上 下
27 / 195
第3章 大輔編

風前の灯

しおりを挟む
 まず食えと有無を言わさずにお椀とスプーン、水の入った木のカップを大輔は渡された。そして無理やり食べさせられる。塩味のみ効いた具入りのスープかシチューのようなどろっとした不味い物だった。それは消化に良い病人食と言われたのだ。

 周りは中世を舞台にした映画で出てくるような傭兵や兵士達の駐屯地?の様だと大輔は感じていた。しかし、首に付けられていた首輪と格子のある部屋から嫌な予感がしていたが、あまりにお腹が空いているので、無心になり喉に押し込んでいた。

 食べ終わるとボスと言われた商人風の格好をした男がやって来て徐に話してきた。

「儂がお前の主人だ。首輪から分かる様にお前は闘技奴隷だ。規則に則り説明をするから良く聞け。一度しか言わないし、命に関わるから真剣に聞け」

 と説明を始めた。時間がないとかなり大雑把だった。

 要約すると大輔は砂漠の真ん中で血まみれで倒れていて、助けてやる代わりに奴隷にしたと。放っていたら1日持たなかったらしい。

 闘技奴隷として、剣闘士として闘技場で戦うと。場合によっては降伏を認められず命を取られる事もある。

 今日は3時間後に早速出てもらうと言う。

 奴隷は主の命令は絶対で、逆らうと苦痛が発生し、逆らい続けると死に至る。
 闘技奴隷は10戦し生き残れば解放され、剣闘士として留まるもよし、去るも自由だと。勝てばファイトマネーも出ると。それと衆道はここでは禁止しているから、尻は心配するなと。

 そして大輔の腕前を見る事となり、練習場所で先の大男と木剣で打ち合い実力を見る事となった。

 大輔はまだ頭がちゃんと働かず、訳がわからぬまま連れてこられたので一度悪態をついたら命令と言われたのだが、命令拒否と受けとめられ死にそうな位に苦しくなった。

「やります!やりますから赦して下さい」

と泣く嵌めになった。一度の苦しみで反抗心が折れてしまった。

 息が出来ず従うしかなかったのだ。殆ど息ができず、胸が締め付けられて潰れそうな位辛かったのだ。暫くは何とか足掻いたが、それだけだった。

 ボスと言われていた座長は大輔が奴隷の事を知らないとは思っておらず、一度とはいえ逆らった事に対し驚きと、中々根性がある奴だと少し期待していた。

 しかし、大男が

「よし、まず俺を攻撃しろ。次は受けろと言ったら俺の攻撃を受け止めろ」

 そうしてへっぷり腰で剣を振る。剣道の構えで行くが、あまりのへっぷり具合に避けずに手で掴んでしまった。

「おいおいふざけてるのか?俺は既に奴隷じゃないんだ。場数を踏んでいるからお前の攻撃なんぞ当たらないから死ぬ気で来い」

 大輔はダッシュし突きを出す。ダッシュだけは速かったがそれだけだった。
 あっさり頭を叩かれる。何度か打ち合うが同じだ。
 ただ、防御だけは力任せじゃない限り何故か見えるのでなんとか受け流したが、力任せの凪払いは受け止めきれず吹き飛ばされた。

 座長が

「ダメだな。奴にぶつけるか。おいダイス、駄目だとは思うが今からまだ二時間ある。ガラグに稽古をつけてもらえ。お前、剣を使った事もないのだろう。そうだな、対戦相手を倒したら褒美をくれてやろう。もし殺すか降参させられたら女をくれてやる。何かあるか?奴隷に対しても儂は約束を守るぞ。まあ、まず間違いなくお前は奴に殺されるがな。せいぜい楽に死なせてくれるように祈るんだな」

「くそ。じゃあ相手が
死んだら生娘を寄越せよ。足掻いてやる!」

「ほう、憎まれ口を叩く気力がまだ有ったのだな。まあ、お前の思うようなのとは違うだろうが、本当に倒したら生娘を抱かせてやるよ。まあ無理だろうがな。それとほら、お前が身に付けていた物だ。これはなんだ?」

 服がボロボロだった。ジャージの背中は血まみれだが、今は体に傷はない。またウエストポーチには電源の切れたスマホや買ってきた充電器が入っていた。

「私のいた国のお守りですよ。これに依存して生きている者が大勢います。」

「ふん、そうか。まあ、精々祈って頑張るんだな。祈りの道具だから返してやるよ。ガラグ、悪いが多少は使えるようにしてやってくれ」

「了解ボス。さあ小僧死にたくなければ必死になれ」

 そうして誰もが無駄と思う稽古が始まったのであった。
しおりを挟む

処理中です...