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第一章 召喚編

第2話  風呂

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 周りは騒然となっていたが、一番高いところに座っていた者が徐に話し始めた。

「勇者様方、この度は召喚に応じて頂ありがとうございます。本来であれば今伝えるべき事が多々あり、勇者様方も質問が有るとは思いますが、遺憾ですが召喚時に事故が起こったようで皆様濡れてしまっております。まずはお着替えをして頂き、濡れた体を乾かしてからではどうでしょうか?」

 皆唖然としており、三郎もパニックになっていた。自分が火傷をし、その状態で宿の部屋から海に飛び込み溺れていたと思っていたが、次に気が付いたらこの場にいたからだ。しかも不思議な治療をされていた。治る筈のない火傷が治っていき、その様を見て放心状態であったが、確かに他の二人も濡れており、啞然としている状態で思考が追いついていなかったが、三者三様で頷いた。

 三郎もまたブツブツ言っていた。

「僕はやっぱり死んだんだ。そりゃあ火傷して海で溺れたんだもんな。その火傷もなくなったし、有り得ないよ。せめて童貞を卒業してから死にたかったな・・・」

 心ここにあらずの状態だったが、案内の者の後を歩いて行くと浴場に着いた。入口に着くと取り急ぎ脱衣場案内された。3人共恥ずかしがっていたが、メイド達は有無を言わせずに彼らの服を脱がせ、洗い場に連れて行った。そしてお湯を掛け、汚れをざっくりと洗い流していた。

「間違いない。僕は天国に来たんだ。死んだとはいえ、こんな綺麗な女の人に、それも沢山いる中で裸にされるって恥ずかしいけど、そう言う事なんだろうな」

 3人共訳が分からず、なすがままにされており、風呂場で汚れを洗い流されていた。洗ったりするのは極短時間だったが、風呂を上がると用意されていた騎士達が着る服に袖を通していた。いや、着させられた。

 急な事なのでサイズは多少合わないが、その場にいたメイドが裾を折ってからその所で即縫ったりし、軽く手直しをされていた。その手際の良さに三郎は見惚れていた。

「すげーな。いつもの服屋の店員と大違いだな」

 下着までメイドさん達に履かされたので皆恥ずかしがっていたが、王族はこういう事が当たり前ですのでお気になさらずとメイド達が言っていた。しかも股間も拭かれていたので、えええ!となった。いやらしくされた訳ではなくただ単に水気を拭かれただけだが、女性に初めて股間を直接触られ三郎は反応しまくっていた。恥ずかしさからつい股間を手で隠していたが、邪魔だと言わんばかりに跳ね除けられ、若い女性の目の前にイチモツを晒していた。

 そして三郎は次に言われた事が特に恥ずかしく、更に真っ赤になっていった。

「あら?可愛らしいお顔に似合わず、意外というか、これはこれは立派なモノをお持ちで♪。こちらの方でも勇者様なのですね」

 といった感じだった。

 風呂は短時間だったが、それでも海水でべたべたした体はすっきりしていた。。湯船にがっつりと浸かっていると時間が掛かる為、湯船には本当に僅かな時間入るだけだった。汚れを落とす為だけであり、1分も経たずに上がったのだ。そして魔法を使える者が何やら呪文を唱え、髪の毛を乾かした。

「メイドたる我が望む。彼の者を乾かし給え、ライトウインドウ」

 すると生暖かい風が髪に吹き付けられ、水分を飛ばした。ドライヤーの代わりだ。すると三郎の頭にピコーンと一瞬アラーム?が聞こえた。

 メイド達が一人に付き3人掛かりで3人に服を着せている次第だ。

 頭を乾かされている時に、これは何だ!?とやんちゃな男が呟いていたのが聞こえたようで、それをしていたメイドが答えた。

「はい。これは生活魔法の一種でございます。後ほど魔導士か神官達から説明があるかと思いますが、我々の世界では魔法というものがあり、一部の者が使えます」

 と言われ3人ともホエ~となっていた。見も知らぬ複数の女性達に身体の隅々まで拭かれていたりと恥ずかしさもさる事ながら、この不思議な力で頭を乾かされており、今の状況がよく分からずに戸惑っている状態であった。

