ゴブリンでも勇者になれますか?

結生

文字の大きさ
3 / 43

帝国騎士入団試験

しおりを挟む
 星暦二〇二四年。十二月三十一日。
 カリスト帝国、帝都。



「今年も随分と志願者が多いな。大体三万人か?」


 帝国騎士のローブを纏った兵士が入団希望者のリストをパラパラと捲りながら眺めていた。


「って言ってもそのほとんどが試験に落とされるがな。例年通りなら三割くらいしか受からないだろ?」


 もう一人の兵士が後ろからリストを覗き込みながらそう言った。


「いや、どうだろうな。今年の試験監督はルーク団長だってさ」
「うわ、マジかよ。あの人、通例とか気にせずに落としまくるじゃん。前回、あの人が試験監督だった時の入団者、千人切ってたんだろ。俺なら絶対受けたくない」
「厳しい人じゃないけど、変人だからなぁ」
「まぁ、あの第七師団の団長をしてる人なんだ。まともな方がおかしい」
「それもそうだな。でどうする? 今年の賭けは」
「あ~、いくらあの人でもそこまで落とさないんじゃないかと思うんだよ。う~ん、そうだな、俺は三千人で」
「じゃ、俺は五千人」
「え? 多くね? 大丈夫か?」
「ふふふ、実は今年の受験者は中々の粒ぞろいなんだ。ライオンの獣人(ビースト)やエルフも何人かいる。それにあのルクスリア家からも一人出てくる」
「え! マジかよ! ルクスリア家ってあの名家だろ? 一家全員が騎士団に所属してるエリートの家系じゃん。あークソ、低く見積もりすぎたか?」
「もう駄目だからな」
「わーってるよ。それより早く試験の見学に行こうぜ。どうせもう志願者来ないだろ」


 彼ら二人の兵士がいる場所は今年の入団試験会場の受付カウンターである。
 その場所にはもう彼ら以外いない。
 つい数十分前までは志願者で行列が出来ていたが、その志願者たちはもうすでに試験会場の中である。


「そうだな。受付終了三分前。こんなギリギリに来る奴なんかいねぇか」


 二人の兵士は志願者がもう来ないと見切りをつけて、試験会場へと向かおうとした。
 その時。


「はいはい! 受験者! ここにいるぞ!」


 その声を聞いて、二人の兵士は足を止めた。


「今の声、聞こえたか?」
「ああ、聞こえた。けど、誰もいねぇぞ?」


 二人の兵士が辺りを見渡してもそこに人影は一つもなかった。


「こっち! こっちだ! 下! 下!」
「下?」


 そこ声の誘導に従い、兵士はカウンターから乗り出し、下を見る。


「え?」


 カウンターの影に隠れて見えなかったその声の主を見て、二人の兵士は言葉を失った。


「ったくよう。このカウンター高すぎるんだって」


 そこにいたのは身長一メートルほど肌が緑色の少年。
 ゴブリンだった。


「えっと……、ここには何の用かな? 迷子?」
「ちげぇよ。さっき言ったじゃん。入団試験を受けに来た」
「ん? 君が?」
「そうだよ。他に誰がいんだよ。はい、これ推薦状」
「あ、はい」


