【R18.BL】水光接天

麦飯 太郎

文字の大きさ
19 / 21

18.家族

しおりを挟む
 翌朝、天花と華月はそっと居間の襖を開く。
 既に太陽が登りきった昼過ぎなので、皆がそれぞれ寛いで茶を飲んでいた。

「お、おはようございます」
「おはよう、天花さん」

 いつもと変わらない蓮に天花は余計に居心地の悪さを感じたが、華月は気にせずに居間に入る。

「天花……お前なぁ……」

 呆れる風花に天花は視線を逸らした。

「ご、ごめん。寝坊した。それに夕食も」
「違うって。飯も寝坊も別にいいんだ。それより、首、痕」
「首……??」

 風花がちょいちょいと自身の首を指した。同じ場所を、天花が撫でるとピリッとした痛みが走る。その痛みに、昨晩の情事と華月に噛まれたことを思い出し、思い切り顔を赤くしてから華月を睨む。しかし、その視線に気付いた華月は素知らぬ顔で視線を避けた。
 そのやり取りを見ていた恭吾が溜め息を吐いた。

「なぁ、天花。本当にそんな奴でいいのか?」
「え? はい!」

 思わずハキハキと答えてしまった天花は、恥ずかしくなり俯き顔を隠したが、真っ赤に染まった耳は隠せない。それを見た華月が堪らないという表情をしているので、恭吾は今度は別の意味の溜め息を吐く。

「そっか。天花が良いなら文句はないけどさ」

 すっと顔を上げた天花は、改めて畳に膝をつく。倣うように華月も膝をつき二人で頭を下げた。

「ここまでお世話になっていて恩知らずではありますが、私は華月様と共に天狗の里を守りたいと考えています」
「天狗の里、次期長として天花を嫁に迎えたい。その了承を四季神から賜りたく存じます」
「……天花さん。恩知らずだなんて……むしろ今日までずっと傍にいてくれたこと、感謝してもしきれないです。華月様なら大丈夫でしょう」

 いつもの穏やかで優しさの溢れる蓮の言葉に、天花は涙が溢れて止まらなくなった。まだ頭を上げていないが、ヒクヒクと背中が動き涙が止まらないのが見て取れる。蓮は赤子を恭吾に預けて、天花の傍に座りそっとその震える肩を抱いた。

「幼子だった貴方が、こんなにも立派に育ってくれたこと。しっかり者だから三人の子らの中で何かと頼み事をしてしまい、大変だったでしょう? 本当にありがとう。天狗の里に行っても、あなたの実家はここです。だからいつでも遊びに来てくださいね」
「蓮様ぁぁ、れんさまぁぁぁぁ!!」

 まるで子供のように天花は泣きじゃくった。蓮の膝に顔を埋めて、兎に角泣いた。悲しいとか嬉しいという感情ではなく、ただ涙が溢れて止まらなかった。
 少し落ち着いた頃、蓮はようやく華月の頭をポンと撫でて顔を上げさせる。それは天花の涙に誘われて、華月も泣きじゃくってしまったことへの気使いだろう。

「華月様、天花との契りは御二方の気持ちなので反対はしません。しかし、天花を閉じ込めた件は別です。然るべき時に、悠月様より御説明頂きたい。まだこの子が赤子故、訪問は」
「こちらから必ず伺わせます。こちらの不祥事です。それに四季神の貴重なお時間を割く訳には参りません」

 普段の蓮ならば、いやいや伺うと言いそうな所だが、しっかりと頷き、「来訪前に必ず報せを」とだけ念を押してきた。
 意識の差なのか分からないが、一晩で蓮が一回り、二回り以上神らしくなったと華月は感じたのだった。




「……天花、本当にもう行くの? ゆっくりしていけばいいのに」

 赤子を背中に括りつけた六花は、ぷっくりと頬を膨らませている。まだ幼い鬼の姿をしている六花が赤子を背負っていると、子供が子供の面倒を見ているようでまるで二人の弟のようだと天花は思う。

「いや、元々赤様が酷い風邪をめされたって聞いたから急いで戻っただけだからね。治ってたらそもそも帰って来てなかったんだよ」

 酷い風邪だったのは本当らしいが、天狗の里に飛ばした使いが道を誤ったらしく、報せは随分遅いものだったのだと知ったのは蓮達と顔を合わせたあとだった。

「ふーん、でも、荷物とかあるだろ? まとめたりするなら、天花だけ! 残ればいい」
「風花……天狗の里を行く時に大抵は持って行ってるのは知ってるでしょ? 元々荷物は少ないし」

 どうにか天花だけを残して、天狗の里に行かせまいという魂胆が見え隠れし、思わず華月が口を挟む。

「いや、あのさ。修行期間終わったら一旦解散だからな? 天花も戻らせるからな? 聞いてる? 天狗の里から正式に嫁として申し出と迎えが来るからな? 聞いてる??」

 しかし、その華月の言葉に被せるようにまたもや風花がただをこねた。

「はぁーあー、突然兄弟が嫁に行くとか。えー、これから家事は俺ら二人なわけ?」
「あ。こら、風花」

 風花の言葉に六花が焦った声を出すが、それに対して蓮がすぐに反応をした。

「風花さん、私も手伝いますよ」
「え!? あ、蓮様はダメ!! 何もしちゃダメなんです!! 恭吾ならいいけど」
「なんでだよ」
「ぷっふふ、ふふふふ、あはははは!」

