【R18,BL】雪月花時最憶君

麦飯 太郎

文字の大きさ
9 / 18

9、遊戯と不安

しおりを挟む

***

 新しい朝が来た。

 足の骨はヒビだけだったようで、今では杖があれば自由に動けるほどに回復し、食事は部屋ではなく三つ子と共に広間で摂るようになっていた。
 豪華ではないが、充分に栄養の取れる食材は山から調達することが多いそうだ。質素だが彼らの味付けは、日本人の舌に合う。

「俺もそろそろ料理しようか?  っつても、たいしたもの出来ないけど……」
「いえいえ!  それでは僕達がこの屋敷にいる意味が無くなってしまいます!  蓮様に引き取って頂いたのは、屋敷を任されたこともあるので……」

 天花は遠慮しているわけではなく、本当に自分達の仕事としてやっているのだと言って来た。

 彼らの仕事を奪ってまで作りたい料理もなく、手伝えることがあれば言ってくれと伝えるとにこりと笑ってその時がありましたらと丁寧に断られた。
 すると、珍しく風花が提案をしてきた。

「お手伝いもいらない。でも、終わったらあの板で遊んでみたい」
「板?」
「恭吾の足に付いてた、あの綺麗な色の長い板」
「あぁ、ボードか。良いけど……楽しいか分からないぞ?」
「僕も!  僕も遊ぶの!」

 便乗するように、六花が立ち上がって手を上げた。
 スノーボード本来の楽しみ方は出来ないにしろ、上に乗せて少し滑るくらいなら大丈夫だろう。それに、吹雪の中でかくれんぼうをするような子供だ。多少のことでも笑って楽しんでくれそうだ。

「じゃぁ、四人で遊ぶか!」

 そう言うと、彼らはいつもより速いスピードでご飯を食べて、片付けを終わらせた。子供の遊戯への貪欲さを、まだ恭吾は知らなかったのだった。


 ボードは始めて来た日に無理矢理剥ぎ取って以来だったので、エッジの部分が大分錆びてしまっている。
 手入れをきちんとしていれば、ここまでならなかったのにと少し後悔したが、命があっただけ良しとしようと諦めがつき、ただの板として子供の遊び道具にすることにした。

「いいか?  この板は端の部分、ここに触ると肌が切れる。血が沢山出るから、絶対に素手で触るなよ?  必ず手袋をすること。いいな?」
「はい!」

 三人はこくんと頷き、いい返事をした。

「これってどうやって遊ぶの? 恭吾は足につけてた」
「あぁ、これは大人の一人用だ。お前達は同じようには遊べない。だから、ほら天花来いよ」

 ひょいと天花を持ち上げて、ボードの真ん中に乗せる。

「座って、このビンディ……この黒いのをしっかり両手で握るんだ。そして後ろから押す!」

 思い切って天花の背中を押すと、フワフワのパウダースノーの上をボードが勢い良く滑る。きゃーと子供の叫び声を上げた天花はボードが止まってもキャッキャと笑い続けていた。

 その様子をキラキラした目で見ていた二人は、僕も僕もと天花の元に駆けて行き三人でボードを押して戻って来た。六花と風花はどちらが先に乗るか揉めていたが、公平にじゃんけんで決めさせる。
しばらくは恭吾が背中を押して遊んでいたが、さすがに長時間はまだ立つのが厳しかったようで徐々に足に痺れを感じてきた。
 だが、三つ子は押してくれとせがむので無理をしてそれに答える。
 新しい遊びを知った子供の同じ事を繰り返す貪欲さは底知れず、昼を跨いでも遊び続けた。

「こらこら、そんなにしては恭吾さんの足に負担がかかってしまいますよ」

 いつから見ていたのか、蓮は縁側に茶を用意して座っている。

 まだ遊び足りないという六花に子供達だけで遊んできなさいと伝え、蓮がポンポンと床を叩き恭吾に自分の隣に座るようにと言う。

 足の限界と遊びに付き合い続けた疲れもあって、その言葉に甘えた。

「あの子たち、遊び始めるときりがないのですよ。見た目は子供でも、もう大人の精神でもおかしくはないのですが……自由にさせ過ぎた私の責任でしょうね」

 互いに背中を押し合って遊んでいる鬼の子を、反省の色を含めて苦笑いする蓮が本当の親のように見える。

「私が彼らを引き取ったのは、屋敷の雑用を任せると名目を立てていますが……本当は私が寂しかったのだと思います」

 答えや慰めを求めているわけでは無さそうなので、黙って蓮の用意した暖かい茶に口を付けた。

「一人でもなんとかやっていけたのですが、寂しさに耐えられないこともありました。夜は特に、人気の無い屋敷と言うものが広く感じてしまうものです」

 その気持ちを恭吾は理解できた。

「ですので、彼らを引き取り育てることにしたのです。一人より二人、三人の方が、子供も寂しくないだろうと思っていた時、丁度三つ子の捨て子に困っているという情報を得ました。私に引き取らせるのは……と先方は迷っていたようですが、三つ子を一気に引き取るような方も他に居ないので押し切るように連れてきたんです」
「蓮の性格で押し切るって想像できないな」

