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13.変調
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しんどい。
明くる土曜日、俺は重たい体を引きずりながら極寒の商店街への道を歩いていた。
昨夜は安倍の次なるラッキーポイントが商店街である未来を予知し、そのあとも十人以上の客を見た。
力を使いすぎたのが原因だ。
運の悪いことに母と父は今月十八回目になるデートに出かけてしまっていて、昼過ぎに覚醒した時にはすでに家の中は無人、冷蔵庫もほぼ空だった。
「うちの家族はなんでこうもみんな色ボケなんだ……思春期にちょっとは配慮しろ」
普段ならうざそうにしながらも仲が良いのは美しき事、と生あたたかい目で見守っているのだが、体調の悪い今日は毒舌になってしまう。
命からがらたどり着いた薬局でスポーツ飲料やクッキー形状の栄養補助食品とおにぎりを大量に買い込む。
栄養補給ゼリーは少し迷って棚に戻した。
さっさと帰って寝ようと商店街の門を出たところで同年代だろう男子三人に呼び止められた。
「柊のオトモダチじゃん。めずらしく一人なんだな」
やたら黒っぽいライダースジャケットの彼らに見覚えがある。
柊を知っていることから考えて同じ高校の生徒だ。
リーダーらしき茶髪でガタイの大きい男が三年生で、取り巻き然と控えている二人の少年が一年坊主といったところか。
とげとげしい視線のせいで面倒くさいことになりそう、と予知能力を使わずとも分かった。
「人違いです」
そそくさと前を通り抜けようとした。
だが「嘘つけ」の台詞とともに手にしていた買い物袋を奪い取られ、がっしりした腕に肩を抱かれた。
「柊のやつ最近特に調子乗りすぎだろ。お前からよく言っといてくれよ」
至近距離から気持ち悪い猫なで声でお願いされ、思わず顔を引く。
他の二人は俺の買い物袋から勝手にペットボトルを取り出している。
「直接言えよ。俺はあいつの母ちゃんじゃないし躾けは管轄外だ」
この手の絡まれ方は慣れている。
良くも悪くも柊は目立つのだ。
笑って躱すのが一番だと知っているしいつもそうしてきた。
だが体は重たいし無礼な態度にイライラは最高潮で、つい本音が口をついて出てしまった。
はぁ? と機嫌を損ねた男子高校生がにらみを利かせてくる。
しまった、と口をつぐんでも遅い。俺より背が高い、ガタイもはるかに大きい男、しかもコートのせいで着ぶくれして余計に大きく見える三人相手に流石に心音が早まった。
「お前、柊の金魚の糞じゃん。あぶれた女で良い思いしてんじゃねぇの?」
女絡みか。
一番面倒なやつじゃん、と俺はため息をついてしまった。
柊に彼女だの思い人だのを取られたといってくる奴は後を絶たない。
だいたいは男側に嫌気が差して柊のファンに加わっただけなのだが、こじらせている男の目に真実は映らない。
「まぁお前もかわいそうなやつだよな。どうせ柊は引き立て役としてお前とつるんでるんだ。女も見る目がねぇよ」
「は……?」
これにはカチンときた。
受け流せば良いと分かっているのに、体調が悪いせいで余裕もへったくれもない。
「あいつは確かに変態ドS野郎だけどな、引き立て役に誰かを使ったりしない」
むしろ俺の方があいつに助けてもらっている。
怒りでなおさら気分が悪くなってきた。
「成績が良いのも難しい質問をして先生が困っている顔を見るとゾクゾクするからだし、スポーツ万能なのもマラソン大会で最初にゴールして他の生徒が苦しそうに走っているのを眺めて胸を高鳴らせたいからっていうド変態だ。
けどな、一心不乱に読んでるミステリー小説の犯人をばらしてきたりしないし、三万パズルの最後のピースを勝手にはめたりはしない。その辺はわきまえているドS変態なんだ。話も合うし、モテるのを鼻にかけたりしないし、いざというときには親身に相談にのってくれる良いやつだ。まぁ、あとからどう傷ついたのか、どんなふうに困ったのか根掘り葉掘り、微に入り細に入り聞いてくるけどな!!」
不良たちが唖然としているのにも気が付かず、畳みかけているとなんだか目の前がかすんできた。
変態って三回くらい言った? 聞き間違い? と不良達がざわめいたが、ヒートアップしてきた俺の耳には届かない。
「だいたい引き立て役だの取り巻きだのが必要なのは中途半端なやつだろ。お前みたいに」
「なんだと?」
リーダー格の男が眉毛を吊り上げ、俺の胸倉をつかんだ。
あ、やべ。
脳裏に浮かんだ未来に血の気が引いた。
俺の頬に思いっきり男の拳が入り、いきおいのまま俺はアスファルトに後頭部を強打している。
打ち所が悪かったら死ぬやつである。
だが逃げられない。
他の二人が俺の腕を掴み拘束した。
「この……うわ!!」