 全員が笑顔になり、その笑い声が心に沁みる。天花は名残惜しくて、少し泣きそうになるのを堪えて華月に抱きついた。

「また来ます!!」
「いつでもいらっしゃい! 家族ですから!」
「はい!!」

 その返事を天花がしっかりとした直後、華月も頭を下げた。そして大きく翼を動かし、あっという間に空高くに昇った。遥か下で手を振る兄弟と恭吾、そして蓮に天花は手を振り返す。すると、やはり涙が溢れ始めた。

「寂しいか?」
「寂しくないって言ったら……嘘になります。でも、華月様も家族……になってくれるんですもんね?」
「――!!」

 グラリと華月が大きく傾く。

「うっわ!! ちょっと落とさないでくださいよ?!」
「大事な大事な嫁を落とすわけねぇだろ!! 俺の伴侶は最高に可愛いって思って力抜けそうになった」
「……帰るまで黙ってますね」
「いや、話せよ!! 話せって、天花、おーい!!」
「ふふふっ、華月様!!」
「?」
「ずっと一緒にいてくださいね!!」

 首に腕を巻きつけた天花は、華月の頬に思い切り愛しさを込めて口付けをした。
しおりを挟む
感想 1

あなたにおすすめの小説

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

人族は一人で生きられないらしい――獣人公爵に拾われ、溺愛されて家族になりました

よっちゃん
BL
人族がほとんど存在しない世界に、 前世の記憶を持ったまま転生した少年・レオン。 獣人が支配する貴族社会。 魔力こそが価値とされ、 「弱い人族」は守られるべき存在として扱われる世界で、 レオンは常識の違いに戸惑いながらも必死に生きようとする。 そんな彼を拾ったのは、 辺境を治める獣人公爵アルト。 寡黙で冷静、しかし一度守ると決めたものは決して手放さない男だった。 溺愛され、守られ、育てられる日々。 だが、レオンはただ守られるだけの存在で終わることを選ばない。 学院での出会い。 貴族社会に潜む差別と陰謀。 そして「番」という、深く重い絆。 レオンは学び、考え、 自分にしかできない魔法理論を武器に、 少しずつ“並び立つ覚悟”を身につけていく。 獣人と人族。 価値観も、立場も、すべてが違う二人が、 それでも選び合い、家族になるまでの物語。 溺愛×成長×異世界BL。 読後に残るのは、 「ここに居場所があっていい」と思える、あたたかな幸福。

BL 男達の性事情

蔵屋
BL
 漁師の仕事は、海や川で魚介類を獲ることである。 漁獲だけでなく、養殖業に携わる漁師もいる。  漁師の仕事は多岐にわたる。 例えば漁船の操縦や漁具の準備や漁獲物の処理等。  陸上での魚の選別や船や漁具の手入れなど、 多彩だ。  漁師の日常は毎日漁に出て魚介類を獲るのが主な業務だ。  漁獲とは海や川で魚介類を獲ること。  養殖の場合は魚介類を育ててから出荷する養殖業もある。  陸上作業の場合は獲った魚の選別、船や漁具の手入れを行うことだ。  漁業の種類と言われる仕事がある。 漁師の仕事だ。  仕事の内容は漁を行う場所や方法によって多様である。  沿岸漁業と言われる比較的に浜から近い漁場で行われ、日帰りが基本。  日本の漁師の多くがこの形態なのだ。  沖合(近海)漁業という仕事もある。 沿岸漁業よりも遠い漁場で行われる。  遠洋漁業は数ヶ月以上漁船で生活することになる。  内水面漁業というのは川や湖で行われる漁業のことだ。  漁師の働き方は、さまざま。 漁業の種類や狙う魚によって異なるのだ。  出漁時間は早朝や深夜に出漁し、市場が開くまでに港に戻り魚の選別を終えるという仕事が日常である。  休日でも釣りをしたり、漁具の手入れをしたりと、海を愛する男達が多い。  個人事業主になれば漁船や漁具を自分で用意し、漁業権などの資格も必要になってくる。  漁師には、豊富な知識と経験が必要だ。  専門知識は魚類の生態や漁場に関する知識、漁法の技術と言えるだろう。  資格は小型船舶操縦士免許、海上特殊無線技士免許、潜水士免許などの資格があれば役に立つ。  漁師の仕事は、自然を相手にする厳しさもあるが大きなやりがいがある。  食の提供は人々の毎日の食卓に新鮮な海の幸を届ける重要な役割を担っているのだ。  地域との連携も必要である。 沿岸漁業では地域社会との結びつきが強く、地元のイベントにも関わってくる。  この物語の主人公は極楽翔太。18歳。 翔太は来年4月から地元で漁師となり働くことが決まっている。  もう一人の主人公は木下英二。28歳。 地元で料理旅館を経営するオーナー。  翔太がアルバイトしている地元のガソリンスタンドで英二と偶然あったのだ。 この物語の始まりである。  この物語はフィクションです。 この物語に出てくる団体名や個人名など同じであってもまったく関係ありません。

僕の、しあわせ辺境暮らし

  *  ゆるゆ
BL
雪のなか僕を、ひろってくれたのは、やさしい男の子でした。 ふたりの、しあわせな辺境暮らし、はじまります! ふたりの動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵もあがります YouTube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら!

先輩、可愛がってください

ゆもたに
BL
棒アイスを頬張ってる先輩を見て、「あー……ち◯ぽぶち込みてぇ」とつい言ってしまった天然な後輩の話

敗戦国の王子を犯して拐う

月歌(ツキウタ)
BL
祖国の王に家族を殺された男は一人隣国に逃れた。時が満ち、男は隣国の兵となり祖国に攻め込む。そして男は陥落した城に辿り着く。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

処理中です...