ゴブリンでも勇者になれますか?

結生

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レミリアの実力

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「ありがとうございましたー」


 腹ごしらえを終えた私たちは一旦お店を後にし、街の中央にある広場までやってきた。


「だーめだ。なんも分からん」


 ダメもとで店内にいた人たちに一通りジェイドについて聞いてみたが何一つ成果を得られなかった。


「誰に聞いても分からないの一点張りだもんな。てか、ジェイドってやつの特徴はあってんのか?」
「確か顔に特徴的な縦線が入っているだったよね」
「そんな奴いたらぜってぇ忘れねぇだろ。なんで誰も見てねぇんだよ」


 ゼルの言う通りだ。顔に縦線が入った人なんてそうそういない。見てれば誰かしら覚えていてもいいはずだ。


「もし本当にこの街の誰もジェイドを見ていないのだとしたら、この街での目撃情報がデマって可能性も出てくるね」


 もしそうなら、私としてはラッキー。
 だって、翡翠の妖狐と戦う必要がないってことだもん。


「どうします? 一旦アジトに……レミリアさん?」


 レミリアさんにこの後の動きを確認しようとしたのだが、彼女は私の後ろをじっと見ていた。


「デマ、ではないようだ」
「え?」


 レミリアさんのその不穏な一言で嫌な予感がよぎり、後ろを振り返ると……。


「な、なんですかこれ!?」


 私たちを囲むように柄の悪い連中が集まっていた。
 その数、およそ三百。


「あ? なんだこいつらは?」
「まさかとは思うが、翡翠の妖狐か?」


 まさかって言うか絶対そうでしょ! だって、額とか肩とかに緑色の狐のタトゥー入れてる人ばっかじゃん! もう確定だよ!


「アタシたちに何か用か?」


 相手の人数に臆することなくレミリアさんは一歩前に出る。


「うちのボスからあんたら全員殺せと命令されてるんだ。悪いが大人しく死んでもらうぜ?」
「なるほど、そう言うことか。嵌められたな」


 殺すと脅されているのにレミリアさんはいたって冷静だった。


「嵌められたってどういう意味ですか!?」
「これは時間稼ぎだ。今回の件、騎士団は多くの人数を投入できない。向こうはそれを知っていた。そこで、その数人をこの大人数で潰してしまえば、連絡が途絶えたことを知った騎士団はジェイドがこの街にいると判断して大規模な作戦が開始されるだろう。だが、それにはある程度時間がかかる。騎士団をこのユミルに釘付けにしたいのなら、恐らくジェイド本人はこの近くにはいないだろう」
「それじゃあ、あの目撃情報って嘘だったってことですか!?」
「そうなるな」


 そうなるな、じゃないですよ! 何冷静に頷いているんですか!? 今の状況分かってます?


「ま、何にしてもあいつらぶっ飛ばせば、そのジェイドってやつの居場所が分かんだろ? ラッキーじゃねぇか」
「ああ、そうだな。ゴブリンごときと意見が合うのは癪だがわざわざ向こうから来てくれたんだ。全員のしてしまえばいいんだろ?」


 なんかこの二人やる気なんですけど!?!?
 ぜっっっっっったいむりだから!! 一体何人いると思ってるの!?


「いや、お前たちは下がっていろ」


 そんなやる気満々の二人の肩を掴んでレミリアさんが下がらせた。


「ここは先輩に任せておけ」


 え、嘘! 一人でやる気なんですか!? 相手は三百人もいるんですけど!? 私たち四人がかりでも勝てそうにないのに。
 それにだって、こう言ってはなんだけど、下級騎士ってことはそれほど強くはないはずだし。返り討ちにされる未来しか見えないんですけど!?


「なんだぁ? 最初にねえちゃんが相手してくれんのか?」
「ああ、かかって来い。一秒だけ付き合ってやる」


 何その斬新な敗北宣言!? 一秒って瞬殺される気満々ってこと!? 勝つ気ないの!? 


「なら、お言葉に甘えて、やっちまえ! お前ら!」


 言うやいなや翡翠の妖狐の構成員たちは一斉に魔法を発動させ、私たちに向かって放ってきた。
 炎、風、水、土、氷、雷などなど。多種多様な魔法攻撃が私たちに襲い掛かる。
 やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい!!! 死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ!!!
 そうピンチなのだ。絶体絶命なのだ。
なのに、それなのに。


「ふっ」


 レミリアさんは嬉しそうに微笑んだ。


「いい攻撃だ。なら、こちらも見せてあげよう」


 レミリアさんはゆっくりと右手を前に出し、親指と中指を合わせ上に向ける。


「アビス・グラビティ」


 そう言うと共にパチンっと指を鳴らす。
 すると……。


「なに!?」
「嘘!」


 一瞬にして私たちに放たれた魔法が掻き消えた。
 いや違う。正確には何かに押しつぶされて消えた。
 それだけじゃない。


「ぎゃああああああ!!」
「うわああああああああ!!!」


 私たちの周囲を囲っていた人たちも全員地に伏して起き上がれなかった。


「これは……重力魔法……」


 でも、こんな規模の魔法をあんな一瞬で展開できるなんて一体どんな魔力量してるんですかこの人!


「あ、やっべ」


 敵を全員倒したと言うのにレミリアさんは何かやらかしてしまったかのように声を漏らした。
 何事かと思って改めて周りを見渡しその理由が分かった。


「………………」


 その光景に声が出なかった。
 何故なら、レミリアさんの魔法でユミルの街がほぼ全壊してしまっていたからだ。
 私たちの周り以外全ての地面が重力魔法によって押しつぶされ隕石が落ちたかのような惨状になっていた。


「いや~まぁでも街の連中は翡翠の妖狐の連中を匿ってた節があったし、同罪みたいなもんだからいいしょ」


 当の本人は完全に開き直っている。
 いやダメだと思いますけど。


「おぉ! すげぇ~」
「バケモンか。この人」


 ゼルもヘイヴィアもレミリアさんの強さに感心していた。


「さぁてと、それじゃあ、ジェイドの居場所を吐いてもらおうか」
「いや、あの、レミリアさんそれは無理です」


 だって、レミリアさんの重力魔法によって全員気を失ってしまっているから。
 いくらなんでもやり過ぎです。


「あっちゃー。こりゃ参った。でも、ま、あそこは無事みたいだし、いいんじゃないか?」


 そう言ったレミリアさんの視線の先にはついさっき私たちが行った大きな屋敷が傷一つなく建っていた。


「あれは、強化魔法ですか?」
「だろうな。屋敷全体に強化魔法をかけて耐久性を上げていたのが幸いしたな。んじゃ、乗り込むか」


 レミリアさんの後に続いて私たちは再びユミルの領主がいる屋敷へと向かった
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