ。でも、ずっと家族だから。絆は無くならないし切れないと思っただけ!! あーもう! 恥ずかしい! 六花、飲もう!!」

 耳まで真っ赤な恭吾を蓮が嬉しそうに見つめてから、ほら飲みましょうとお酌をする。それに合わせて再び乾杯をした。



 もう明け方近い時間。ようやく皆が寝静まり、厠に行ってから部屋に戻る。 

「先に寝てて良かったのに」

 縁側に座っていたハルトに声をかけると、寝れなくてと空を見上げた。隣に座り、同じように空を見上げた。東の空が白んで来て、月がその光を弱めているが変わらず美しく輝いている。

「六花がさ、いつもまともに説明もしてくれなかった理由が分かったよ」
「うん」

 家族に合わせると言った時、ハルトは事前に情報が欲しいと言ってきた。しかし、会えばわかるから。とこちらから説明はしなかった。
 ただハルトから聞かれた時に、嘘はつかなかった。なので親は神様なのかと聞かれればそうだと答えていたし、兄弟は鬼かと聞かれれば、そうだけれど今は僕だけ人間だと返事をしていた。

「蓮さんは神様なのにかしこまってないし、恭吾さんはなんかこう、お兄ちゃんって感じだよな」
「うん」
「天花と華月はお互い大好き過ぎて、なんか面白かった」
「そうそう」
「風花は口が悪いけど良い奴だな。苦労性だろ?」
「当たり」
「銀花は可愛い。神様と人間のハーフってことになるのか?」
「いや、恭吾は蓮様の命を貰って、その後に銀花が産まれてるから、銀花は純粋な神様だよ。蓮様は冬の神様だから、冬に関わる何かの神様なんだろうけど、今は幼いからそれが何かは分からないんだって」

 そう言うと、ハルトはこちらの肩に頭を寄せてきた。そっとその頭を引き寄せる。

「六花が子供達に話してたのは、全部本当の話?」
「そうだよ。僕の大切な家族の話」
「いつかさ、冬の神様の昔話が出来たりしたら、オレも出演するかな?」

 少し期待をしたような上目遣いに、危うく欲情してしまいそうになりつつ、軽い口付けで応える。

「鬼子に惚れられた、美しい人間って出ると思うよ」
「……その後にちゃんと、神様達の家族に迎えられましたって、なるよな?」
「もちろん。人間として鬼とは違う命の長さでも、家族として幸せに暮らしました。それが僕達のエンドロールに書かれるはずだよ」
「そしたら、もっともっと……幸せに……ならないとな……」

 引き寄せている頭が重くなったので、顔を覗く。どうやらハルトはすっかり眠ってしまったようだ。
 長いフライトの後、日本に来てから軽い片付けをして、すぐに山を登って神様に、家族に会って……。疲れきったのだろう。
 ハルトを抱え、まだ微かに残る月明かりに背を向けて立ち上がる。

「ゆっくりおやすみ、愛してるよ」

 そう言うと、ハルトの頬がふんわりと緩んだように見えた。



 翌朝、起き上がると隣の布団にハルトは居なかったら。あくびをしつつ乱れた寝間着のままで、ハルトを探して屋敷の中を彷徨く。

「えええええぇぇぇぇ!?」

 屋敷中に響くような複数の人の声が響き渡り、ビクリとして足を止める。今の声にハルトのものも混じっていた。

「!? ハルト――!!」

 声は居間の方角から聞こえた。走って居間へ向かい、声もかけずに襖を思い切り開ける。

「ハルト!! どうしたの!?」

 朝餉中らしく、見慣れた顔が揃って膳を囲んでいた。

「……ハルト??」
「あ。おはよう、六花。まだ寝てれば良かったのに」

 ハルトの後に蓮がおはようございますと言ったので、慌てて膝を着いて頭を下げる。

「おはようございます」

 すると、後ろから同じように走る音が聞こえた。

「天花!!」
「華月、おはようございます。まだ寝てらして良かったのに」
「いやいや!! 天花! どうした!! 叫んでただろ!?」

 寝間着の夫が二人。嫁の声に焦って乱れたまま走って同じ言葉を繰り返す……なんとも滑稽な格好に、恥ずかしくなってきた。穴があれば入りたい。
 皆も同じことを思ったらしく、くすくすと笑い出す。

「いや、俺も人のこと言えないけどさ。旦那さん達、落ち着けよ」

 恭吾が笑いを堪えきれず、震えた声を出す。

「でも、ハルト。さっきの声は?」
「あぁ、天花が妊娠したんだって。おめでたいよな!!」
「……は??」

 さらりと言ってのけたハルトは、味噌汁を啜る。その音が妙に大きく感じられた。

「風花の味噌汁、マジで美味しいな。出汁が違うのか?」
「え、……あぁ。天狗の里から届いたものだけど、持ってく?」
「いいのか!?」
「風花、それはこの屋敷で使ってください。ハルトさんへは新しいものを天狗の里から届けますよ」
「マジ!? 嬉しい! でも、天花が持ってくるのは無しな。生命が宿ってるなら無理は禁物。適度に運動は必要だけどさ」

 妙に落ち着いたハルトの行動に、皆が呆気に取られているので、わざとらしく華月を見上げる。

「報告ってコレ?」
「お、おう」
「なんで昨晩言わないのさ」
「いや、だってハルトが来たから、明日で良いって天花が」

 そんな話をしていると、何か話がまとまったらしく、嬉々とした表情のハルトが声をかけてきた。

「なぁ!! 六花!! 天狗の里に行っていい?! 天花が台所見せてくれるって!!」
「ふぇあ?!」

 思わずでた変な声は誰も気にせず、ハルトは天花といつ頃が良いかという話を始めてしまっている。チラリと再び華月を見ると、ほんの少し首を振った。どうやら、天狗の里で天花はのびのびと生活しているようだ。

「お前の嫁は……凄いな……」
「いや、天花もここにいた頃より凄いよ」

 その後、旦那である華月と僕、そして恭吾は口出しも出来ず、ただ嫁達と風花がお腹にいる赤子の話と今後の楽しそうな計画をただ眺めるしかなかった。
 しかし、それを悪いとは思わない。
 一人だった蓮が鬼の子を連れ帰り四人に、恭吾が増え五人、そして天花と僕は抜けたように見えたけれど、それはただ華月とハルトが加わっただけで、さらに蓮にも天花にも赤子が出来たのだ。

「まだまだ家族が増えそうだな」

 嬉しそうな恭吾の声に、なんだか泣きそうになりつつ、心の底から溢れる想いを口にした。
「幸せだね」と。
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