男が拳を振り上げ、俺は反射的に目を閉じた。
明くる土曜日、俺は重たい体を引きずりながら極寒の商店街への道を歩いていた。
昨夜は安倍の次なるラッキーポイントが商店街である未来を予知し、そのあとも十人以上の客を見た。
力を使いすぎたのが原因だ。
運の悪いことに母と父は今月十八回目になるデートに出かけてしまっていて、昼過ぎに覚醒した時にはすでに家の中は無人、冷蔵庫もほぼ空だった。
「うちの家族はなんでこうもみんな色ボケなんだ……思春期にちょっとは配慮しろ」
普段ならうざそうにしながらも仲が良いのは美しき事、と生あたたかい目で見守っているのだが、体調の悪い今日は毒舌になってしまう。
命からがらたどり着いた薬局でスポーツ飲料やクッキー形状の栄養補助食品とおにぎりを大量に買い込む。
栄養補給ゼリーは少し迷って棚に戻した。
さっさと帰って寝ようと商店街の門を出たところで同年代だろう男子三人に呼び止められた。
「柊のオトモダチじゃん。めずらしく一人なんだな」
やたら黒っぽいライダースジャケットの彼らに見覚えがある。
柊を知っていることから考えて同じ高校の生徒だ。
リーダーらしき茶髪でガタイの大きい男が三年生で、取り巻き然と控えている二人の少年が一年坊主といったところか。
とげとげしい視線のせいで面倒くさいことになりそう、と予知能力を使わずとも分かった。
「人違いです」
そそくさと前を通り抜けようとした。
だが「嘘つけ」の台詞とともに手にしていた買い物袋を奪い取られ、がっしりした腕に肩を抱かれた。
「柊のやつ最近特に調子乗りすぎだろ。お前からよく言っといてくれよ」
至近距離から気持ち悪い猫なで声でお願いされ、思わず顔を引く。
他の二人は俺の買い物袋から勝手にペットボトルを取り出している。
「直接言えよ。俺はあいつの母ちゃんじゃないし躾けは管轄外だ」
この手の絡まれ方は慣れている。
良くも悪くも柊は目立つのだ。
笑って躱すのが一番だと知っているしいつもそうしてきた。
だが体は重たいし無礼な態度にイライラは最高潮で、つい本音が口をついて出てしまった。
はぁ? と機嫌を損ねた男子高校生がにらみを利かせてくる。
しまった、と口をつぐんでも遅い。俺より背が高い、ガタイもはるかに大きい男、しかもコートのせいで着ぶくれして余計に大きく見える三人相手に流石に心音が早まった。
「お前、柊の金魚の糞じゃん。あぶれた女で良い思いしてんじゃねぇの?」
女絡みか。
一番面倒なやつじゃん、と俺はため息をついてしまった。
柊に彼女だの思い人だのを取られたといってくる奴は後を絶たない。
だいたいは男側に嫌気が差して柊のファンに加わっただけなのだが、こじらせている男の目に真実は映らない。
「まぁお前もかわいそうなやつだよな。どうせ柊は引き立て役としてお前とつるんでるんだ。女も見る目がねぇよ」
「は……?」
これにはカチンときた。
受け流せば良いと分かっているのに、体調が悪いせいで余裕もへったくれもない。
「あいつは確かに変態ドS野郎だけどな、引き立て役に誰かを使ったりしない」
むしろ俺の方があいつに助けてもらっている。
怒りでなおさら気分が悪くなってきた。
「成績が良いのも難しい質問をして先生が困っている顔を見るとゾクゾクするからだし、スポーツ万能なのもマラソン大会で最初にゴールして他の生徒が苦しそうに走っているのを眺めて胸を高鳴らせたいからっていうド変態だ。
けどな、一心不乱に読んでるミステリー小説の犯人をばらしてきたりしないし、三万パズルの最後のピースを勝手にはめたりはしない。その辺はわきまえているドS変態なんだ。話も合うし、モテるのを鼻にかけたりしないし、いざというときには親身に相談にのってくれる良いやつだ。まぁ、あとからどう傷ついたのか、どんなふうに困ったのか根掘り葉掘り、微に入り細に入り聞いてくるけどな!!」
不良たちが唖然としているのにも気が付かず、畳みかけているとなんだか目の前がかすんできた。
変態って三回くらい言った? 聞き間違い? と不良達がざわめいたが、ヒートアップしてきた俺の耳には届かない。
「だいたい引き立て役だの取り巻きだのが必要なのは中途半端なやつだろ。お前みたいに」
「なんだと?」
リーダー格の男が眉毛を吊り上げ、俺の胸倉をつかんだ。
あ、やべ。
脳裏に浮かんだ未来に血の気が引いた。
俺の頬に思いっきり男の拳が入り、いきおいのまま俺はアスファルトに後頭部を強打している。
打ち所が悪かったら死ぬやつである。
だが逃げられない。
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「この……うわ!!」
男が拳を振り上げ、俺は反射的に目を閉じた。
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