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0.序
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六花とハルトの出来事から十年が経った。相変わらず二人は仲が良く、海外と日本を飛び回る生活をしている。しかし、夏の祭りの時期から冬までの期間は集落での役割が多いので、一年の半分以上は日本で過ごしている。なので、寂しいと思うことは無い。
それと歳を重ねる二人は、重ねる毎に絆を深めているようで、なんだか人間らしいと思うことが増えた。それを微笑ましく思えるようになったのは、自身の成長だと思う。
天花は無事に華月との子を産み、天花そっくりの見た目なのだけれど中身は華月……という破天荒な紅月という美しい男児に恵まれた。天狗の長と神使の子で期待も大きかったけれど、その期待以上の妖力を持ち紅月は産まれてきた。
妖達はそれを天狗だけではなく妖の発展の吉兆ととらえ、祝いは何年も続いていた。落ち着いたのはここ数年ではないだろうか。
そして幼かった銀花は十一になり、蓮にそっくりの顔立は美しさゆえに雪も恥じらい溶けるほどだ。礼儀正しく、素直で純粋。しかし、柔和な所もあり、たまに悪戯をするのは六花の影響だろう。
愛らしくて堪らない、可愛い可愛い弟だ。
最後に、蓮と恭吾。言わずもがな、今も変わらず互いを想い合う素晴らしい夫婦だ。すぐに銀花の弟妹が産まれるかと思ったけれど、今はまだその傾向は無い。二人もこの先、何十年……何百、何千年生きるか分からないので、焦りや不安はこれのぽっちも無いのだろう。
「風花さん、どうしました?」
「え? なんですか?」
何故か満面の笑みを浮かべた蓮は、幸せそうでしたよと優しく伝えてくれた。それを聞いていた六花が顔を覗き込んできたので、思い切り手のひらを顔に押し付けてやった。
「なんでもないんです! ほら銀花。次は何食べたい?」
「お餅の入ったやつがいいです!」
「餅巾着だな? んー、あと野菜も」
「……はい……」
鍋からお椀に野菜もてんこ盛りにされ、銀花は少し唇を尖らせた。
「この時期の野菜は貴重なんだぞ?」
「分かってます! でも、それと食べたいかは別の話です……」
年が明けて約二週間、大寒波に見舞われた日本列島でこの集落のある山々も凍えるような寒さの日が続いていた。
六花とハルトも毎日、朝昼夜と関係なく集落のあらゆる場所から雪かきの手伝いを頼まれている。集落で除雪車を購入したり、融雪剤を撒いたり、主要道路には地面に温泉を通したりもしているが、それでも積もってしまうほどだ。
蓮が少しでも抑えられればと冷気を溜め込みもしたけれど、大陸から来る極寒の空気に四季神も太刀打ちが出来なかったのだ。
「いつまで降りますかね……」
ふと蓮が申し訳なさそうに呟いたので、恭吾がそっと肩を抱いた。
「心配するな。ここら辺の集落の人は元々雪には慣れているから。それに今年は雪が多く降るって蓮が言ったから、メディア関係の天狗達がかなり注意喚起してくれてたらしいし」
「そうそう! 蓮さんのおかげでネットでも毎日、冬の対策をいっぱいしてくれって言ってたしな!」
鍋からおかわりをお椀に移しながらハルトが満面の笑みで言うと、蓮はそうですねと少し安心したように微笑んだ。
しかし、その表情はすぐに消えて真顔になる。
「蓮様、どうかされましたか?」
「蓮? どうした?」
キョロキョロと辺りを見回して、落ち着かない様子の蓮が立ち上がる。こんなことは今まで一度もない。
「母上?」
不安そんな銀花が蓮の着物の裾をそっと掴んで引っ張った。しかし、蓮はそれにすぐには気付かず、銀花が二回目の声掛けをした時にハッとしたように顔を向けた。
「!? あ、あぁ。銀花さん、ごめんなさい。えっと……」
「言い難いか? 悪いことか?」
心配と不安を隠しきれない恭吾が立ち上がり、先程よりも優しく包むように蓮の肩に手を添えた。その手に蓮は手を添えて握った。
「赤子が産まれたようです」
「……!? は!?」
全員が固まってしまい、その意味を理解しようとしている中で、恭吾は蓮の腹に手を当てた。
「に、に、妊娠してたか!? いや、でも銀花の時はちゃんと腹も大きくなったし産気づいたし、え!?」
「あ、え!? ち、違います違います!! 私じゃなくて、いえ、でも私の子……かな?」
「ど、どういうことだ!?」
「蓮さんが産んだ子じゃないけど、蓮さんの子ってこと?」
叫ぶ恭吾と混乱する家族の中で、ハルトだけは既に落ち着いたようにモグモグと鍋を食べ始めた。その様子は肝が座っているという次元ではないのではと思えてしまう。
「そうです。神様が……産まれたみたいです」
「へぇー! 凄いね!! どこで?」
「湖……かと」
「じゃぁ、行ってみようか!」
箸を置いてハルトが立ち上がり、上着を着る。その様子をぽかんと見ているこちらに気付いたハルトは、不思議そうに首を傾げた。
「皆、行かないの? いくら鬼でも、この雪ならスノーブーツの方が歩きやすくない?」
「――!! なんでそうハルトは落ち着いてるんだよ!!」
