ゴブリンでも勇者になれますか?

結生

文字の大きさ
26 / 43

翡翠の妖狐

しおりを挟む
「ごめんなさい。お待たせしました」


 着替え終わり、一階の酒場に来るとすでにゼルとルーク団長の姿があった。
 それと……。


「あれ? ヘイヴィアもういいの?」


 当たり前のようにヘイヴィアの姿もあった。
 ヘイヴィアは一昨日の一件で療養中のはずだったんだけど、何故かピンピンしていた。


「おう、問題ねぇ」


 流石、吸血鬼。怪我の治りが早いのね。


「さて、朝早くから君たちに集まってもらったのは他でもない。新たな任務だ」


 新たな任務、と聞いて私は身構えた。
 団長じきじきということはどうせろくな任務じゃないに決まっている。


「まずは情報共有から。君たちが連れて帰ってきたリゼっていう子から色々と話を聞かせてもらってね。色々と分かったことがあるんだ」


 リゼさんは私たちがカルデネ洞窟から連れて帰った後、本部に引き渡すことになった。
 ヘイヴィアはごねていたけど。
 そして、リゼさんは今、捕虜という扱いで本部の牢屋にいるそうだ。


「まず、アルケ村を襲った連中の正体が分かった」
「え、ちょっと待ってください。なんで、いきなりアルケ村の事件が? タイタンと関係あるんですか?」
「まぁまぁ、落ち着いて。順を追って話そう。まず、向こうがリゼを、カリストで言う団長クラスをカルデネ洞窟に派遣した理由は翡翠の妖狐が関係しているそうだ」
「ひ、翡翠の妖狐ってあの犯罪者ギルドのことですか!?」
「おや、マナは知っているようだね」
「当り前じゃないですか! 新聞読んでたら誰でも知ってますって」
「ほ~ん、翡翠のふ~ん」
「あ~あれね、うんあれのことか」


 なんか知ったかぶりしてるのが若干二名いるが、無視無視。


「タイタンはその翡翠の妖狐がカルデネ洞窟を訪れるかもしれないという情報を掴んでいたようで、その対策としてリゼを送り込んだようだ」


 その判断は頷ける。
 翡翠の妖狐は世界的に有名な犯罪組織で、そのギルドマスターは禁術魔法で一国を滅ばしたという凶悪な犯罪者である。


「…………あれ? ってことはもしかしなくても、私たちタイタンだけじゃなくて場合によっては翡翠の妖狐と戦ってたかもしれないってことですか?」
「そうなるね」


 あはー。この団長は簡単に言ってくれちゃってもう。
 翡翠の妖狐と鉢合わせなかったのは運が良かったと言わざる負えない。


「で、翡翠の妖狐についてだけど、うちとしてもあまり情報がなかったんだ。けど、リゼの話によると翡翠の妖狐の下部組織、というか彼らを崇めている連中は翡翠色のローブを羽織っているらしい」
「それってアルケ村を襲った人たちと特徴が一致しますね。でも、崇めているってどういうことですか?」
「翡翠の妖狐は一種の宗教みたいなものになっているらしい。で、翡翠の妖狐はそういう連中をトカゲの尻尾のような扱いをしているって話だ」


 それはつまり、足がつかないように信仰心を利用して信者たちに悪いことをさせてるってことね。


「それでカルデネの地下都市には大罪魔法がなく、君たちよりも先に誰かが侵入した形跡があったんだろ?」
「はい。既にカルデネ洞窟の奥にある隠し通路が……え? ってことはじゃあ、大罪魔法は既に翡翠の妖狐が手にしているってことですか!?」
「その可能性が高いようだ」


 それって一大事じゃないですか! 
 国を滅ぼすほどの力を持つ大罪魔法がそんな犯罪組織の手に渡ってしまったら、どんな悪いことに使うか想像に難くない。


「で、翡翠の妖狐の目撃情報を集めていたんだけど、どうやらユミルという街にギルドマスターであるジェイドがいるらしい、という情報を得た」
「え!? ジェイドってそれマズイじゃないですか!?」
「そうなのか?」
「さぁ?」


 驚いている私をよそに、ゼルとヘイヴィアはまたしてもそろって首を傾げていた。


「ジェイドって言ったら、禁術魔法を使って一国を滅ぼしたテロリストだよ! カリスト帝国でも高額の賞金がかけられた犯罪者だよ!」
「何!? 金だと!?」
「いくらだ! そいつ捕まえたらいくらもらえるんだ!?」
「二人とも食いつくところそこじゃないよ!」


