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プロローグ
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結城紫苑、5歳。
「私、こんなのいらない……いのうりょくなんて、だいっきらい……」
彼女はその幼さにして、既に人を殺していた。
当時はまだ異能力の制御がままならず、その強大過ぎる異能に振り回され、殺人と言う罪を背負わされた。
意図せずのことであり、それは事故として処理された。
けれど、世間はそうは思ってくれなかった。
外に出れば人殺しと指を刺され、同級生の親たちは自分の子供を決して彼女に近づけさせようとはしなかった。
それは幼い少女にとって耐えられるものではなかった。
だから、彼女はその事件以降、あまり外に出なくなった。
「あれ? おっきいくるま……」
そんなある日、結城家の隣に紫苑と年の近い少年を連れた家族が引っ越してきた。
「パパ、あれなに?」
「ああ、今日からうちの隣に引っ越してきたんだよ。挨拶しに行くか?」
「うんん、いい」
その時、紫苑は誰とも会いたくなかった。その隣の人ともずっと会うつもりはなかった。
けど……。
「だれ?」
「お隣さんの家の子。預かるように頼まれてしまってね」
「そう……」
引っ越してきたばかりでまだその少年を通わせる幼稚園を見つけられず、両親は共働きであった為、一時的に結城家で預かることになった。
近所の人間であれば、紫苑を恐れ絶対に結城家にそのようなことを頼むことはなかっただろう。引っ越してきたばかりで紫苑のことを知らなかったがために、普通に頼んできたのだろう。
「あら、もうこんな時間。お買い物どうしようかしら」
紫苑の母親は紫苑と隣の少年を見て困っていた。
まだ幼い少年少女だけに家を任せることは出来ないだろう。かと言って、子供2人を連れて外に出るのは気が引けていた。
近所であまり評判の良くない紫苑と一緒にいるところを見られると、その少年に対するあらぬ噂が広まってしまうことを恐れたのだ。
「ママ、おるすばんできる」
「んー」
紫苑のその提案に母親は迷っていた。
「じゃあ、お願いしようかしら。すぐ帰ってくるから。知ってる人が来ても出ちゃだめだからね?」
「うん」
そして、紫苑の母親は2人を置いて買い物に出かけた。
今、結城家には紫苑と隣の少年しかいない。
「おねぇちゃん、あそぼ?」
「いそがしいから」
素っ気なくそう言うと、紫苑は少年をリビングに残し、1人で自分の部屋に戻ってしまった。
紫苑は留守番をするとは言ったが、少年の面倒を見るつもりは最初からなかった。
「………………」
紫苑が自分の部屋に引きこもって本を読み始めて数分がたった頃。
パリン!
リビングの方で何かが割れる音がした。
「はぁ~」
どうせあの少年がいたずらして食器かなにか落としたのだろうと紫苑は思った。
放っておいて後で親に何か言われるのも嫌なので、紫苑は仕方なくリビングの方へと戻った。
「なにして……」
しかし、そこには見覚えの大人が2人立っていた。
リビングの隅では少年が涙を浮かべながら震えていた。
「おい、女のガキがいたぞ」
「じゃあ、こっちじゃねぇのか」
「どうせ手間は変わらねぇんだ、多い方がいい。そっちも連れてくぞ」
リビングの窓が割られており、先ほどの音はそれだろう。また、この大人たちが入ってきたのも恐らくそこからだ。
「でも、大丈夫か? そのガキ、やべぇ異能力持ってるんだろ?」
「だが、その分、高く売れる」
その大人たちの目的は紫苑だった。
彼らは紫苑が異能力で人を殺したという情報を聞きつけた能力者狩り達だ。
当然、紫苑はそんなことは知らない。
「……」
知らない大人、向けられる悪意。
子供であれば少年のあの反応が普通だろう。
けれど、紫苑は違った。
恐怖はなかった。
何故なら、異能力があったから。自分ならこの人たちに勝てるとそう思っていたから。
ただ、そうであったとしても抵抗するかはまた別の話。
紫苑にその気はなかった。
異能力を使えば確かに勝てるだろう、しかし、それではまた前と同じように殺してしまう。
紫苑はもう2度と異能力を使わないと決めていた。それが例え自分の命の危機であっても。
そう決めていた。
なのに……。
「たすけて……おねぇちゃん……」
視界の端でそう涙ぐむ少年を見た瞬間、紫苑は異能力を使い、男を吹き飛ばしていた。
