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25.★思考停止
「俊、今日はまだ帰らないのか?」
俊はギクリと肩を揺らした。もう日は沈んでいる。今日は特に大捕物はなく、普段の要人警護や魔獣討伐を終えた団員が立ち寄る程度だった。
いつもは日が暮れる前に一目散に帰る俊が珍しく残っている。最後に報酬を金庫に預けにきたギンとエバンが声をかけたのは当然のことだった。
「う、うん。まだやりたいことがあって」
目が合わせられない。それを誤魔化すようにまだ筋肉痛が居座る腕を落ち着きなく動かした。
「そうか。帰り気をつけろよ。何かあればすぐにそろばんを投げつけろよ」
潤滑油が足りていない機械のように引きつった笑みで頷く。エバンは多少変な顔をしたが、ギンとともに事務所を後にした。
俊はふーと息を吐いて窓から外を見上げた。まん丸の満月が薄い雲から顔を覗かせている。今夜は友人の家に泊まるとアリアに言ってある。王宮に帰ることはできない。
「っ、よし!」
頬を両手で叩き、鼓舞するよう素早く立ち上がった。
数十分後、俊はクレイグの部屋の隠し扉を通り、一つの扉の前に立っていた。ここまでは概ね順調だ。
シャワーを浴びている間は何も考えないよう、自身に六桁同士のかけ算を出題し続けなければならなかったのは置いておく。
ブレスレットを嵌めた手で触れば扉は開く。クレイグの力が込められた石がはめ込まれているからだ。地下牢の錠が開いたのも込められた魔力に反応したせいらしい。
ガチャリと音がして扉が開いた。暖かい空気が俊を包む。
落ち着いた色合いの照明の下で、暖炉の薪はパチパチと音を立てていた。
絨毯の上、美しい魔狼がシャンパンゴールドの毛並みを震わせて立ち上がった。
「本当に来たのかよ」
呆れたような口調だったが、金色の目は安堵に潤んでいた。俊が頷くと彼は音も無く俊に近づいた。
「うわ、」
俊の頬に高い鼻先をくっつけ、耳にかかった髪で遊んだ。
くすぐったくて頬が緩む。けれど心音は収まらない。
「えっと……、この後どうすれば」
俊は自身を一飲みできるほど大きな顎を不器用に撫で、ベッドにおずおずと腰掛けた。
いろいろ脳内でシミュレーションしていたはずなのに何も思い出せない。
「俺の名前を呼べば良い」
俊はその通りにした。掌を擦っていた柔らかな毛皮が消え、瞬く間に狼は人へと姿を変えた。
クレイグは狼の時と同じように俊の頬を触り、唇を寄せてきた。
「っん」
すぐに深くなったキスのせいで鼻にかかった声が漏れる。クレイグの節くれ立った指が腕を掴みすぐにベッドに組み敷かれた。
「う、わ、ちょっと待って」
体全体に感じるクレイグの重みに頭がぐるぐるする。及び腰になって乗り上げる体を押し返そうと手を突っ張った。
「付き合ってくれるんだろ……?」
荒い息、明らかに情欲を増した潤んだ瞳に見つめられて、俊は口を噤んだ。
まだクレイグには理性があり、今なら止めてくれるのかもしれない。
だが俊は震える喉で頷いた。
途端に強く抱きしめられる。耳に熱い呼気を感じ体がじんと重くなった。
発情は伝染するのかもしれない。違うと分かっているのにそうとしか思えなかった。
「あ、あ、っ! っ……」
向き合った状態で膝の上に乗せられた。
二人ともほぼ衣服など身につけておらず、俊はクレイグの腰を跨いでいるので肌の密着度が酷く高い。
彼の目の前に差し出された胸の飾りを口に含まれ、ただでさえ敏感になっていた体が跳ねる。
思わず彼にしがみついた。互いに汗ばんだ体が擦れ、それにすら快感を拾った。
「あ、ふ、んん」
立ち上がっている中心を擦られればぐちゃぐちゃと艶めかしい音が立つ。
自分の声も下肢から漏れる水音も恥ずかしくて、体温が上がるのを止められない。
