【R18.BL】愛月撤灯

麦飯 太郎

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1.誕生

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 集落の中でも比較的山側にある六花とハルトの家だけれど、そこから更に裏山を登り続けて一時間。ようやく湖に到着した。

「流石に雪で足元が悪すぎたね」

 本来なら半分位で到着出来るが、人間の六花とハルトに合わせているので仕方ないだろう。特にハルトは運動神経が皆無なのかと言うほどだ。途中で何度も雪に足を取られて転けていたが……こんなのでよく海外でやっていけていると思うが、本人は笑いながら運がいいからと言っていた。
 多分、本当に運がとてつもなく良いのだろう。
 ふぅと息を吐くと、それはすぐに白く凍りつきそうだ。

「ハルト、寒くない?」
「うん。大丈夫だよ。歩いたから暑いくらいだよ。六花こそ、大丈夫?」
「僕は元々寒さには強いから」

 イチャつく二人のやり取りを見て、またかと思いつつ蓮に顔を向ける。すると、蓮は凍った湖の上に迷いなく乗った。

「蓮! さすがに危ないぞ」
「恭吾」

 心配そうに手を出した恭吾の袖を掴む。大丈夫だと伝えるように首を振ると、同じように銀花が恭吾の袖を掴む。
 自然と五人で蓮の様子を見守った。
 滑るようにゆっくりと、蓮は木々の無い湖の中心に立つ。そこに月光が射し込んだ。
 思わず息を呑んだ。
 美しいという言葉では足りない。この世の全ての美を称する言葉を集めても、今の蓮には適わないだろう。
 淡く優しい月光を浴びた蓮は、氷に膝をつけて湖に両手を伸ばす。スルリと吸い込まれるように指先が消え、手も吸い込まれる。そして、その両手がゆっくりと引き上げられた。

「蓮……」
「母上、凄い……」
「え、マジ?」
「蓮様、綺麗だね」
「――!! ――!?」

 各々が感嘆と驚愕の声を出している中で、自分だけが声を失っていた。何故なら、蓮のその両腕には二人の赤子が抱かれていたからだ。
 そして、二人の赤子を抱いて立ち上がった蓮は、まるで慈愛の神のような笑みを浮かべていた。


 赤子をそのままにするわけにはいかず、恭吾と六花がそれぞれを抱いて山を降りる。蓮の屋敷でも良かったのだけれど、赤子の銀花を世話をしていた頃の道具は六花の家の納戸に置かせてもらっていたので、そちらに行くことになったのだ。
 家に戻ってから、産湯を済ませ、銀花が使っていた着物を着せ、慌ただしい時間がようやく終わる頃には夜中になっていたので、銀花はこたつで眠ってしまった。

「布団敷いてあるので、寝かせてきます」
「ありがとう、風花さん」
「いえ」

 そっと銀花を抱き上げ、廊下に出る。
 寒さで起きてしまわないように、自身の羽織を広げて包み込む。以前はスッポリと羽織に入っていた銀花だけれど、今ははみ出てしまう。

「立派になったなぁ」

 大きくなったけれど、まだまだあどけない寝顔に思わず頬が緩む。
 部屋に到着してからも、急いで布団に寝かせる。

(銀花は冬の神である蓮様の子だし、俺らもだけど、温もりを求めなくて良いのは楽だよな)

 吹雪の中で寝泊まりしても死ぬことは無い。しっかりと羽毛布団をかけてやるが、しかし、暖房は一切無い。
 それでも布団に入ると心地良くなれるのは、包まれているからだろうか。

(……)