「がっ……」
「な、なんだ……!?」
仲間の1人が急に吹っ飛ばされて動揺した隙にもう1人を地面に叩きつけた。
「うっ!」
家の外まで吹き飛ばした男は首が完全に折れ息をしておらず、地面に叩きつけた方は両腕両足が潰れ生きているか怪しい状態だった。
「あ、ああ……」
それを見て、紫苑はまたやってしまったと悔み、膝を折り、顔を覆った。
それは涙を隠すためでもあったが、それ以上にこの惨状を見た少年の顔が見たくなかったのだ。
紫苑があの日、初めて人を殺してしまった時、周囲にいた人たちの目が彼女にとってトラウマだったから。
いち早くここから逃げたかった。
だから、少年に背を向けリビングから出ようとした。
「…………え?」
そんなはずはない。紫苑はそう思った。
でも、後ろを振り向くと少年が紫苑に抱き着いていた。
「ありあとー」
舌っ足らずのお礼。
その意味を紫苑はすぐには理解できなかった。
「こわく、ないの?」
「?」
少年は紫苑のその問いに首を傾げた。
「おねぇちゃん、かっくいーよ?」
「え、で、でも……」
「たすけてくれたもん!
――だから、かっくいー!」
その少年の目はキラキラと輝いていた。
それは今まで向けられたことのない感情だった。
大人たちは恐怖や憎悪。子供たちからは奇異の目で見られていた。親は、私は悪くないと慰めてくれるだけ。
誰も紫苑を理解してくれる人はいなかった。
だから、だから、こそ多分、それは紫苑が一番欲しかった言葉だったのだと思う。
「うん、ありあとー」
だから、紫苑は涙を流しながら少年に俺を伝えた。
「え? え? なんでおねぇちゃんがありあとーなの?」
「なんでも、よ。そうだ、まだ、きみのなまえきいてなかった」
その声は今までの紫苑とは全く違う心が弾んだ声だった。
「わたしはゆうきしおん。きみは?」
「ぼくの名前は――――」
「私、こんなのいらない……いのうりょくなんて、だいっきらい……」
彼女はその幼さにして、既に人を殺していた。
当時はまだ異能力の制御がままならず、その強大過ぎる異能に振り回され、殺人と言う罪を背負わされた。
意図せずのことであり、それは事故として処理された。
けれど、世間はそうは思ってくれなかった。
外に出れば人殺しと指を刺され、同級生の親たちは自分の子供を決して彼女に近づけさせようとはしなかった。
それは幼い少女にとって耐えられるものではなかった。
だから、彼女はその事件以降、あまり外に出なくなった。
「あれ? おっきいくるま……」
そんなある日、結城家の隣に紫苑と年の近い少年を連れた家族が引っ越してきた。
「パパ、あれなに?」
「ああ、今日からうちの隣に引っ越してきたんだよ。挨拶しに行くか?」
「うんん、いい」
その時、紫苑は誰とも会いたくなかった。その隣の人ともずっと会うつもりはなかった。
けど……。
「だれ?」
「お隣さんの家の子。預かるように頼まれてしまってね」
「そう……」
引っ越してきたばかりでまだその少年を通わせる幼稚園を見つけられず、両親は共働きであった為、一時的に結城家で預かることになった。
近所の人間であれば、紫苑を恐れ絶対に結城家にそのようなことを頼むことはなかっただろう。引っ越してきたばかりで紫苑のことを知らなかったがために、普通に頼んできたのだろう。
「あら、もうこんな時間。お買い物どうしようかしら」
紫苑の母親は紫苑と隣の少年を見て困っていた。
まだ幼い少年少女だけに家を任せることは出来ないだろう。かと言って、子供2人を連れて外に出るのは気が引けていた。
近所であまり評判の良くない紫苑と一緒にいるところを見られると、その少年に対するあらぬ噂が広まってしまうことを恐れたのだ。
「ママ、おるすばんできる」
「んー」
紫苑のその提案に母親は迷っていた。
「じゃあ、お願いしようかしら。すぐ帰ってくるから。知ってる人が来ても出ちゃだめだからね?」
「うん」
そして、紫苑の母親は2人を置いて買い物に出かけた。
今、結城家には紫苑と隣の少年しかいない。
「おねぇちゃん、あそぼ?」
「いそがしいから」
素っ気なくそう言うと、紫苑は少年をリビングに残し、1人で自分の部屋に戻ってしまった。
紫苑は留守番をするとは言ったが、少年の面倒を見るつもりは最初からなかった。
「………………」
紫苑が自分の部屋に引きこもって本を読み始めて数分がたった頃。
パリン!