 特に童貞の高校生である三郎はかなり恥ずかしかった。だがあとの二人は多少戸惑ってはいたが、途中から堂々としたものであった。一人はメイドを口説こうとしていたりもした。

 また、やんちゃな感じの一人がメイドを捕まえていた。

「なあ姉ちゃん。俺のを見たし触ったんだから、あんたのを見せろよ!そして触らせろよ。というかさ、あんた気に入ったぜ。今晩俺の所に来いよ?一発やらせろよ!可愛がってやるよ」

 そんな感じで世話をしてくれているメイド達にお触りしたりと、ちょっかいを出している感じである。お触りをするとキャ~勇者様が♪と黄色い悲鳴じゃない喜びの悲鳴を上げたものだから、老齢のメイド長が出てきて、その股間をギュッと掴んだ。唖然としていたが、縮こまる事を言われ、実際急激に縮こまった。

「いくら勇者様とは言え、オイタはその辺にして頂かないと、私が夜伽に参りますぞ!」

 首をブンブンと横に振りその後は大人しくなった。初老のメイド長に股間を掴まれた事が余程ショックだったようだ。それを見て皆がクスクスと笑っていた。

 しかし、メイド達もまんざらではないようで、風呂場を後にする時に一人の獣人のメイドがそのやんちゃな男の耳元にそっと告げた。

「フフフ。では勇者様のお相手を務めさせていただきましょうか?今宵私は宜しくてよ!」

 というような感じで会話が成立していた。ゴクリとその獣人との情事を楽しみにする腐れ外道だった。

 二人はタイプが違う武器を持っていた。

 一人は細身の長身のイケメンで、神経質そうな感じだ。彼は弓を持っていた。

 もう一人の剣を持っている方は身長176Cm位だろうか。がっちりした体つきで、鍛えている感じだ。明るい茶髪で軽薄そうだ。先程から盛りの付いた動物のごとくメイドを口説いていた。定職にはついていないか、水商売にいるのだろうというようなやんちゃな感じである。

 風呂は王族用の豪華なお風呂であったが、その風呂がどういう風呂なのかを説明される事もなく、この世界の風呂はこんなんなんなだなという感じでお風呂に入っていた。そして綺麗になった後、3人とも騎士団の者が着ている制服を着ていた。
 
 略式の正装である。お風呂を入る時にざっくりと背丈を確認され、近い物を持ってきてもらった感じだ。また短時間で少しだけ裾を直してもらったりはしたが、さすがに完璧な仕立ては無理だ。

 ただ、既製服を簡単な手直しで着る感じの仕上がりで、余程五月蝿い者以外からは合格点を貰えるレベルだ。

 風呂に入ってから20分ほどで召喚された場所に戻っていた。多くの者が、国王を含め3人が戻ってくるのを固唾を飲んで待っていた。

 三郎ははっきり言って似合っていなかった。子供が職業体験で何かの制服を着た感じだ。他の二人は駆け出しの騎士といった感じでまずまずだった。

 三郎はその場にいる者の多さに驚いていた。先程は周りを見る余裕はなかったが、改めて見渡すと、映画とかでよくある中世の城の謁見の間にいるのだなといった感じだ。そして数段上がったところにある椅子に腰を掛けた、偉そうな雰囲気の者が国王なのだろうと。

 そしてその横に立っているのが側近で、実力者なのかな?と。

 なんとなく分かったのは、ここが日本でない事。そこにいる者達の人種を見ればわかる。

 メイドの中には獣人といわれる猫耳の者もいたので、初めて見た時、三郎はぽかんとなっていた。
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