ゴブリンでも勇者になれますか?

結生

文字の大きさ
32 / 43

元シスターVS.自称王子様

しおりを挟む
 ディオナ神殿入り口前――。


「おらおらおらおら!!!」


 数十人を超える翡翠の妖狐のメンバーに囲まれたレミリアだったが、その数に臆することなく次々と敵を殴り飛ばしていく。


「おい! 誰か何とかしやがれ! 敵はたった一人だぞ!」
「無茶言うな! あいつ強すぎる!」
「クソ、これじゃ中に入ったネズミどもを追えねぇ」
「マスターの作戦じゃ、騎士団はまだ来ないんじゃなかったのか! 周辺の見張りに人数を割いたせいで中はがら空きだぞ」
「ああ、そのはずだった。だが、お前も見ただろ。上空をとんでもない速さで移動してたのを。ユミルにいた連中から連絡が途絶えてまだ二時間。こんな短時間で来るだなんて誰も予想してなかっただろ」


 翡翠の妖狐の作戦ではユミルに騎士団の目を釘付けにし、その間に大罪魔法の封印を解く手はずだった。
 しかし、レミリアの常人離れした魔法によって短時間でディオナ神殿に彼らはやってきた。


「どうしたどうした。こんなもんか!? まだ足んねぇぞ!」


 レミリアは魔法を使わず体術だけで、数十人もの敵を圧倒していた。


「ふむ、侵入者が来たという報告を受けて来てみれば、この状況はどういうことだい?」


 敵の集団の最後尾。そこに新たな男が現れた。
 年のころは二十代前半。仰々しいマントを羽織り、頭にはクリスタルで出来た王冠のようなものを付けている。


「グ、グリード様!」


 その男の登場に気が付いた翡翠の妖狐メンバーの一人がその名を口にした。


「ああ、君。ちょうどいい、今の状況を簡潔に述べたまえ」
「は、はい!」


 グリードに指を指された男は現状を報告した。


「なるほど。侵入者は四人、うち三人はすでに神殿の中か。だが、まぁ問題はあるまい。中にはスチールもメイヴィスもいる。先に行った三人は彼らに任せればいいだろう。彼女の相手は僕がする。君たちは下がっているといい。あれは君たちの敵う相手ではない」


 グリードは部下たちを下がらせ、レミリアの前に立つ。


「ん? なんだあんた? 他の奴らとは違うな?」


 明らかに毛色が違うグリードを見て、レミリアは警戒心を上げた。


「君の噂は聞いているよ。確か、そう、撃滅の巫女レミリア・ユークリウス」
「アタシのことを知っているのか?」
「ああ、君は一部界隈では有名だよ。元修道女にもかかわらず、戦闘力だけ見れば間違いなく帝国騎士団最強の一角と言える化け物」
「へぇ~分かってんじゃん」


 褒められたと受け取ったレミリアは嬉しそうに笑った。


「んで、あんたは誰だ? アタシはあんたのこと知らない」
「僕かい? 僕は王子だよ」
「ん? 王子?」
「そう。北方にあるコーディリア王国の王子さ」
「コーディリア、だと? あそこは五年も前に滅んだはずだ」
「その通り。コーディリアは滅んだ。いや、正確には僕が滅ぼした」
「あんたが? たった一人でか?」
「いいや、流石の僕でも一人で国を滅ぼすのには骨が折れる。だから、マスターの力を借りたんだ」
「マスター……ジェイドか。裏でそんなことまでやってたのか。こりゃ罪状が増えたな。それで? 王子であるあんたが、なんで自分の国を滅ぼす?」
「決まってるじゃないか。僕は王子だ。なのに、僕以外にも王子がいた。それが許せなかった。だから、国ごと滅ぼした」
「あ? 言ってる意味が分からねぇ」
「それは仕方がないことさ。だって、君は王子じゃない」
「ま、そうだな。犯罪者の考えることなんて分かりたくもねぇ。でも、一つ引っかかる。王子であることに固執しているあんたがなんでジェイドの下についてんだ?」
「目的が一致したからさ。僕は僕以外の王子をこの世から無くし、世界で唯一の王子になるためマスターに協力している」
「王族で何もかも手に入れられる立場だったのにそれを捨ててまで犯罪者になりたがるとはな。マジで何考えてんのか分かんねぇな」
「別に僕だけじゃない。翡翠の妖狐にはこの世界に対して不満を持つ貴族や王族が少なからずいる」
「ただのチンピラ集団じゃないってことか」