下から俊を見上げたクレイグに促されて唇を重ねた。柔らかい粘膜が擦り合い、甘い官能が腰に溜まっていく。
正面から抱き合って、キスをして、まるで恋人みたいだ。
ふとつい先ほど別れた二人のことが頭を過ぎった。
俊がクレイグとこんなことをしているなんてギンやエバンが知ったらどう思うだろうか。
「何考えてんだ」
「あっ! ……っ」
クレイグが咎めるように俊の手を取り主張し合う二人分の性器に添えさせた。
どちらのものか分からない先走りが絡みつき、てらてらと光る様は目眩を引き起こすほど淫蕩だった。
俊は恐る恐る手を上下に動かした。クレイグの息が上がる。片方は知っているはずの感触なのに、何もかもが熱くて喉がからからになる。
「ご、ごめん、俺もう……っ! あ!」
「大丈夫だ。俺も……」
震える謝罪を遮ったのはクレイグの切羽詰まった声だった。
再びベッドに押し倒され、始まった激しい責め苦に俊は腰を跳ねさせ悶えた。
クレイグが触れる皮下の神経は見る間に過敏になり、奔流が押し寄せる。俊は鍛え上げられた首に縋るように腕を回した。
「あ…! あ、っ!!」
先端を強く握られて強い痺れが全身を焼いた。飛び出した熱い精液がぼとぼとと肌に落ちる。
数秒遅れてクレイグのものも受け止めた。
首まで汚したそれが不快ではなかった。
ああ、何だかおかしなことになっている。
確かな予感があるのに、俊はその先を考えるのは止めた。
くぐもった声しか出ず、涙で潤む目を開ける。目尻を赤く染めこちらを見下ろしているクレイグと目が合う。
こめかみから流れた汗が形の良い顎へと伝う様子を俊は陶然と眺めた。
は、と吐息とともに開いた口から白い牙と真っ赤な舌が見え、言葉を紡いだ。
「……悪いけど、もう一回」
何度も求められ赤く熟れた唇にクレイグの熱い吐息がかかる。
懇願の体ではあったが、俊に拒否権など無かった。頷くと同時にまた容赦のない愛撫が始まった。
俊はギクリと肩を揺らした。もう日は沈んでいる。今日は特に大捕物はなく、普段の要人警護や魔獣討伐を終えた団員が立ち寄る程度だった。
いつもは日が暮れる前に一目散に帰る俊が珍しく残っている。最後に報酬を金庫に預けにきたギンとエバンが声をかけたのは当然のことだった。
「う、うん。まだやりたいことがあって」
目が合わせられない。それを誤魔化すようにまだ筋肉痛が居座る腕を落ち着きなく動かした。
「そうか。帰り気をつけろよ。何かあればすぐにそろばんを投げつけろよ」
潤滑油が足りていない機械のように引きつった笑みで頷く。エバンは多少変な顔をしたが、ギンとともに事務所を後にした。
俊はふーと息を吐いて窓から外を見上げた。まん丸の満月が薄い雲から顔を覗かせている。今夜は友人の家に泊まるとアリアに言ってある。王宮に帰ることはできない。
「っ、よし!」
頬を両手で叩き、鼓舞するよう素早く立ち上がった。
数十分後、俊はクレイグの部屋の隠し扉を通り、一つの扉の前に立っていた。ここまでは概ね順調だ。
シャワーを浴びている間は何も考えないよう、自身に六桁同士のかけ算を出題し続けなければならなかったのは置いておく。
ブレスレットを嵌めた手で触れば扉は開く。クレイグの力が込められた石がはめ込まれているからだ。地下牢の錠が開いたのも込められた魔力に反応したせいらしい。
ガチャリと音がして扉が開いた。暖かい空気が俊を包む。
落ち着いた色合いの照明の下で、暖炉の薪はパチパチと音を立てていた。
絨毯の上、美しい魔狼がシャンパンゴールドの毛並みを震わせて立ち上がった。
「本当に来たのかよ」
呆れたような口調だったが、金色の目は安堵に潤んでいた。俊が頷くと彼は音も無く俊に近づいた。
「うわ、」
俊の頬に高い鼻先をくっつけ、耳にかかった髪で遊んだ。
くすぐったくて頬が緩む。けれど心音は収まらない。