 なんで二人ともお金に目がくらんでるの。
 大体、世界各国が彼の首を狙ってるほどの超大物犯罪者なんだから私たちにどうにか出来る相手じゃないって。


「カリスト帝国では彼の首にかけられた懸賞金は金貨百枚だよ」
「金貨百枚って給料いくら分だ?」
「さあ、五年分とか?」
「どんな計算してるのよ。昇給しない前提で私たち新人の給料換算だと、約百年分よ」
「なに! マジか! はいはい! 俺がそいつ捕まえる!」
「ばっか! ゴブリンなんかじゃ相手になんねぇよ。俺が捕まえる」


 団長に懸賞金を聞かされたゼルとヘイヴィアはやる気に満ち満ちていた。
 だから、私たちが束になってもどうしようもない相手なんだって。
 どうせ団長からの依頼だって、ジェイドの捕縛じゃなくて情報収集だと思う。
 入ったばかりの新人にはちょうどいいくらいの任務だろう。
 大体アルケ村やカルデネ洞窟の件は例外中の例外。最初はやっぱりこれくらいの難易度が普通だって。


「うん、二人ともやる気があっていいね。それならお願いしがいがある」


 そう思っていた。


「それじゃ、任務内容を伝えるよ。三人にはジェイドの探索、そして見つけ次第彼を捕えてほしい。もちろん、生死は問わない」


 ウソ……でしょ?
 待って待って待って待って待って! え? 今団長なんて言った?
 ジェイドを捕まえてほしい? いやいやいやいや無理だって! 絶対無理。


「やっほー! 金貨百枚ゲットだぜ!」
「だから、お前には無理だって。俺が捕まえて取り分は全部俺のだ」


 だからなんでこの二人はこんなにやる気でしかもそんなに自信満々なの?
 一国を滅ぼしたテロリストが相手なんだよ? 絶対勝てっこないって。
 そもそも相手はマスターのジェイド一人とは限らないし、構成員も何百人っているしたった三人の新人で手に負える相手じゃないよ!?


「あの~、団長? いくらなんでも私たちだけでこの任務は無理だと思うのですが……」
「大丈夫。流石に君たちだけじゃないよ」
「あ、そうなんですね」


 よかった~。他にも参加する人いるんだ。
 他の師団の人たちかな? うちにいるメンバーだけじゃ流石に人数足りないと思うし。


「それじゃ、レミリア、頼めるかい?」
「お? 私か? よっしゃ! 話聞いててやりたいと思ってたんだよ。ジェイドってやつの生死は関係ないんだよな」
「うん、好きにやってきていいよ。あ、でも、新人の面倒はちゃんと見てね」
「オッケー。任せとけって」


 ふむ。レミリアさんがついてきてくれると。
 ……え? もしかしてそれだけ?
 いやいやいやいや、四人だけとか大して変わらないし。焼け石に水だし。
 あれだよね。第七師団からは四人だけとかそう言うオチだよね。


「団長、他の師団からは何人くらい派遣されるんですか?」
「え? 君たちだけだよ?」
「へ?」


 マ・ジ・で?


「金貨百枚か~。夢が広がるなぁ~」
「初任務でテロリスト捕まえて勇者への道をショートカットだぜ」
「うしし、久々に暴れられる。手応えあるやつだといいんだがな」


 もしかしてこの人たち事の重大性を理解してないのかな?


「いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、待ってくださいって! なんでですか!? なんで他の師団からは出ないんですか!? 相手はあの翡翠の妖狐ですよ!? それに大罪魔法も絡んでいるならもっと人数いないと駄目じゃないんですか!?」
「マナの言うことも最もだし、現に俺は打診したんだ。でも断られた」
「なんでです?」
「まず、この前も言ったけど、上層部は大罪魔法の存在を認めていない。それと翡翠の妖狐の件に関してはリゼの情報が大部分を占めている。敵だった相手の情報は信用ならないってさ」


 ぐぬぬぬぬぬぬぬ、一理ありすぎる。


「かと言って、放置することもできない。だから、最低限の人数しか用意できなかったんだ」


 前々から思ってたんだけど、騎士団ってブラック過ぎない? やってられないんだけど。
 まぁでも、依頼内容は見つけ次第ってことだし、まだカリスト帝国にジェイドがいない可能性もあるから、それにかけるしかないかなぁ。
 敵に出会わないことを全力で願いつつ、私はゼルたちとジェイドの捜索及び捕縛の任務を開始するのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