リビングの方で何かが割れる音がした。
「はぁ~」
どうせあの少年がいたずらして食器かなにか落としたのだろうと紫苑は思った。
放っておいて後で親に何か言われるのも嫌なので、紫苑は仕方なくリビングの方へと戻った。
「なにして……」
しかし、そこには見覚えの大人が2人立っていた。
リビングの隅では少年が涙を浮かべながら震えていた。
「おい、女のガキがいたぞ」
「じゃあ、こっちじゃねぇのか」
「どうせ手間は変わらねぇんだ、多い方がいい。そっちも連れてくぞ」
リビングの窓が割られており、先ほどの音はそれだろう。また、この大人たちが入ってきたのも恐らくそこからだ。
「でも、大丈夫か? そのガキ、やべぇ異能力持ってるんだろ?」
「だが、その分、高く売れる」
その大人たちの目的は紫苑だった。
彼らは紫苑が異能力で人を殺したという情報を聞きつけた能力者狩り達だ。
当然、紫苑はそんなことは知らない。
「……」
知らない大人、向けられる悪意。
子供であれば少年のあの反応が普通だろう。
けれど、紫苑は違った。
恐怖はなかった。
何故なら、異能力があったから。自分ならこの人たちに勝てるとそう思っていたから。
ただ、そうであったとしても抵抗するかはまた別の話。
紫苑にその気はなかった。
異能力を使えば確かに勝てるだろう、しかし、それではまた前と同じように殺してしまう。
紫苑はもう2度と異能力を使わないと決めていた。それが例え自分の命の危機であっても。
そう決めていた。
なのに……。
「たすけて……おねぇちゃん……」
視界の端でそう涙ぐむ少年を見た瞬間、紫苑は異能力を使い、男を吹き飛ばしていた。
「がっ……」
「な、なんだ……!?」
仲間の1人が急に吹っ飛ばされて動揺した隙にもう1人を地面に叩きつけた。
「うっ!」
家の外まで吹き飛ばした男は首が完全に折れ息をしておらず、地面に叩きつけた方は両腕両足が潰れ生きているか怪しい状態だった。
「あ、ああ……」
それを見て、紫苑はまたやってしまったと悔み、膝を折り、顔を覆った。
それは涙を隠すためでもあったが、それ以上にこの惨状を見た少年の顔が見たくなかったのだ。
紫苑があの日、初めて人を殺してしまった時、周囲にいた人たちの目が彼女にとってトラウマだったから。
いち早くここから逃げたかった。
だから、少年に背を向けリビングから出ようとした。
「…………え?」
そんなはずはない。紫苑はそう思った。
でも、後ろを振り向くと少年が紫苑に抱き着いていた。
「ありあとー」
舌っ足らずのお礼。
その意味を紫苑はすぐには理解できなかった。
「こわく、ないの?」
「?」
少年は紫苑のその問いに首を傾げた。
「おねぇちゃん、かっくいーよ?」
「え、で、でも……」
「たすけてくれたもん!
――だから、かっくいー!」
その少年の目はキラキラと輝いていた。
それは今まで向けられたことのない感情だった。
大人たちは恐怖や憎悪。子供たちからは奇異の目で見られていた。親は、私は悪くないと慰めてくれるだけ。
誰も紫苑を理解してくれる人はいなかった。
だから、だから、こそ多分、それは紫苑が一番欲しかった言葉だったのだと思う。
「うん、ありあとー」
だから、紫苑は涙を流しながら少年に俺を伝えた。
「え? え? なんでおねぇちゃんがありあとーなの?」
「なんでも、よ。そうだ、まだ、きみのなまえきいてなかった」
その声は今までの紫苑とは全く違う心が弾んだ声だった。
「わたしはゆうきしおん。きみは?」
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