 素直な感想を伝えると、そうですか? と蓮は笑った。

「連れてきて、彼らに愛情を注げば注ぐほど甘やかすだけになっていたようですね。……私、自分の欲には結構……強引なんですよ?」

 その言葉と魅惑的な微笑みにドキンと胸が跳ねる。気付かなかった、無かったことにしようと恭吾は自分の身の上話をすることにした。

 ゆっくりと眼鏡を外す。少し視界がぼやける方が、話をしている時や考え事をする時に都合がいい事を恭吾は幼い頃から知っていた。

「俺は、親の顔を知らない。事故死だったらしい。それで、幼い頃に引き取られた親戚の家には俺と同い年の女の子が居たんだ。十歳位までは楽しかったんだが、親が違うと分かった時から距離を感じるようになった」

 蓮は話を聞きながら、新しい茶を淹れてくれる。

「親戚の叔父さん達はいい人だったけど、俺の居場所がなくてさ。高校卒業直前から……十八歳位から一人暮らしを始めたんだ。こんなでかい屋敷じゃない、風呂も無い小さなボロアパートでさ。まぁ、今もそこに住んでるんだけど、一人って寂しいんだって始めて知ったよ」
「……同じですね」
「そうだな、まぁ、違うのは今の蓮は一人じゃないってことだよ。天花も風花も六花も、ガキだけどしっかりしてる」
「ですが、いつか居なくなる」

 沈黙が流れた。確かに、三つ子がいつまでもこの場所にいるとは限らない。だが、蓮がそれを言葉に出すとは思わなかったのだ。いつも優しい笑顔の蓮の表情が曇る。

「まぁ、そうだな。でも、心まで一人ってわけじゃないだろう? あいつらは蓮にかなり感謝してる、俺だって救ってくれたことに感謝してる」

 元気付けたつもりは無かったのだが、ありがとうございます といつもより少し小さな声で返事をした蓮の心の闇を垣間見た気がした。


 夕食の準備を忘れ遊び呆けていた三つ子の変わりに、蓮と恭吾は共に料理を作った。
 一人暮らしで自炊をしていたが、現代の調味料が無いと料理がこれほど手間隙をかけるのかと驚き、感謝の念が増した。

 三つ子は準備をしなかった事を大いに反省したようだが、次は時間を決めて遊ぶのだとボード押しが随分気に入った様子だった。だが、やはり疲れていたようで彼らは早々に寝床へ潜り込み寝息を立てている。

「あーぁ、もう寝てるよ」
「あれだけはしゃいだのですから、仕方ありませんね」
「やることも無いし、俺らも寝るか」

 まだ早い時間だったが、恭吾も久しぶりの運動に疲れを感じていた。
 せっかく二人になれたのだから、蓮にあれこれと聞きたいこともあったがまだ麓に降りれるほど体力が回復していないと実感したので、機会があるのだから、また後日でも良いだろうと思った。

「そうですね、ではまた」

 そう言って廊下を互いに背を向けて歩く。部屋が屋敷の端同士ということもあり、徐々に蓮の気配が薄れる。普段なら気にしないその気配が離れることが、今日はとても寂しく感じられた。

 三つ子は疲れていたはずなのに、しっかりと恭吾の布団を敷いてくれていたので、すぐにその中へ入る。

 蓮と縁側で話した言葉を思い出す。

 一人でずっとこの屋敷で暮らしていたのだろう。三つ子が来たのはいつの頃なのだろうか、蓮は子供を引き取らせるのに迷うよう存在なのだろうか。そもそも、何故蓮は一人なのだろうか……。

 同じような疑問が浮かんでは消え、徐々に瞼が重くなる。

 意識が落ちると思った頃には、既に自然な寝息を立て始めていた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

吊るされた少年は惨めな絶頂を繰り返す

五月雨時雨
BL
ブログに掲載した短編です。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

鎖に繋がれた騎士は、敵国で皇帝の愛に囚われる

結衣可
BL
戦場で捕らえられた若き騎士エリアスは、牢に繋がれながらも誇りを折らず、帝国の皇帝オルフェンの瞳を惹きつける。 冷酷と畏怖で人を遠ざけてきた皇帝は、彼を望み、夜ごと逢瀬を重ねていく。 憎しみと抗いのはずが、いつしか芽生える心の揺らぎ。 誇り高き騎士が囚われたのは、冷徹な皇帝の愛。 鎖に繋がれた誇りと、独占欲に満ちた溺愛の行方は――。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。 漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。 陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。 漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。 漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。 養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。 陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。 漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。 仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。 沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。 日本の漁師の多くがこの形態なのだ。 沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。 遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。 内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。 漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。 出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。 休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。 個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。 漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。 専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。 資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。 漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。 食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。 地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。 この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。 もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。 翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。 この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

平凡ワンコ系が憧れの幼なじみにめちゃくちゃにされちゃう話(小説版)

優狗レエス
BL
Ultra∞maniacの続きです。短編連作になっています。 本編とちがってキャラクターそれぞれ一人称の小説です。

スライムパンツとスライムスーツで、イチャイチャしよう!

ミクリ21
BL
とある変態の話。

男の娘と暮らす

守 秀斗
BL
ある日、会社から帰ると男の娘がアパートの前に寝てた。そして、そのまま、一緒に暮らすことになってしまう。でも、俺はその趣味はないし、あっても関係ないんだよなあ。

処理中です...