 ゴブリンの少年の勢いに押されて兵士は彼から推薦状を受け取る。


「で、俺はこれからどうすればいいんだ?」
「あー、ここの奥にあるFルームに向かってくれればいい」
「ん、そっか。ありがとう」


 そして、ゴブリンの少年は礼を言うと、そのまま走って奥の試験会場へと向かっていった。


「なぁ……今の見たか?」
「ああ、見た」
「ゴブリン、だったよな」
「ああ、ゴブリンだった」
「初めて見た」
「俺も」
「………………」
「………………」


 しばしの沈黙。
 それから。


「えええ!!!!!! 待って待って!! どういうこと!?」
「俺も分かんねぇって! どうなってんだよ!」
「ゴブリンが騎士団に入るなんて聞いたことねぇぞ!」
「いいや、それどころか入団試験を受けるなんて今までに例がない!」
「それもそのはずだろ! ゴブリンだぞ!? 魔法が使えない上に身体能力も高くない。あれが戦えるわけがない!」
「ああその通りだ! それになんでゴブリンが帝都にいんだよ! てかそもそもカリスト帝国にいない種族だよな!?」
「そうだ! あれ! 推薦状! なんて書いてある!?」
「あ、ああそうだな。えっと……、名前はゼル・インヴァース。出身地は……未開域!?」
「はぁ!? 未開域だと!? なんでそんな辺境の地から? つーかどうやって来たんだよ! こっから未開域なんて箒で飛んでも数か月はかかるぞ! ゴブリンが一人で来られるような距離じゃないぞ!」
「考えられる可能性があれば、推薦者だが……」


 カリスト帝国の入団試験には誰もが申し込めるわけではない。
 というよりも、入団試験の推薦状を入手できる人物には限りがある。
 ある程度の名の知れた者や既に騎士団に所属している者でなければ手に入れることは出来ない。
 そして、推薦状には必ず志願者の名前とは別に推薦者の名も記載される。
 これはスパイ行為の対策である。
 身元の知らないものを騎士団に所属されることは出来ないため、このような形をとっている。
 ゼルの推薦者は誰か、兵士はその名が気になって用紙の一番下に書かれてある名を見る。


「…………は?」


 その名を見た瞬間、兵士は固まったまま動かなかった。


「おい、どうした! 誰なんだよ、あいつを推薦したバカは!」


 一向にその名を口にしない兵士に苛立って、もう一人の兵士が推薦状をぶんどる。


「えっと……推薦者はっと……な、な、なにいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!!!!!!!!!!!!!」






「お、ここか」


 受付の兵士に言われた通り、ゼルは試験会場のFルームの前まで来ていた。


「んじゃ、お邪魔しまーす」


 元気よく扉を開けて中に入る。


「うお、めっちゃいる」


 ゼルが中に入った瞬間、ほぼ全員がゼルの方を見た。
 その数おおよそ数千。


「あーどうもよろしくーよろしくー」


 ゼルはヘラヘラしながら周りの人たちに挨拶をしていく。
 だが、誰一人としてゼルに返事を返さなかった。
 何故なら、この場にいるものすべてがゼルが何故ここいるのか分からず戸惑っているからだ。


「(おい、なんでゴブリンなんかがいんだよ)」
「(ここは大事な試験の場だぞ? 迷子か?)」
「(とっとと出て行ってもらいたいもんだ)」
「(いや、これは逆にチャンスかもしれない。あのゴブリンと当たれば勝てる)」


 各々胸の内に様々な思いを持っているが誰もそれを口にしない。
 ここは試験の場。その為、いつどこで試験監督が見ているか分からない。そのような状況で余計なことをして試験を落とされたくはないからだ。


「さぁ、時間だ。私はこのルームの審判を担当するレイだ。これから試験の概要を伝える」


 ゼルが入ってきた方向とは真逆にある扉から帽子を深くかぶった兵士が入ってきた。


「試験の内容は至ってシンプル。一対一の対人戦だ。その戦闘を見て君たちの適性を判断する。質問はあるか?」
「あの……試験はそれだけですか?」
「ああ、そうだ。この対人戦一回だけで判断する。下手に力を温存しようとは考えない方がいい。全力で挑んでくれたまえ」


 勝負は一度きり。そのプレッシャーが部屋中の志願者たちを襲った。


「質問がなければ、このまま試験を開始する。これから二名ずつ呼び、この奥にある訓練室で戦ってもらう。マッチングはランダムで行わせてもらう。まず、最初の一名はジャオ・レヴォルト。前へ」


 名を呼ばれたジャオは人混みをかき分けレイの元へと向かう。


「ぃ! でけぇ……」
「あれが今年の有力株の一人か」
「ライオンのビースト。魔法なしの純粋な体術だけであいつに勝てる奴はいないだろうなぁ」
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ、あの人とだけは当たりたくない」


