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74.茶番にも意味がある
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「ど、どうって……」
頭が働かない。答えを返せない俊の頬にまたクレイグの手がかかる。
「もう一回してやろうか?」
「いいいいいです! えっと……失敗?」
この状態で第二弾をくらってしまったら立て直せない。クレイグは若干残念そうにしながら俊から手を放した。
「いや、光が走っただろ。成功だ。問題は解除する術が俺の中になかったってことだ。お前にかけられてた魅了の術は確かに強かったが、術以上に魔力が強い者には効かない。くわえて俺や団員は妙な術にかからないよう結界を張ってる」
そういえば王子の中で一番魔力が高いと言われている第一王子は俊と会話していても壁ドンをしてこなかった。そしてこけたりよろけたりは、クレイグの言う通り俊がどんくさいだけだったのか。
俊はいろいろな意味で力が抜け、へなへなとへたり込んだ。
「じゃあ俺がやってきたのは……」
無駄な茶番。
穴があったら入りたかった。寧ろ自分で穴を掘るから誰かスコップを貸して欲しい。
けれど、クレイグの気持ちが術に惑わされたのではなく、本物なのだと知って涙が出そうなほど嬉しい。こんな時に。人狼の覚醒を止める術が潰えたのだ。
自己嫌悪に陥りかけた俊にクレイグが視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「俺は本気でお前に惚れてる」
ぐ、と喉が詰まった。覗き込んできた目尻が少し染まっているせいで彼の台詞を疑う余地は無い。
「俺に冷たくされても認められようと仕事をするひたむきなところとか、裏表のないところとか……まぁ要因はいろいろだ。最初に近づくなって言ったのも、お前が弱いからじゃない。有り体に言えば、外見も好みだったからだ。男でも襲うかもしれないと思ったんだ」
「え……」
思わず声を上げるとガシガシとクレイグが乱暴に髪を乱してきた。
「ちょ、なにすんだ」
クレイグの両手を掴み狼藉を止めさせる。彼に正面から向かい合うことになり俊は動きを止めた。こちらを真っ直ぐ見据える彼は酷く嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「お前も俺のことすげぇ好きだよな。今の茶番でよく分かった」
茶番って言っちゃってる!
そう突っ込みたかったが、最後にキスしてほしいだとか自分の発言を思い出すと彼の言ったとおり過ぎてそれどころではなかった。
羞恥心で死ねる。
クレイグは、うう、と呻きながら顔を隠した俊を立たせ、落ち着かせるように抱きすくめた。
「お前のやったことは無駄じゃない。お陰でシュバイツアーの奇策は成功する」
どういうことかと顔を上げる。目を白黒させている俊にクレイグが笑い、説明しようと口を開いた。
だがそれはかなわなかった。
ピシ、と彼の後ろで石に亀裂が入った。
「っ……!」
途端にクレイグが腹を押さえて膝をついた。慌てて体を支えると苦痛に歪んだ顔に汗が吹き出している。
「……、そろそろ限界みたい、だな」
壊れた映像器機のようにクレイグの姿が断続的に歪み始めた。同時に魔封石を覆っていた霧が晴れ、外の様子を俊に伝えた。
恐ろしい狼が遊ぶように人間をひれ伏させているのが見える。
だがその映像も乱れた。時間の経過を追うように次々に映像が入れ替わる。
次にスライドしてきた光景に俊は息を詰めた。狼が重厚な鎖で舞台に押しつけられ、デビーとディートそして兵士達に囲まれ、身の毛もよだつ牙の隙間からうなり声を上げている。
魔封石の鎖だ。デビーが人狼捕縛のため何の策も用意していないわけがなかった。
「これを使え」
クレイグが俊の手に握らせたのは二十一の文字が刻まれた短剣だった。
頭が働かない。答えを返せない俊の頬にまたクレイグの手がかかる。
「もう一回してやろうか?」
「いいいいいです! えっと……失敗?」
この状態で第二弾をくらってしまったら立て直せない。クレイグは若干残念そうにしながら俊から手を放した。
「いや、光が走っただろ。成功だ。問題は解除する術が俺の中になかったってことだ。お前にかけられてた魅了の術は確かに強かったが、術以上に魔力が強い者には効かない。くわえて俺や団員は妙な術にかからないよう結界を張ってる」
そういえば王子の中で一番魔力が高いと言われている第一王子は俊と会話していても壁ドンをしてこなかった。そしてこけたりよろけたりは、クレイグの言う通り俊がどんくさいだけだったのか。
俊はいろいろな意味で力が抜け、へなへなとへたり込んだ。
「じゃあ俺がやってきたのは……」
無駄な茶番。
穴があったら入りたかった。寧ろ自分で穴を掘るから誰かスコップを貸して欲しい。
けれど、クレイグの気持ちが術に惑わされたのではなく、本物なのだと知って涙が出そうなほど嬉しい。こんな時に。人狼の覚醒を止める術が潰えたのだ。
自己嫌悪に陥りかけた俊にクレイグが視線を合わせるようにしゃがみ込んだ。
「俺は本気でお前に惚れてる」
ぐ、と喉が詰まった。覗き込んできた目尻が少し染まっているせいで彼の台詞を疑う余地は無い。
「俺に冷たくされても認められようと仕事をするひたむきなところとか、裏表のないところとか……まぁ要因はいろいろだ。最初に近づくなって言ったのも、お前が弱いからじゃない。有り体に言えば、外見も好みだったからだ。男でも襲うかもしれないと思ったんだ」
「え……」
思わず声を上げるとガシガシとクレイグが乱暴に髪を乱してきた。
「ちょ、なにすんだ」
クレイグの両手を掴み狼藉を止めさせる。彼に正面から向かい合うことになり俊は動きを止めた。こちらを真っ直ぐ見据える彼は酷く嬉しそうな笑みを浮かべていた。
「お前も俺のことすげぇ好きだよな。今の茶番でよく分かった」
茶番って言っちゃってる!
そう突っ込みたかったが、最後にキスしてほしいだとか自分の発言を思い出すと彼の言ったとおり過ぎてそれどころではなかった。
羞恥心で死ねる。
クレイグは、うう、と呻きながら顔を隠した俊を立たせ、落ち着かせるように抱きすくめた。
「お前のやったことは無駄じゃない。お陰でシュバイツアーの奇策は成功する」
どういうことかと顔を上げる。目を白黒させている俊にクレイグが笑い、説明しようと口を開いた。
だがそれはかなわなかった。
ピシ、と彼の後ろで石に亀裂が入った。
「っ……!」
途端にクレイグが腹を押さえて膝をついた。慌てて体を支えると苦痛に歪んだ顔に汗が吹き出している。
「……、そろそろ限界みたい、だな」
壊れた映像器機のようにクレイグの姿が断続的に歪み始めた。同時に魔封石を覆っていた霧が晴れ、外の様子を俊に伝えた。
恐ろしい狼が遊ぶように人間をひれ伏させているのが見える。
だがその映像も乱れた。時間の経過を追うように次々に映像が入れ替わる。
次にスライドしてきた光景に俊は息を詰めた。狼が重厚な鎖で舞台に押しつけられ、デビーとディートそして兵士達に囲まれ、身の毛もよだつ牙の隙間からうなり声を上げている。
魔封石の鎖だ。デビーが人狼捕縛のため何の策も用意していないわけがなかった。
「これを使え」
クレイグが俊の手に握らせたのは二十一の文字が刻まれた短剣だった。
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