 レミリアは面倒くさそうに舌打ちをした。
 貴族や王族は遺伝的に高い魔力を持っている。魔力が高い、それだけで十分な戦力になる。
 それはつまりただの雑魚集団だと思っていた翡翠の妖狐にはその戦力になる人材が集まっているということになる。
 だから、神殿に新人を三人だけ行かせたのは判断ミスだったかもしれないとレミリアは後悔した。


「特に僕を含めた三人の幹部は君の騎士団で言うところの上級騎士に匹敵する。先に侵入した三人がどれほどの実力化は知らないが、中には内二人の幹部が控えている。その意味が分かるかい?」
「っち!」


 レミリアは咄嗟に振り返り、神殿に向かおうとする。


「おっと、行かせないよ」


 突如として桜吹雪が舞い散り、レミリアの行く手を塞ぐ。


「っく、今までも無駄話は私を足止めするためか」
「ご明察」
「足止めのつもりで残ったつもりが、足止めされてたのはアタシの方だったか」


 レミリアはグリードの方を睨む。


「でもま、秒であんたをぶっ飛ばせば問題ないな!」


 レミリアは地を蹴り、グリードに向かって拳を振るう。


「無駄だよ」


 桜吹雪がレミリアの拳に纏わりつき、勢いを殺す。その為、グリードに届く前に拳が止まった。


「まさか、魔法なしで僕に勝つつもり?」


 グリードが指をパチンと鳴らすと、レミリアに纏わりついていた桜吹雪が弾け、レミリアは後方へ吹き飛ばされる。


「いや、そもそも魔法が使えないのかな? ここに来るまで随分無理しただろう?」


 グリードは手を大きく上げ振り下ろす。
 すると、その動きに合わせて、桜吹雪がレミリアを襲う。


「あはは! いくら撃滅の巫女と言えど、魔力が無ければただの人。余裕で勝てそうだ!」


 グリードは高笑いし、止めどなく桜吹雪の攻撃を続ける。


「しゃらくせぇ!!!!」


 レミリアのその叫び声と共に桜吹雪が吹き飛んだ。


「なっ! 魔力がもう尽きていたんじゃないのか!? さっきまで魔法を使わずに戦ってたじゃないか!」
「残念だが、それは少し違う。温存してたんだ。あんたみたいな幹部と戦うために」
「っく! ブラフだったのか。だが、魔力の残量が少ないことには変わりない! ここで倒す!」


 グリードは両手を上げ、レミリアに向かって振り下ろそうとした。
 だが……。


「なん、だと……っ!」


 グリードは手を挙げたまま固まっていた。


「体が、動かない……。何をした!」
「“グラビティ・ロック”。全方向から重力をかけて体の自由を奪う魔法だ」
「…………は?」


 グリードはレミリアの言っている意味が分からず、素っ頓狂名声を漏らした。
 いや、言っている言葉の意味は理解している。しかし、頭がその事実を認められないのだ。
 レミリアはなんてことないように言ったが、人の動きを止めるために全方向から重力をかけるということは、寸分たがわず全く同じ重力をかけなければならない。
 少しでも重力をかける力を間違えれば、その方向に体は動き続けてしまう。
 見た目の豪快さとはかけ離れた繊細な魔力コントロールにグリードは息を呑んだ。


