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第0-2章  召喚篇

第9話  落下

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 ぽちった次の瞬間、景色が急激に変わり落下感を感じた。風がきつく目を開けていられない事から、何故か落下していると理解し、ぼやいたと言うか叫んだ。

「おいおいおいおい、流石にこれはやばいだろ。これじゃいきなりデススタートになるじゃないか?まじで勘弁してくれよ」

 段々と川の水面が近付いてきて、飛行魔法で飛べないか?と念じたが、そのように都合良く可能な訳ではなく、無情にも川にダイブしていった。普通なら死んでいる所だが、運が良かったのか悪かったのか雄馬は死ななかった。

 しかし、衝撃で頭から血を流し気絶して溺れていった。

 奇跡的に偶々通り掛かった近くの街の者が川を流されている雄馬を見付け、救助して街に連れて行ったのだ。

 数日後、目を覚ました雄馬だが自分の事を何も覚えていなかった。

 街の領主の館に預けられ、手厚い看病をされ一週間で歩く事が可能なまでに回復をしていた。周りが驚く驚異的な回復振りだったのだ。雄馬の身長はこの世界の平均的な成人より少し小さかったが、成長したらかなりでかくなると皆感じていた。

 典型的な中世のヨーロッパの街の感じだ。名前が思い出せないが、領主から自分の息子であるイプシロンと言われた。雄馬はそうですかと受け入れていたが、実の息子はこの屋敷に居て、現在は屋根裏部屋に隠れ潜んでいた。

 雄馬改めイプシロンは文字が読めなかったが、幸い言葉は通じた。怪我の養生として大人しくしていなければならなかったが、少しは体を動かさなければならず、少しずつ歩いたりして、体力を回復している最中であった。

 そしてある日の朝、屋敷に兵士達が来ており、領主と話しをしていた。

「彼ですか?」

「ええ、我が息子イプシロンですが、事故で記憶を無くしております。頭を強く打った為のようです。ケガは治っておりますので是非ともお国の為にお使い下さい。別れは既に出来ております」

「貴方は領主の鏡だ。金で身代わりの者を確保し、身代わりを徴兵に差し出す領主が多いのに立派な事です。住人から聞きました。必ず我らが立派な兵士に育て上げます」

 まだぼーっとしていて、されるに任せる感じで大人しく連行されていた。窓からはそっとイプシロンが連れ去られる姿を見ていた本物のイプシロンが下卑た笑みを浮かべつつそこにいた。

 この国には徴兵制度が有り、街の人口に比例して徴兵される人数が決まる。領主の息子も例外なく対象にされ、身代わりを立てたりすると住民からの反発が強くなり、息子を差し出す必要があった。上の子の時に代わりを出したが、その時の影響が大きかったのだ。

 そんな時に、丁度良いタイミングで身代わりにピッタリな生贄が来たのだ。屋敷に雄馬が連れてこられた時に領主は小躍りしたものだ。しかも都合の良い事に記憶を失くし、誰も彼の存在を知らなかった。また、息子と背格好や髪の色、目の色が同じで、まるで兄弟のように似ていたのだ。

 訓練期間1年で各種教育を受け、兵士になった後実力や活躍次第で数年以内に騎士になる者もいる。兵役の義務期間は教育の1年が終わり兵士になってから3年だ。つまり今から4年間拘束されてしまうという事になる。元の身分は兵役が終わるまで全て剥奪され、その後の兵士としての地位は当人の実力次第だ。例え王族でも例外は無い。兵士になり3年したら去るのも残るのも自由だ。但し近隣諸国との争いが多い為、生き残るのは至難の業だ。

 そうやって領主に売られた雄馬は兵士になるべく他の徴兵者と共に馬車に揺られ、城に送られて行くのであった。

 そして時は進み、紆余曲折があり、シーラ達と出会う少し前になる。

 兵役が終わり、仲間と別れフォルクスとべソンの二人で旅をしていた。道中盗賊を退治しある町のギルドにて、盗賊を引き渡した所になる。

 フォルクスは冒険者ギルドにて、冒険者登録をする事を勧められた。べソンは兵役に就く前から既に冒険者をしていた。

 ギルドにて冒険者について説明を受けていた。冒険者には活躍具合によりランクが定められている。冒険者ランクはF,E,D,C,B,A,S,SS,SSS の順で通常はFランクスタートとの事で、依頼を達成する事でギルドに貢献する。その貢献度の具合でランクアップして行く。本来ランクCになる時に一度試験があるそうだ。ギルドにて依頼を受けてその依頼をこなしていくのだが、ソロだと一つ上のランクから一つ下のランクの依頼を受託できる。また、パーティーを組んでいると、一番上の者のランクの一つ上のランクの依頼を受託できる。但しパーティーメンバーの中の一番下のランクの者のプラス2のランクの依頼が上限だった。

 ただ、既に有名な盗賊団を潰しているので、フォルクスは特例でCランクにして貰う事になった。既にランクDだったべソンはランクBに一気にランクアップした。本来ある筈の試験とは処刑場で罪人の処刑を行ったり、犯罪者や盗賊の討伐依頼を行ったりし、実際に人を殺す事だという。また、兵役経験者のうち実践経験者は人を殺す試験を免除されるそうだ。冒険者の中に盗賊をターゲットにしている賞金稼ぎと言われる者もいるとべソンに教えられた。

 ギルドマスターと話し合い、フォルクスが魔法を覚えたいと伝えると学校にいけと言われた。魔法都市でもある首都にある魔法学校への推薦状を2人分書いてくれた。
    半ば強引にだったが。

 改めてべソンの魔法適性も調べて貰ったが、能力アップ系だった。所謂ハブや防壁の展開等の防御系、初歩の土魔法に特性がみられたのでこの際魔法をちゃんと取得する事を勧められた。2人共学校に行く事を同意した。

     12歳から16歳位の者が入学し、約1年を寮等の宿舎で過ごすのだそうだ。勿論試験が有るというのだが、ギルドマスターがべソンに魔法の杖を渡していた。

 べソンは言われるがままに魔力を籠めて放つよう念じると、そこそこの魔力弾が放てた。一応試験で使っても良いらしいので念の為売って貰った。盗賊やゴロツキには矢の代わりにはなるらしい。

 フォルクスは多分問題はないと言われた。ギルドにて魔力を測ったが、べソンは人並み以上だが凡庸の域を出ない感じだった。但しフォルクスは測定上限超えだった為、ギルドマスターは大いに驚いていた。

 魔法学校に入り卒業するまでにかなりのお金が必要で、普通は貴族や豪商、高ランクの冒険者の子息でないと金銭面で厳しいらしい。しかし、生活費を含め今回の報酬や懸賞金で十分賄え、お釣りが出るとさえ言っていた。
 しかも、フォルクスは念の為半分程度しか戦利品を売ってはいなかった。

 馬車は処分してくれと伝え、ギルドを後にして宿に行き休む事にしたのであった
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