「えっと……、この後どうすれば」
俊は自身を一飲みできるほど大きな顎を不器用に撫で、ベッドにおずおずと腰掛けた。
いろいろ脳内でシミュレーションしていたはずなのに何も思い出せない。
「俺の名前を呼べば良い」
俊はその通りにした。掌を擦っていた柔らかな毛皮が消え、瞬く間に狼は人へと姿を変えた。
クレイグは狼の時と同じように俊の頬を触り、唇を寄せてきた。
「っん」
すぐに深くなったキスのせいで鼻にかかった声が漏れる。クレイグの節くれ立った指が腕を掴みすぐにベッドに組み敷かれた。
「う、わ、ちょっと待って」
体全体に感じるクレイグの重みに頭がぐるぐるする。及び腰になって乗り上げる体を押し返そうと手を突っ張った。
「付き合ってくれるんだろ……?」
荒い息、明らかに情欲を増した潤んだ瞳に見つめられて、俊は口を噤んだ。
まだクレイグには理性があり、今なら止めてくれるのかもしれない。
だが俊は震える喉で頷いた。
途端に強く抱きしめられる。耳に熱い呼気を感じ体がじんと重くなった。
発情は伝染するのかもしれない。違うと分かっているのにそうとしか思えなかった。
「あ、あ、っ! っ……」
向き合った状態で膝の上に乗せられた。
二人ともほぼ衣服など身につけておらず、俊はクレイグの腰を跨いでいるので肌の密着度が酷く高い。
彼の目の前に差し出された胸の飾りを口に含まれ、ただでさえ敏感になっていた体が跳ねる。
思わず彼にしがみついた。互いに汗ばんだ体が擦れ、それにすら快感を拾った。
「あ、ふ、んん」
立ち上がっている中心を擦られればぐちゃぐちゃと艶めかしい音が立つ。
自分の声も下肢から漏れる水音も恥ずかしくて、体温が上がるのを止められない。
下から俊を見上げたクレイグに促されて唇を重ねた。柔らかい粘膜が擦り合い、甘い官能が腰に溜まっていく。
正面から抱き合って、キスをして、まるで恋人みたいだ。
ふとつい先ほど別れた二人のことが頭を過ぎった。
俊がクレイグとこんなことをしているなんてギンやエバンが知ったらどう思うだろうか。
「何考えてんだ」
「あっ! ……っ」
クレイグが咎めるように俊の手を取り主張し合う二人分の性器に添えさせた。
どちらのものか分からない先走りが絡みつき、てらてらと光る様は目眩を引き起こすほど淫蕩だった。
俊は恐る恐る手を上下に動かした。クレイグの息が上がる。片方は知っているはずの感触なのに、何もかもが熱くて喉がからからになる。
「ご、ごめん、俺もう……っ! あ!」
「大丈夫だ。俺も……」
震える謝罪を遮ったのはクレイグの切羽詰まった声だった。
再びベッドに押し倒され、始まった激しい責め苦に俊は腰を跳ねさせ悶えた。
クレイグが触れる皮下の神経は見る間に過敏になり、奔流が押し寄せる。俊は鍛え上げられた首に縋るように腕を回した。
「あ…! あ、っ!!」
先端を強く握られて強い痺れが全身を焼いた。飛び出した熱い精液がぼとぼとと肌に落ちる。
数秒遅れてクレイグのものも受け止めた。
首まで汚したそれが不快ではなかった。
ああ、何だかおかしなことになっている。
確かな予感があるのに、俊はその先を考えるのは止めた。
くぐもった声しか出ず、涙で潤む目を開ける。目尻を赤く染めこちらを見下ろしているクレイグと目が合う。
こめかみから流れた汗が形の良い顎へと伝う様子を俊は陶然と眺めた。
は、と吐息とともに開いた口から白い牙と真っ赤な舌が見え、言葉を紡いだ。
「……悪いけど、もう一回」
何度も求められ赤く熟れた唇にクレイグの熱い吐息がかかる。
懇願の体ではあったが、俊に拒否権など無かった。頷くと同時にまた容赦のない愛撫が始まった。
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