世界最強の幼馴染に養われている。

結生

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アーカイブⅡ

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「さてと、」


 次はエルフ王女誘拐事件だな。まぁ、正確にはメイド誘拐事件だけどな。
 この事件はほとんど関与してたし、今更詳しく調べる必要はないだろう。けど、ま一応見とくか。


「えっと、これか?」


 紫苑が捕まえた連中の取り調べ内容が記載された報告書を開く。
 だが……。


「まぁ、そうだよなぁ~」


 そこには取り調べの結果、犯人たちはヴェスパーの所属であることが分かったと書かれていた。
 アンリエッタから聞いてたし、もしかしたらと思っていたけど。


「さて、困った。どうしましょっか」


 エルフ王女誘拐事件の犯人はDDDのアーカイブを見たことによって事前にアンリエッタがセントラルに来ることを知っていた。
 アンリエッタが視察に来ることが発表されたのは当日。事前に知ることが出来たのはDDDの一部局員のみ。
 だからこそ、DDD本部襲撃事件の犯人と思われていたヴェスパーが疑われた。
 けど、DDD本部襲撃事件は恐らくヴェスパーの仕業ではない。
 そうなるとエルフ王女誘拐事件も必然的にヴェスパーでないはずなのだが……。


「もしていうかほぼ確定なんだけど、犯人連中がヴェスパーであったとして、一体奴らはどこでアンリエッタがセントラルに来ることを知ったんだ?」


 考えられる可能性があるとすれば、DDD本部襲撃事件は情報屋的な奴の仕業で、アンリエッタの情報をヴェスパーに流した。さらに自分が疑われないようにヴェスパーが犯人であるかのように偽装したってところか?
 辻褄は合うか?
 確かにそう考えれば、黒柳議員暗殺事件も納得がいく。
 あれもヴェスパーの仕業であるかのような仕込みがなされていた。それにDDD局員しか知らない内容を匂わせて。
 あれもDDD本部襲撃事件の犯人をヴェスパーに仕立て上げる為の偽装工作だったのかもしれない。
 一応、黒柳議員暗殺事件についても調べてみたが、これと言って新しい情報はなかった。
 昨日今日の話だし、まだ調査中か。
 けど、う~ん、まぁそうだな。これまでの事件でヴェスパーが犯人であるかのようにしていたのが気にはなっていたが、黒幕が他にいるのであれば納得だ。
 大体、レオナに送った手紙にヴェスパーである情報を混ぜていたのは意味が分からなかったしな。
 エルフ王女誘拐事件で自分たちがヴェスパーであることを隠していたらしいしな。取り調べでほとんど何も情報を吐かなかったから、ヴェスパーであることを知るのに数日の時間を要したとあったし。
そんな奴らが、自分たちが犯人であるかのように証拠を残すわけがない。
 動機はアーカイブにある何かの情報を得たかったってところだろうが、問題は誰が黒幕かだよな。
 つっても、これ以上何も情報ないしな~。ん~、ここ最近でヴェスパーが関わっているであろう事件でも探してみっか。
 DDD本部襲撃事件から今日までの間で、ヴェスパーが関与しているであろう事件を絞り込んで表示させる。


「うわ、最悪。なんもね~」


 俺が知っている事件以外でヴェスパーが犯人であるとされる事件は1件だった。
 それは当然俺が関わった能力者狩りの事件だ。つか、やべ、リストに入れ忘れて検索から出てきちまった。


「…………………ん? いや待てよ? 何かがおかしい」


 DDD本部襲撃事件以降、ヴェスパーが関わっているとされる事件は全て俺たちも関与してる。


「これは偶然なのか……?」


 いや、もし偶然じゃないとしたら、黒幕の狙いは俺たちか……? いいや、俺が狙われる理由はないし、多分紫苑の方が目当てだろうな。
 冷静に考えれば、偶然にしては出来すぎている。
 特に黒柳議員暗殺事件と能力者狩り事件。
 俺たちがたまたま泊りに行った宿で、たまたま政治家が暗殺され、その容疑者の中にたまたま紫苑の顔見知りである後輩がいるって流石におかしいよな。
 樹斗の件にしてみても、偶然依頼が来なければ俺は事件にかかわることはなかった。
 だがもしこれが……。

 俺たちがあの宿に泊まることを前提に起こされた事件だとしたら……。
 俺にあの依頼が送られることを前提に起こされた事件たとしたら……。


「あ、そう言うことか」


 頭の中で散らばっていたピースが嵌っていく。 
 その時、頭の中でこれまでの事件の全容が見えてきた。


「そうなると……」


 俺は自分の推理が合っているかどうかの裏付けをするため、アーカイブでいくつかの情報を引き出す。


「やっぱりそうか。恐らく、動機はこれ。だが、これって確か……」
「ん~~、ねぇ伊織、もう終わった?」


 今の今まで一人で眠っていた紫苑が目を覚まし、目を擦りながら俺に尋ねてきた。


「ああ、ほとんどな。けど、ちょっとだけお前に聞きたいことがあるんだが、この事件、覚えてるか?」
「え~、どれ?」


 俺は紫苑にアーカイブの画面を見せる。


「んにゃ、全然覚えてないや」
「だろうな」


 こいつの記憶力なんてこんなもんだ。期待してなかったから別にいいんだけど。


「あ、でも……」


 そこで紫苑の口からアーカイブにない重要な情報が語られた。


「おい! それホントか!?」
「あ、あい。どしたの? そんなに大声出して」
「ナイスだ紫苑。これなら止められるかもしれない」
「止める? 何を?」
「これまでの事件の黒幕をだよ。次に奴が動くであろうタイミングは分かっている」


 俺は鞄からついこの前、アンリエッタから貰った招待状を取り出す。
DDDのお偉い方も紫苑も参加するこのパーティー、黒幕にしたら絶好の機会だろう。


「紫苑、次でこれまでの事件に終止符を打つぞ」
「なんか分かんないけど、オッケー! 任せといて!」


 当日までに黒幕を止める為の仕込みをしておかないとな。
 今回ばかりは紫苑が黒幕を倒して解決とはいかなさそうだからな。
 これは紫苑にはできない、俺の仕事だ。
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