貧弱の英雄

カタナヅキ
ファンタジー
この世界では誰もが生まれた時から「異能」と「レベル」呼ばれる能力を身に付けており、人々はレベルを上げて自分の能力を磨き、それに適した職業に就くのが当たり前だった。しかし、山奥で捨てられていたところを狩人に拾われ、後に「ナイ」と名付けられた少年は「貧弱」という異能の中でも異質な能力を身に付けていた。 貧弱の能力の効果は日付が変更される度に強制的にレベルがリセットされてしまい、生まれた時からナイは「レベル1」だった。どれだけ努力してレベルを上げようと日付変わる度にレベル1に戻ってしまい、レベルで上がった分の能力が低下してしまう。 自分の貧弱の技能に悲観する彼だったが、ある時にレベルを上昇させるときに身に付ける「SP」の存在を知る。これを使用すれば「技能」と呼ばれる様々な技術を身に付ける事を知り、レベルが毎日のようにリセットされる事を逆に利用して彼はSPを溜めて数々の技能を身に付け、落ちこぼれと呼んだ者達を見返すため、底辺から成り上がる―― ※修正要請のコメントは対処後に削除します。

魔力ゼロで出来損ないと追放された俺、前世の物理学知識を魔法代わりに使ったら、天才ドワーフや魔王に懐かれて最強になっていた

黒崎隼人
ファンタジー
「お前は我が家の恥だ」――。 名門貴族の三男アレンは、魔力を持たずに生まれたというだけで家族に虐げられ、18歳の誕生日にすべてを奪われ追放された。 絶望の中、彼が死の淵で思い出したのは、物理学者として生きた前世の記憶。そして覚醒したのは、魔法とは全く異なる、世界の理そのものを操る力――【概念置換(コンセプト・シフト)】。 運動エネルギーの法則【E = 1/2mv²】で、小石は音速の弾丸と化す。 熱力学第二法則で、敵軍は絶対零度の世界に沈む。 そして、相対性理論【E = mc²】は、神をも打ち砕く一撃となる。 これは、魔力ゼロの少年が、科学という名の「本当の魔法」で理不尽な運命を覆し、心優しき仲間たちと共に、偽りの正義に支配された世界の真実を解き明かす物語。 「君の信じる常識は、本当に正しいのか?」 知的好奇心が、あなたの胸を熱くする。新時代のサイエンス・ファンタジーが、今、幕を開ける。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

【超速爆速レベルアップ】~俺だけ入れるダンジョンはゴールドメタルスライムの狩り場でした~

シオヤマ琴@『最強最速』発売中
ファンタジー
ダンジョンが出現し20年。 木崎賢吾、22歳は子どもの頃からダンジョンに憧れていた。 しかし、ダンジョンは最初に足を踏み入れた者の所有物となるため、もうこの世界にはどこを探しても未発見のダンジョンなどないと思われていた。 そんな矢先、バイト帰りに彼が目にしたものは――。 【自分だけのダンジョンを夢見ていた青年のレベリング冒険譚が今幕を開ける!】

後日譚追加【完結】冤罪で追放された俺、真実の魔法で無実を証明したら手のひら返しの嵐!! でももう遅い、王都ごと見捨てて自由に生きます

なみゆき
ファンタジー
魔王を討ったはずの俺は、冤罪で追放された。 功績は奪われ、婚約は破棄され、裏切り者の烙印を押された。 信じてくれる者は、誰一人いない——そう思っていた。 だが、辺境で出会った古代魔導と、ただ一人俺を信じてくれた彼女が、すべてを変えた。 婚礼と処刑が重なるその日、真実をつきつけ、俺は、王都に“ざまぁ”を叩きつける。 ……でも、もう復讐には興味がない。 俺が欲しかったのは、名誉でも地位でもなく、信じてくれる人だった。 これは、ざまぁの果てに静かな勝利を選んだ、元英雄の物語。

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

魔王を倒した勇者を迫害した人間様方の末路はなかなか悲惨なようです。

カモミール
ファンタジー
勇者ロキは長い冒険の末魔王を討伐する。 だが、人間の王エスカダルはそんな英雄であるロキをなぜか認めず、 ロキに身の覚えのない罪をなすりつけて投獄してしまう。 国民たちもその罪を信じ勇者を迫害した。 そして、処刑場される間際、勇者は驚きの発言をするのだった。

処理中です...