 銀花の頭を撫でつつ、ふと自身の心に何か変化が起きたことに気がついた。

(……なんだ?)
「ん、うーん」
「! 寝言か。ゆっくり寝ろよ」

 撫でていた頭から手を離し、布団をかけ直して部屋を後にしたのだった。
 

 居間に戻ると、六花とハルトが産まれたばかりの赤子を抱っこしていた。

「風花!! おかえり!」

 元気よく迎えてくれたハルトに、思わず笑いそうになりながら襖を閉める。

「ありがとうございます、風花さん」
「いえ、グッスリでしたので」

 風花の言葉に蓮が頬を緩めた。労いもあるその表情が、とても好きだ。
 更に、こたつに入ると恭吾が温め直した鍋をよそってくれた。ホッと心が落ち着く瞬間だ。

「見てみて! 二人ともそっくりなんだよー」

 トロトロになってしまった白菜を口に含み、ハルトと六花が抱っこしてる双子を見る。
 確かに瓜二つだ。新生児ではなく、見た目は生まれて一ヶ月ほどだろうか。白くムチムチとした柔らかさが触れなくても伝わってくる。丸く愛らしい頬が人懐っこさを表しているようだ。
 それに何より特徴的なのは、双子の髪の毛は晴天の青空を映した湖の水面のように美しい青色だ。蓮や恭吾、そして身近な人間も大体髪は黒だったので、こんなにも薄い色の子は珍しい。
 では見分けがつかないかと言うと、双子の決定的な違いがあった。瞳の色だ。
 一人は黒目、もう一人が灼熱のような赤目だ。

「随分個性的だよね」
「そうだな」
「風花はあまり赤子に興味がない?」

 首を傾げるハルトに、思わず焦ったようにそんなことないと返事をする。

「ほ、ほら腹が減ってたんだよ! 赤子は可愛いと思うよ! うん!!」

 無意識に遠ざけようとしていたことを自覚し、身体が強ばる。焦って、顔を蓮の方に向けて赤子から目を逸らす。

「あの、蓮様。この子達は本当に神様なんですか? 妖ではなく?」
「神ですよ。間違いありません」
「そ、うですか」

 一瞬の沈黙で、その場の全員が今後どうするべきかと頭の中で思案しているのだろう。
 通常ならば、神使である自身が面倒をみるのだろう。しかし、自身は既に神の子である銀花の世話係だ。以前ならば、天花や六花と役割分担が出来ていたが、今は全て自分一人で担っている。
 六花とハルトの手を借りることも出来るが、彼らは三月から七月中頃までは仕事の関係で海外にて活動をしている。七月末の夏祭り頃に帰ってきて翌年二月末までしか日本にいない。更に、十月の神無月は蓮と自身も出雲へ一ヶ月行くことになる。その間の屋敷の管理と銀花の世話を任せていた。

(六花達には……これ以上負担はかけさせられない)

 彼らも日本に遊びに帰ってきている訳ではなく、冬は集落の手伝い等々で忙しくなり、その準備を秋にするのだ。
 沈黙が過ぎる。
 すると不意に襖が開き、銀花が入ってきた。

「おや、銀花さん。眠れませんでしか?」
「うぅん。寝てたけど、起きてしまって……」
「そうか。こっちにおいで」

 蓮と恭吾の間に入った銀花を見て、この三人の為なら何でも出来ると思わず頬を緩める。

「あの。僕、華月様のところで勉強したいです」

 その言葉に誰もが衝撃を受けたが、誰よりも驚いてしまい、落としそうになったお椀を慌てて机に置く。

「そんな! まだ早いです!! 俺が教えられることだってまだ」
「それもいいですね」
「!? 蓮……さ、ま?」

 反対すると思っていた蓮が同意した。ならば神使の自身は従うしかないじゃないかと臍を噛む。
 赤子の世話をしたくないわけじゃない。ただ、……ただとても悔しかった。それが何から来る感情かはよく分からないが、悔しくて悲しい。

「俺では……不足、ですか?」

 泣かないように、至って冷静に言葉を出したつもりだけれど、喉は引き攣り、詰まったように質問をしてしまう。

「風花さん……そうではありませんよ。銀花も、もう十を超えました。そろそろ、同年代……というのは神として変なのかもしれませんが、同じ年頃の子達と関わりを持つのも大事だと恭吾さんと話していたのです」
「……」
「決して、風花さんが頼りないとか、そういうわけではありませんよ」
「……はい」

 そっと銀花が立ち上がり、隣に座って手を握る。

「わがままを言ってごめんさい。風花から学びたくないとかじゃないんです」

 こんなにも気を使ってくれている銀花に、今更ながら申し訳なくなってきた。自分が思っている以上に成長している銀花を、目の届かない場所に行かせたくない気持ちが勝ってしまいそうだ。
 その気持ちを無理矢理飲み込み、笑顔を作って優しく頭を撫でてやる。

「いや、突然でびっくりしたんだ。天狗の里なら安心だな」

 ほっとしたような空気が流れ、少しだけ息を吐く。

「さて、では早速天花さんに連絡しましょう。あぁ、そうだ。この子達の名付けは風花さんにお願いしたいです」
「え? なぜですか?」
「それが良いと思ったからです」

 ふんわりと微笑む蓮の言葉にもう何も言えず、ただ頷くことしか出来なかった。
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