異世界学園系乙女ゲーヒロインに転生したけど浮気とか絶対無理なんで、逆ハールートは断固拒否します!!!

めがねこ

文字の大きさ
9 / 11

第九話:聖ルミナリア学園と生徒会

しおりを挟む
 私が学園に入学する初日。
 ついに、その日が来てしまった。

 メイドのマヤと、皇太子の婚約者兼「悪役令嬢」ことキャロラインに気づかれぬよう、そっと深呼吸をしても、緊張はまるで和らがない。
 心臓は、今にも口から飛び出しそうなほど激しく脈打っていた。

「いってらっしゃいませ、リナ様、キャロライン様。」

 マヤが深々とカーテシーをし、私たちを見送る。

「いってきます、マヤ。」

 できる限り自信に満ちた笑顔を向ける。
 大丈夫、きっと上手くいく。そう言い聞かせるように。

「乙女様、ご準備はできまして?」

 キャロラインが優雅に長く巻かれた艶やかな髪を後ろへと払いながら問う。その何気ない仕草すら美しく、同性の私でもつい見惚れてしまう。

「は、はい!」

 少し声が上擦ったものの、なんとか返事をすると、キャロラインは迷いのない足取りで、私を寮のすぐ隣にある聖ルミナリア学園へと案内し始めた。
 とはいえ、寮があまりに広大なため、歩くと案外時間がかかる。

「わたくしたち上級生の中でも、試験に合格した者は空間移動魔法で通学できますの。ですが今日は、乙女様に景色をご案内しようと思いまして。少し長く感じられるかもしれませんが、ご容赦くださいませ。」

「そうなんですね。じゃあ、普段は空間移動魔法で通われてるんですか?」

 純粋な疑問を口にすると、キャロラインは誇らしげに頷いた。

「ええ、その通りですわ。わたくしはエドモンド・アウレリウス殿下の婚約者。王妃になるべく、幼い頃から教育の一環として実習魔法も習得してきましたので、この程度のことは朝飯前ですの。」

 まぁ、そうだよね。
 彼女のような名家の令嬢なら、幼少期から家庭教師に囲まれ、ありとあらゆる教養と技術を叩き込まれているのだろう。
 それにしても、彼女が「この程度」と言い切った空間移動魔法は、生まれ持った高い魔力、徹底した教育、そして気の遠くなるような訓練が必要な超高度魔法だ。
 さすが聖ルミナリア学園。ここには、そうした天才たちが集まってくる。彼女も、その一人なのだろう。

「すごいですね…。それに、皇太子様の婚約者なんて、きっと相当な努力と苦労をされてきたんですね。尊敬します。」

 思ったままの気持ちを伝える。
 もし私だったら、幼い頃から決められたレールの上を歩く人生なんて、想像もつかない。

「リナ、わたくしに敬語は不要ですわよ。それに、わたくしはただ、幼い頃からそうしてきただけですもの。不思議に思ったことも、嫌だと感じたこともありませんわ。」

 それが「当たり前」の人生だったのだ。彼女はそう微笑んだ。
 どうやら、初対面の時よりは警戒心を解いてくれたらしい。

「そうなんだ。やっぱりキャロラインはすごいね。私なんかがどれだけ力になれるか分からないけど、同じクラスメイトで寮の隣人なんだし、困ったことがあったら言ってね。これから宜しく!」

 そう伝えると、彼女はふっと柔らかく微笑んだ。
 それにしても、前世で流行っていたのにプレイしなかったルミクロを、今更ながら猛烈に後悔する。
 キャロラインのどこが「悪役令嬢」なのか?
 ヒロインと皇太子の仲を邪魔するから?
 でも、それって当たり前だよね。婚約者なんだから。
 今のところ、嫌な人どころか、とても素敵な人だ。
 ますます謎は深まるばかり。

 そうこうしているうちに、学園の正門に着いた。
 天高くそびえる門は、まるで芸術品のような繊細な装飾が施され、歴史ある学園とは思えないほど金色に輝いている。
 建物も、ほとんどお城。
 純白に金の装飾が施され、教室の窓は大きく、内装も埃一つない。まるで本物の城の中に教室を作ったかのようだ。

 ここが、ルミクロの舞台、聖ルミナリア学園かぁ。
 正直、私は勉強が得意ではない。前世ではバイト漬け、今世では孤児院の家事と育児で手一杯。
 読み書きなどの基礎はシスターたちが教えてくれたが、この学園の授業についていける自信はない。
 キャロラインやミカエルがサポートしてくれると言ってくれたけれど、なるべく迷惑はかけたくない。

 そんなことを考えていると、キャロラインは学園の奥へと進んでいく。

「今向かっているのは、生徒会の部室ですわ。今日は、癒しの乙女であるリナをお迎えするために皆様が集まっているはずです。ただ、皆様中々に個性的ですので、ご覚悟なさってくださいませ。」