「えぇ、だって風花。皆といると不思議が何個あってもおかしくないから、何でも受け入れられるよ うになっただけだけど?」
その言葉に、蓮も含め全員がハルトが一番強いのかもしれないと思ったのだった。
それと歳を重ねる二人は、重ねる毎に絆を深めているようで、なんだか人間らしいと思うことが増えた。それを微笑ましく思えるようになったのは、自身の成長だと思う。
天花は無事に華月との子を産み、天花そっくりの見た目なのだけれど中身は華月……という破天荒な紅月という美しい男児に恵まれた。天狗の長と神使の子で期待も大きかったけれど、その期待以上の妖力を持ち紅月は産まれてきた。
妖達はそれを天狗だけではなく妖の発展の吉兆ととらえ、祝いは何年も続いていた。落ち着いたのはここ数年ではないだろうか。
そして幼かった銀花は十一になり、蓮にそっくりの顔立は美しさゆえに雪も恥じらい溶けるほどだ。礼儀正しく、素直で純粋。しかし、柔和な所もあり、たまに悪戯をするのは六花の影響だろう。
愛らしくて堪らない、可愛い可愛い弟だ。
最後に、蓮と恭吾。言わずもがな、今も変わらず互いを想い合う素晴らしい夫婦だ。すぐに銀花の弟妹が産まれるかと思ったけれど、今はまだその傾向は無い。二人もこの先、何十年……何百、何千年生きるか分からないので、焦りや不安はこれのぽっちも無いのだろう。
「風花さん、どうしました?」
「え? なんですか?」
何故か満面の笑みを浮かべた蓮は、幸せそうでしたよと優しく伝えてくれた。それを聞いていた六花が顔を覗き込んできたので、思い切り手のひらを顔に押し付けてやった。
「なんでもないんです! ほら銀花。次は何食べたい?」
「お餅の入ったやつがいいです!」
「餅巾着だな? んー、あと野菜も」
「……はい……」
鍋からお椀に野菜もてんこ盛りにされ、銀花は少し唇を尖らせた。
「この時期の野菜は貴重なんだぞ?」
「分かってます! でも、それと食べたいかは別の話です……」
年が明けて約二週間、大寒波に見舞われた日本列島でこの集落のある山々も凍えるような寒さの日が続いていた。
六花とハルトも毎日、朝昼夜と関係なく集落のあらゆる場所から雪かきの手伝いを頼まれている。集落で除雪車を購入したり、融雪剤を撒いたり、主要道路には地面に温泉を通したりもしているが、それでも積もってしまうほどだ。
蓮が少しでも抑えられればと冷気を溜め込みもしたけれど、大陸から来る極寒の空気に四季神も太刀打ちが出来なかったのだ。
「いつまで降りますかね……」
ふと蓮が申し訳なさそうに呟いたので、恭吾がそっと肩を抱いた。
「心配するな。ここら辺の集落の人は元々雪には慣れているから。それに今年は雪が多く降るって蓮が言ったから、メディア関係の天狗達がかなり注意喚起してくれてたらしいし」
「そうそう! 蓮さんのおかげでネットでも毎日、冬の対策をいっぱいしてくれって言ってたしな!」
鍋からおかわりをお椀に移しながらハルトが満面の笑みで言うと、蓮はそうですねと少し安心したように微笑んだ。
しかし、その表情はすぐに消えて真顔になる。
「蓮様、どうかされましたか?」
「蓮? どうした?」
キョロキョロと辺りを見回して、落ち着かない様子の蓮が立ち上がる。こんなことは今まで一度もない。
「母上?」
不安そんな銀花が蓮の着物の裾をそっと掴んで引っ張った。しかし、蓮はそれにすぐには気付かず、銀花が二回目の声掛けをした時にハッとしたように顔を向けた。
「!? あ、あぁ。銀花さん、ごめんなさい。えっと……」
「言い難いか? 悪いことか?」
心配と不安を隠しきれない恭吾が立ち上がり、先程よりも優しく包むように蓮の肩に手を添えた。その手に蓮は手を添えて握った。
「赤子が産まれたようです」
「……!? は!?」
全員が固まってしまい、その意味を理解しようとしている中で、恭吾は蓮の腹に手を当てた。
「に、に、妊娠してたか!? いや、でも銀花の時はちゃんと腹も大きくなったし産気づいたし、え!?」
「あ、え!? ち、違います違います!! 私じゃなくて、いえ、でも私の子……かな?」
「ど、どういうことだ!?」
「蓮さんが産んだ子じゃないけど、蓮さんの子ってこと?」
叫ぶ恭吾と混乱する家族の中で、ハルトだけは既に落ち着いたようにモグモグと鍋を食べ始めた。その様子は肝が座っているという次元ではないのではと思えてしまう。
「そうです。神様が……産まれたみたいです」
「へぇー! 凄いね!! どこで?」
「湖……かと」
「じゃぁ、行ってみようか!」
箸を置いてハルトが立ち上がり、上着を着る。その様子をぽかんと見ているこちらに気付いたハルトは、不思議そうに首を傾げた。
「皆、行かないの? いくら鬼でも、この雪ならスノーブーツの方が歩きやすくない?」
「――!! なんでそうハルトは落ち着いてるんだよ!!」
「えぇ、だって風花。皆といると不思議が何個あってもおかしくないから、何でも受け入れられるよ うになっただけだけど?」
その言葉に、蓮も含め全員がハルトが一番強いのかもしれないと思ったのだった。
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