 どうやらジャオは相当有名のようで辺りがざわついていた。
 それもそのはず。
 ビーストという種族であるだけでも高い身体能力を持っている。
 それに彼はそれだけではなく百獣の王、ライオンのビースト。ビーストの中でも最上位に位置する力を持っている。
 並の人間では魔法を使う前にあの鋭い爪で引き裂かれて終わりだろう。


「次、ゼル・インヴァース」
「ん? 俺か?」


 名前を呼ばれたゼルはすててててと走ってレイの前に立つ。
 間違いなく今年の志願者の最強と最弱の試合だと、周りの人たちは思っている。
 ジャオと当たらずに胸をなでおろす者もいれば、ゼルと当たらなかったことが残念だったと肩を落とす者もいる。
 そう、彼らにとってこれから行われる勝負は結果が見えているのだ。


「んじゃ、早速勝負しようぜ」


 ジャオを目の前にしてもゼルは臆することはなく、これからの戦いにワクワクしていた。


「ああ、そこの君」
「え? 俺?」
「そうだ」


 しかし、訓練室に入る前にゼルは審判のレイに止められた。


「入団試験では武器の持ち込みは禁止だ。それは一旦預かる。代わりなら隣の部屋にある訓練用の武器を使用してくれ」


 レイが呼び止めた理由はゼルが背中に差していた七つの穴が開いた剣だった。


「あ、そうなん。ま、代わりがあんならいいや。適当なの借りよっと」


 ゼルは自分の武器が使えなかったことにガッカリすることはなかったが、ジャオがそれを止めた。


「待て、そこのゴブリン。お前はその武器を使っても構わない。そんなものでも頼らなきゃお前とは勝負になりそうもないのでな」


 問題はないだろ? とジャオはレイに視線を向ける。


「対戦相手がそういうのであれば、問題はない」
「だ、そうだ。だから、そいつを使って……」
「いや、いいよ」


 しかし、ゼルはジャオの提案を断った。


「なぜだ?」
「だってよ。もし、こいつを使って勝ったら、こいつのおかげで勝っただけだろって言われるだけだろ。それは俺の力じゃないって言われるだけだろ。だから、俺は俺の力で勝つ」
「そうか。ゴブリンではあるがそれなりの覚悟をして来たというわけだな。なら、こちらが譲歩しよう。私はお前との戦いで魔法を一度も使わない」


 ジャオはそれだけ言い残し、先に訓練室に入っていった。


「んーそれじゃ意味ないんだけどなぁ~」


 ゼルは不満げな声を漏らしながら、隣の部屋から木刀を借りて訓練室へと向かった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め

イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。 孤独になった勇者。 人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。 ベストな組み合わせだった。 たまに来る行商人が、唯一の接点だった。 言葉は少なく、距離はここちよかった。 でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。 それが、すべての始まりだった。 若者が来た。 食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。 断っても、また来る。 石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。 優しさは、静けさを壊す。 逃げても、追いつかれる。 それでも、ほんの少しだけ、 誰かと生きたいと思ってしまう。 これは、癒しに耐える者の物語。 *** 登場人物の紹介 ■ アセル 元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。 ■ アーサー 初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。 ■ トリス 若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界に無一文投下!?鑑定士ナギの至福拠点作り

花垣 雷
ファンタジー
「何もないなら、創ればいい。等価交換(ルール)は俺が書き換える!」 一文無しで異世界へ放り出された日本人・ナギ。 彼が持つ唯一の武器は、万物を解析し組み替える【鑑定】と【等価交換】のスキルだった。 ナギは行き倒れ寸前で出会った、最強の女騎士エリスと出会う。現代知識とチート能力を駆使して愛する家族と仲間たちのために「至福の居場所」を築き上げる、異世界拠点ファンタジーストーリー!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...