 あれ?
 そんな設定、あったっけ。
 そういえば女子たちが「生徒会のイベントが~」とか言ってた気がするような…。

 そう思っているうちに、キャロラインは「生徒会」と大きく書かれた豪華な扉をノックした。

「どうぞ。」

 中から声がして、キャロラインが扉を開ける。

「失礼致しますわ。」

 そこには、五人の個性的で眉目秀麗な男子生徒たちが待っていた。

 あ、これ、全員攻略対象だ。

 中でもひときわ輝いていた金髪に黄金の瞳の男子生徒が、にこやかに私に声をかけてきた。

「初めまして、癒しの乙女様。会えて嬉しいよ。僕はエドモンド・アウレリウス。聖ルミナリア学園の生徒会長を務めているよ。ようこそ、我が学園へ。そして生徒会へ。これから、どうぞ宜しくね。」

 まさかの、エドモンド・アウレリウス殿下!

「は、初めまして、エドモンド・アウレリウス殿下。王国の太陽に、ご挨拶申し上げます。」

 緊張しつつ、なんとか挨拶をした。

「そんなに畏まらなくていいよ。同じ学年なんだから、同級生同士、フラットに行こう。」

 彼は朗らかで、優しげな雰囲気だった。

「さぁ、みんなも自己紹介して。」

 彼に促され、隣にいた真面目そうで神経質そうな、冷たい雰囲気を纏った青髪青眼のメガネ男子が、メガネを押し上げながら口を開いた。

「初めまして、癒しの乙女様。僕は副生徒会長のウィリアム・ノートンです。以後、お見知り置きを。」

 彼の微笑みは、どこか胡散臭い。
 私を値踏みしているのがありありと伝わってきた。

「俺はラウル・ヴァレンティーニ!よろしくな!」

 赤髪で褐色の肌、身体中に傷のある三白眼の彼が、豪快に笑って名乗る。

 残るは二人。
 長身の生徒が茶髪の少年を伺い、彼が喋らないのを見てから、口を開いた。

「…自分はダグラス。平民です。よろしく。」

 オレンジ色の短髪に水色の瞳、そばかすが印象的な無口な生徒。

 最後に、ぶすっとした様子の茶髪に金色の瞳の少年が、嫌そうに口を開いた。

「リュカ・アウレリウス。第二王子。あんたの一学年下。」

 可愛い見た目に反して、どこか気まぐれで小悪魔な雰囲気を漂わせていた。

 これで全員が名乗った。
 一斉に注がれる視線の中、私はなんとか声を絞り出す。

「い、癒しの乙女のリナと申します。これから皆さんのお世話になります。どうぞ、よろしくお願いします。」

 ああ、私の学園生活、一体どうなってしまうんだろう。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

悪役令息、前世の記憶により悪評が嵩んで死ぬことを悟り教会に出家しに行った結果、最強の聖騎士になり伝説になる

竜頭蛇
ファンタジー
ある日、前世の記憶を思い出したシド・カマッセイはこの世界がギャルゲー「ヒロイックキングダム」の世界であり、自分がギャルゲの悪役令息であると理解する。 評判が悪すぎて破滅する運命にあるが父親が毒親でシドの悪評を広げたり、関係を作ったものには危害を加えるので現状では何をやっても悪評に繋がるを悟り、家との関係を断って出家をすることを決意する。 身を寄せた教会で働くうちに評判が上がりすぎて、聖女や信者から崇められたり、女神から一目置かれ、やがて最強の聖騎士となり、伝説となる物語。

男女比1:15の貞操逆転世界で高校生活(婚活)

大寒波
恋愛
日本で生活していた前世の記憶を持つ主人公、七瀬達也が日本によく似た貞操逆転世界に転生し、高校生活を楽しみながら婚活を頑張るお話。 この世界の法律では、男性は二十歳までに5人と結婚をしなければならない。(高校卒業時点は3人) そんな法律があるなら、もういっそのこと高校在学中に5人と結婚しよう!となるのが今作の主人公である達也だ! この世界の経済は基本的に女性のみで回っており、男性に求められることといえば子種、遺伝子だ。 前世の影響かはわからないが、日本屈指のHENTAIである達也は運よく遺伝子も最高ランクになった。 顔もイケメン!遺伝子も優秀!貴重な男!…と、驕らずに自分と関わった女性には少しでも幸せな気持ちを分かち合えるように努力しようと決意する。 どうせなら、WIN-WINの関係でありたいよね! そうして、別居婚が主流なこの世界では珍しいみんなと同居することを、いや。ハーレムを目標に個性豊かなヒロイン達と織り成す学園ラブコメディがいま始まる! 主人公の通う学校では、少し貞操逆転の要素薄いかもです。男女比に寄っています。 外はその限りではありません。 カクヨムでも投稿しております。