「あの変態野郎の技を真似るのは癪だが、アンタ一人に時間はかけてられない。次で決める」


 そう言うとレミリアは指をくいっと自分の方向へ向ける。


「な、なんだ、体が勝手に……」


 すると、グリードは段々とレミリアの方向へと引き寄せられていく。
 重力をかける方向を変えたのだ。
 そして、その引き寄せる力は段々と強くなり……。


「重力拳柔術……」


 レミリアは拳を構え、グリードの方へと飛んでいく。
 当然、重力を横方向にかけ、加速させていく。


「く、来るな!」


 この後、自分がどうなるか悟ったグリードだったが、もう遅い。
 レミリアの重力操作により、互いに引き寄せあい、そして、その速度はまさしく光の速さ。


「“疾風迅雷”」


 レミリアとグリードが重なり合う瞬間、レミリアは拳を突き出し、グリードの腹部に突き立てる。


「ぐはっ!」


 その瞬間、グリードにかかっていた重力を解き、後方へと吹き飛ばした。


「そ、そんな……グリード様が……」
「ひ、ひぃ!!!」


 グリードが敗れた事実を目の当たりに他のメンバーたちは勝ち目がないと逃げ出し始めた。
 しかし、そんな彼らを前にレミリアは執拗に追いかけるようなことはしなかった。


「…………っく」


 周りから人がいなくなったことを確認した後、レミリアはゆっくりと膝をついた。


「流石に魔力を使いすぎたか……。こりゃ、少し回復するまで待たないといけないな」


 レミリアは後ろを振り返り、ディオナ神殿の方を眺める。


「少し遅れるが、死ぬなよ。新人トリオ」

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ジャングリラ~悪魔に屠られ魔王転生。死の森を楽園に変える物語~

とんがり頭のカモノハシ
ファンタジー
「別の世界から勇者を召喚する卑怯な手口」に業を煮やした堕天使・ルシファーにより、異世界へ魔王として転生させられた大学生・左丹龍之介。 先代・魔王が勇者により討伐されて100年――。 龍之介が見たものは、人魔戦争に敗れた魔族が、辺境の森で厳しい生活を余儀なくされている姿だった。 魔族の生活向上を目指し、龍之介は元魔王軍の四天王、悪魔公のリリス、フェンリルのロキア、妖狐の緋魅狐、古代龍のアモンを次々に配下に収めていく。 バラバラだった魔族を再び一つにした龍之介は、転生前の知識と異世界の人間の暮らしを参考に、森の中へ楽園を作るべく奔走するのだが……

スキルで最強神を召喚して、無双してしまうんだが〜パーティーを追放された勇者は、召喚した神達と共に無双する。神達が強すぎて困ってます〜

東雲ハヤブサ
ファンタジー
勇者に選ばれたライ・サーベルズは、他にも選ばれた五人の勇者とパーティーを組んでいた。 ところが、勇者達の実略は凄まじく、ライでは到底敵う相手ではなかった。 「おい雑魚、これを持っていけ」 ライがそう言われるのは日常茶飯事であり、荷物持ちや雑用などをさせられる始末だ。 ある日、洞窟に六人でいると、ライがきっかけで他の勇者の怒りを買ってしまう。  怒りが頂点に達した他の勇者は、胸ぐらを掴まれた後壁に投げつけた。 いつものことだと、流して終わりにしようと思っていた。  だがなんと、邪魔なライを始末してしまおうと話が進んでしまい、次々に攻撃を仕掛けられることとなった。 ハーシュはライを守ろうとするが、他の勇者に気絶させられてしまう。 勇者達は、ただ痛ぶるように攻撃を加えていき、瀕死の状態で洞窟に置いていってしまった。 自分の弱さを呪い、本当に死を覚悟した瞬間、視界に突如文字が現れてスキル《神族召喚》と書かれていた。 今頃そんなスキル手を入れてどうするんだと、心の中でつぶやくライ。 だが、死ぬ記念に使ってやろうじゃないかと考え、スキルを発動した。 その時だった。 目の前が眩く光り出し、気付けば一人の女が立っていた。 その女は、瀕死状態のライを最も簡単に回復させ、ライの命を救って。 ライはそのあと、その女が神達を統一する三大神の一人であることを知った。 そして、このスキルを発動すれば神を自由に召喚出来るらしく、他の三大神も召喚するがうまく進むわけもなく......。 これは、雑魚と呼ばれ続けた勇者が、強き勇者へとなる物語である。 ※小説家になろうにて掲載中

どうも、命中率0%の最弱村人です 〜隠しダンジョンを周回してたらレベル∞になったので、種族進化して『半神』目指そうと思います〜

サイダーボウイ
ファンタジー
この世界では15歳になって成人を迎えると『天恵の儀式』でジョブを授かる。 〈村人〉のジョブを授かったティムは、勇者一行が訪れるのを待つ村で妹とともに仲良く暮らしていた。 だがちょっとした出来事をきっかけにティムは村から追放を言い渡され、モンスターが棲息する森へと放り出されてしまう。 〈村人〉の固有スキルは【命中率0%】というデメリットしかない最弱スキルのため、ティムはスライムすらまともに倒せない。 危うく死にかけたティムは森の中をさまよっているうちにある隠しダンジョンを発見する。 『【煌世主の意志】を感知しました。EXスキル【オートスキップ】が覚醒します』 いきなり現れたウィンドウに驚きつつもティムは試しに【オートスキップ】を使ってみることに。 すると、いつの間にか自分のレベルが∞になって……。 これは、やがて【種族の支配者(キング・オブ・オーバーロード)】と呼ばれる男が、最弱の村人から最強種族の『半神』へと至り、世界を救ってしまうお話である。

