異世界で出会った王子様は狼(物理)でした。

ヤマ

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23.ヒロイン捜索失敗

 王宮の地下には王族用に作られた豪華な温泉施設がある。
 中世欧州の雰囲気のある世界だからてっきり入浴の習慣など無いのかと思っていたが、古代ローマのごとく、湯船や温泉で体を清め温めるのが癒やしだと浸透していた。これ幸いと俊も時間があれば通っていた。

「はー、極楽極楽」

 貸し切りの浴場で肩までお湯に沈めるとお爺さんのような台詞が口をついて出る。
 これはもう日本人の習性なので仕方がない。
 背伸びをして凝り固まった肩や背中をほぐし、筋肉痛になった足と腕を揉んだ。
 
 肩こりは長時間の勉学によって、そして筋肉疲労は新しく着任した教育係による地獄、もとい訓練の副産物である。
 一端を思い出し、俊は身震いした自身を抱きしめた。訓練当夜はうなされるし明くる朝は筋肉痛で一メートルの移動に五分もかかる。
 筋肉痛を魔術で消すと鍛錬が全て無に帰してしまうというシビアな仕様も判明し、「そんな気はしてたけど!」と嘆いたのは記憶に新しい。
 だが魔術も剣術も亀の歩みなりに成果が出てきている。

 齢六十を数えるだろうシュバイツアーは、明敏さと叡知と経験値と貫禄を兼ね備えた御仁だった。
 侍女達の噂話から知ったのだが、平民の生まれから魔術の腕と才賢さでもって花国の参謀にまでのし上がったと言う凄腕だ。
 
 評判に違わず、彼は初日に魔術を使えるようにしてくれるなど目覚ましい変化を俊にもたらしてくれた。教え方も分かりやすく、質問の意図を瞬時に読み取って的確な答えをくれる。
 一応教鞭を執っていた身としては、教育者として見習うところばかりだ。
 孫自慢にからめた皮肉はやたら言われるのは置いておこう。

 しかし本当になぜこんな逸材が、王位から遙か彼方にいる俊のところへ……。

 俊は大理石の縁にもたれさせていた背中を勢いよく正した。
 ざば、と水しぶきが飛ぶ。

「継承戦争の前触れ……?」

 暖かい湯船に浸かっているのにさーっと全身が冷たくなっていく。
 噂では俊以外の下位王子にも新たな教育係が付いたらしい。
 
 これは王子同士を戦わせるための下準備だ。
 
 俊は慌てた。
 その継承戦争で末子王子、つまり俊は死ぬのだ。

 だが継承戦争は確か物語の中盤以降に起こるイベントの筈だ。俊はヒロインの心に多少なりとも傷を残して死ななければならないのに、そのヒロインに会ってもいない。

 ここ数ヶ月、クレイグとヒロインをくっつけ明るい老後を送ろう計画は二の次になっていた。
 仕事に慣れようと奔走し、人には言えない諸々もあったせいだが、主な原因は肝心要のヒロインが影も形もないせいだ。

 クレイグの周りには現れていない。送られる秋波はキリがないが彼の事情を考えれば、密かに囲っているなんてもこともないだろう。
 他の攻略対象のところかと王宮内を見て回ったり、侍女の噂話を護衛のお爺ちゃんと一緒に聞き耳を立てたりしているが見当たらない。

 ヒロインが現れていないのに物語が進行している。
 つまり、最悪の未来を変えるため、「未来を知っている」というただ一つの俊の利点が揺らいでいるのだ。

 俊の胸はどんどんと不安で埋め尽くされていった。 
 矢も楯もたまらず浴室を出て、オタオタと服を引っ張り出していてふと気がついた。普段はブレスレットで隠れている手首の内側に、何か薄い痣のような染みができている。
 ぶつけた覚えはない。まさかの魔光石の色素沈着か。

「って、こんなことをしてる場合じゃない!」

 何をすれば良いか分からないが、とにかく再度王宮内にヒロインと思しき女性がいないか確認して、アリアにも聞いて、と算段を立て部屋に戻った。

 そして俊は見つけた。
 部屋の前に、無くしたはずの短剣が置いてあるのを。


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