社畜OLが学園系乙女ゲームの世界に転生したらモブでした。

星名柚花
恋愛
野々原悠理は高校進学に伴って一人暮らしを始めた。 引越し先のアパートで出会ったのは、見覚えのある男子高校生。 見覚えがあるといっても、それは液晶画面越しの話。 つまり彼は二次元の世界の住人であるはずだった。 ここが前世で遊んでいた学園系乙女ゲームの世界だと知り、愕然とする悠理。 しかし、ヒロインが転入してくるまであと一年ある。 その間、悠理はヒロインの代理を務めようと奮闘するけれど、乙女ゲームの世界はなかなかモブに厳しいようで…? 果たして悠理は無事攻略キャラたちと仲良くなれるのか!? ※たまにシリアスですが、基本は明るいラブコメです。

転生したので推し活をしていたら、推しに溺愛されました。

ラム猫
恋愛
 異世界に転生した|天音《あまね》ことアメリーは、ある日、この世界が前世で熱狂的に遊んでいた乙女ゲームの世界であることに気が付く。  『煌めく騎士と甘い夜』の攻略対象の一人、騎士団長シオン・アルカス。アメリーは、彼の大ファンだった。彼女は喜びで飛び上がり、推し活と称してこっそりと彼に贈り物をするようになる。  しかしその行為は推しの目につき、彼に興味と執着を抱かれるようになったのだった。正体がばれてからは、あろうことか美しい彼の側でお世話係のような役割を担うことになる。  彼女は推しのためならばと奮闘するが、なぜか彼は彼女に甘い言葉を囁いてくるようになり……。 ※この作品は、『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

主人公の義兄がヤンデレになるとか聞いてないんですけど!?

玉響なつめ
恋愛
暗殺者として生きるセレンはふとしたタイミングで前世を思い出す。 ここは自身が読んでいた小説と酷似した世界――そして自分はその小説の中で死亡する、ちょい役であることを思い出す。 これはいかんと一念発起、いっそのこと主人公側について保護してもらおう!と思い立つ。 そして物語がいい感じで進んだところで退職金をもらって夢の田舎暮らしを実現させるのだ! そう意気込んでみたはいいものの、何故だかヒロインの義兄が上司になって以降、やたらとセレンを気にして――? おかしいな、貴方はヒロインに一途なキャラでしょ!? ※小説家になろう・カクヨムにも掲載

この世界に転生したらいろんな人に溺愛されちゃいました!

キムチ鍋
恋愛
前世は不慮の事故で死んだ(主人公)公爵令嬢ニコ・オリヴィアは最近前世の記憶を思い出す。 だが彼女は人生を楽しむことができなっかたので今世は幸せな人生を送ることを決意する。 「前世は不慮の事故で死んだのだから今世は楽しんで幸せな人生を送るぞ!」 そこからいろいろな人に愛されていく。 作者のキムチ鍋です! 不定期で投稿していきます‼️ 19時投稿です‼️

『身長185cmの私が異世界転移したら、「ちっちゃくて可愛い」って言われました!? 〜女神ルミエール様の気まぐれ〜』

透子(とおるこ)
恋愛
身長185cmの女子大生・三浦ヨウコ。 「ちっちゃくて可愛い女の子に、私もなってみたい……」 そんな密かな願望を抱えながら、今日もバイト帰りにクタクタになっていた――はずが! 突然現れたテンションMAXの女神ルミエールに「今度はこの子に決〜めた☆」と宣言され、理由もなく異世界に強制転移!? 気づけば、森の中で虫に囲まれ、何もわからずパニック状態! けれど、そこは“3メートル超えの巨人たち”が暮らす世界で―― 「なんて可憐な子なんだ……!」 ……え、私が“ちっちゃくて可愛い”枠!? これは、背が高すぎて自信が持てなかった女子大生が、異世界でまさかのモテ無双(?)!? ちょっと変わった視点で描く、逆転系・異世界ラブコメ、ここに開幕☆

悪役の烙印を押された令嬢は、危険な騎士に囚われて…

甘寧
恋愛
ある時、目が覚めたら知らない世界で、断罪の真っ最中だった。 牢に入れられた所で、ヒロインを名乗るアイリーンにここは乙女ゲームの世界だと言われ、自分が悪役令嬢のセレーナだと教えられた。 断罪後の悪役令嬢の末路なんてろくなもんじゃない。そんな時、団長であるラウルによって牢から出られる事に…しかし、解放された所で、家なし金なし仕事なしのセレーナ。そんなセレーナに声をかけたのがラウルだった。 ラウルもヒロインに好意を持つ一人。そんな相手にとってセレーナは敵。その証拠にセレーナを見る目はいつも冷たく憎しみが込められていた。…はずなのに? ※7/13 タイトル変更させて頂きました┏○))ペコリ

処理中です...