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27. モブキャラのくせになんてことをするのか
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俊は煮えくりかえる腹立たしさに下唇を噛みしめた。
中央市場の角、小さくとも一人の女性の全てだった花屋は悲惨な状態になっていた。
建物のいたるところが折れ穴が開き、踏み荒らされた花は濡れた床に無残な姿で散らばっている。
カロリアが集金のため店を離れた数十分の間に暴漢に襲われたのだそうだ。団員が聞きつけ駆けつけたときには全てが終わっていた。
もう風も防げない木製のドアをエバンが勢いよく開け放つと、カロリア以外に四人ほどの男女が店内を片付けているのが目に入った。
近隣の商売仲間が手伝いに来てくれているようだ。
気丈にも彼女達にお礼を言い指示を出していたカロリアだったが、駆けつけたエバンに声をかけられるなり、すがるように抱きついた。
一瞬狼狽えたエバンが背中に腕を回すと小さな嗚咽が漏れはじめた。
ぎゅ、とエバンの腕に力が籠もる。カロリアが未亡人なこともエバンの年齢も誰もが知っている部屋で、二人を咎める者はいなかった。
片付けの手は足りている、つまりでかい男が何人もいては逆に邪魔だということでエバン以外の団員と俊は外に出た。
周囲の店に状況を聞くと、保安隊の役人はダガリー・マクラウドという侯爵が絡んでいると知るやいなや、そそくさと帰ってしまったらしい。
前王の治世からこちら、貴族との贈賄がはびこっている保安隊ではどうにもならない。
教会や王宮に直訴するにしてもカロリアは何の後ろ盾もない平民だ。下手をすれば、侯爵家への不敬罪や貴族社会に対する治安紊乱罪として投獄される可能性がある。
「暴漢は必ずつかまえる。だが単なる捨て駒だろう。そいつらからダガリーを摘発するのは至難の業だ」
そういう所は抜け目が無いのが貴族だ。
ぎり、とクレイグが悔しげに奥歯を噛みしめる。他の団員もやり場のない憤りをその強面に滲ませている。
おそらくダガリーは店の修理代を肩代わりする代わりに結婚を迫る腹づもりだ。くずが、とギンが悪態を吐くのが聞こえた。
暁の霧の資産から援助してはどうかという意見も出たが、どうせまたダガリーの息のかかった連中がやってきてイタチごっこなのは目に見えている。
元凶を絶つほかない。
「今回の件よりダガリー自体の不正の証拠を掴まないか。証拠さえ揃えば俺から王宮に上訴するよ」
全員が俊の方を向いた。「一応良いところの坊ちゃんだから」と俊は肩を竦めた。
「教会は無理だけど王宮に告げ口するツテは持ってる。侯爵家だって王宮から睨まれたらダガリーをしつけようと思うだろ。カロリアさんに手を出してる暇は無くなる」
第二十王子の時は身内だったから俊が告げ口したセオドアが直接話を聞き、ボロを出したため処断された。だがいいくら王とはいえ侯爵家を召還するには確固たる証拠がいる。貴族制度を採っている蝶国で彼らの扱いに敬意を欠いては反発は必至だからだ。
「心当たりがあるのか?」
俊はギンと視線を交わし、カジノでの出来事を全員に話して聞かせた。あれから数度ギンとカジノへ行って情報を集めていたのだ。
中央市場の角、小さくとも一人の女性の全てだった花屋は悲惨な状態になっていた。
建物のいたるところが折れ穴が開き、踏み荒らされた花は濡れた床に無残な姿で散らばっている。
カロリアが集金のため店を離れた数十分の間に暴漢に襲われたのだそうだ。団員が聞きつけ駆けつけたときには全てが終わっていた。
もう風も防げない木製のドアをエバンが勢いよく開け放つと、カロリア以外に四人ほどの男女が店内を片付けているのが目に入った。
近隣の商売仲間が手伝いに来てくれているようだ。
気丈にも彼女達にお礼を言い指示を出していたカロリアだったが、駆けつけたエバンに声をかけられるなり、すがるように抱きついた。
一瞬狼狽えたエバンが背中に腕を回すと小さな嗚咽が漏れはじめた。
ぎゅ、とエバンの腕に力が籠もる。カロリアが未亡人なこともエバンの年齢も誰もが知っている部屋で、二人を咎める者はいなかった。
片付けの手は足りている、つまりでかい男が何人もいては逆に邪魔だということでエバン以外の団員と俊は外に出た。
周囲の店に状況を聞くと、保安隊の役人はダガリー・マクラウドという侯爵が絡んでいると知るやいなや、そそくさと帰ってしまったらしい。
前王の治世からこちら、貴族との贈賄がはびこっている保安隊ではどうにもならない。
教会や王宮に直訴するにしてもカロリアは何の後ろ盾もない平民だ。下手をすれば、侯爵家への不敬罪や貴族社会に対する治安紊乱罪として投獄される可能性がある。
「暴漢は必ずつかまえる。だが単なる捨て駒だろう。そいつらからダガリーを摘発するのは至難の業だ」
そういう所は抜け目が無いのが貴族だ。
ぎり、とクレイグが悔しげに奥歯を噛みしめる。他の団員もやり場のない憤りをその強面に滲ませている。
おそらくダガリーは店の修理代を肩代わりする代わりに結婚を迫る腹づもりだ。くずが、とギンが悪態を吐くのが聞こえた。
暁の霧の資産から援助してはどうかという意見も出たが、どうせまたダガリーの息のかかった連中がやってきてイタチごっこなのは目に見えている。
元凶を絶つほかない。
「今回の件よりダガリー自体の不正の証拠を掴まないか。証拠さえ揃えば俺から王宮に上訴するよ」
全員が俊の方を向いた。「一応良いところの坊ちゃんだから」と俊は肩を竦めた。
「教会は無理だけど王宮に告げ口するツテは持ってる。侯爵家だって王宮から睨まれたらダガリーをしつけようと思うだろ。カロリアさんに手を出してる暇は無くなる」
第二十王子の時は身内だったから俊が告げ口したセオドアが直接話を聞き、ボロを出したため処断された。だがいいくら王とはいえ侯爵家を召還するには確固たる証拠がいる。貴族制度を採っている蝶国で彼らの扱いに敬意を欠いては反発は必至だからだ。
「心当たりがあるのか?」
俊はギンと視線を交わし、カジノでの出来事を全員に話して聞かせた。あれから数度ギンとカジノへ行って情報を集めていたのだ。
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