なぜ、最強の勇者は無一文で山に消えたのか? ──世界に忘れられ、ひび割れた心のまま始めたダークスローライフ。 そして、虹の種は静かに育ち始め

イニシ原
ファンタジー
ダークスローライフで癒しに耐えろ。 孤独になった勇者。 人と出会わないことで進む時間がスローになるのがダークスローライフ。 ベストな組み合わせだった。 たまに来る行商人が、唯一の接点だった。 言葉は少なく、距離はここちよかった。 でも、ある日、虹の種で作ったお茶を飲んだ。 それが、すべての始まりだった。 若者が来た。 食料を抱えて、笑顔で扉を叩く。 断っても、また来る。 石を渡せば帰るが、次はもっと持ってくる。 優しさは、静けさを壊す。 逃げても、追いつかれる。 それでも、ほんの少しだけ、 誰かと生きたいと思ってしまう。 これは、癒しに耐える者の物語。 *** 登場人物の紹介 ■ アセル 元勇者。年齢は40に近いが、見た目は16歳。森の奥でひとり暮らしている。 ■ アーサー 初老の男性。アセルが唯一接点を持つ人物。たまに森を訪れる。 ■ トリス 若者。20代前半。アーサー行方不明後、食料を抱えて森の家を訪れる。

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

異世界に無一文投下!?鑑定士ナギの至福拠点作り

花垣 雷
ファンタジー
「何もないなら、創ればいい。等価交換(ルール)は俺が書き換える!」 一文無しで異世界へ放り出された日本人・ナギ。 彼が持つ唯一の武器は、万物を解析し組み替える【鑑定】と【等価交換】のスキルだった。 ナギは行き倒れ寸前で出会った、最強の女騎士エリスと出会う。現代知識とチート能力を駆使して愛する家族と仲間たちのために「至福の居場所」を築き上げる、異世界拠点ファンタジーストーリー!

老衰で死んだ僕は異世界に転生して仲間を探す旅に出ます。最初の武器は木の棒ですか!? 絶対にあきらめない心で剣と魔法を使いこなします!

菊池 快晴
ファンタジー
10代という若さで老衰により病気で死んでしまった主人公アイレは 「まだ、死にたくない」という願いの通り異世界転生に成功する。  同じ病気で亡くなった親友のヴェルネルとレムリもこの世界いるはずだと アイレは二人を探す旅に出るが、すぐに魔物に襲われてしまう  最初の武器は木の棒!?  そして謎の人物によって明かされるヴェネルとレムリの転生の真実。  何度も心が折れそうになりながらも、アイレは剣と魔法を使いこなしながら 困難に立ち向かっていく。  チート、ハーレムなしの王道ファンタジー物語!  異世界転生は2話目です! キャラクタ―の魅力を味わってもらえると嬉しいです。  話の終わりのヒキを重要視しているので、そこを注目して下さい! ****** 完結まで必ず続けます ***** ****** 毎日更新もします *****  他サイトへ重複投稿しています!

外れギフト魔石抜き取りの奇跡!〜スライムからの黄金ルート!婚約破棄されましたのでもうお貴族様は嫌です〜

KeyBow
ファンタジー
 この世界では、数千年前に突如現れた魔物が人々の生活に脅威をもたらしている。中世を舞台にした典型的なファンタジー世界で、冒険者たちは剣と魔法を駆使してこれらの魔物と戦い、生計を立てている。  人々は15歳の誕生日に神々から加護を授かり、特別なギフトを受け取る。しかし、主人公ロイは【魔石操作】という、死んだ魔物から魔石を抜き取るという外れギフトを授かる。このギフトのために、彼は婚約者に見放され、父親に家を追放される。  運命に翻弄されながらも、ロイは冒険者ギルドの解体所部門で働き始める。そこで彼は、生きている魔物から魔石を抜き取る能力を発見し、これまでの外れギフトが実は隠された力を秘めていたことを知る。  ロイはこの新たな力を使い、自分の運命を切り開くことができるのか?外れギフトを当りギフトに変え、チートスキルを手に入れた彼の物語が始まる。

処理中です...