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二十三話 軋む音に
しおりを挟むシャワーを終えてリビングに戻る。こうやって準備するのも、慣れたものだ。バスローブ一枚羽織ってやって来た俺を、雨下がソファへ手招きする。
「縁くん、こっちに」
「ん?」
雨下の隣に座らされ、首を傾げる。
「たまには、ベッド以外の場所で。ね……?」
「っ……」
耳に唇が触れるほどの距離で囁かれ、ゾクッと背筋が粟立った。雨下は脚には色々してくるが、他の場所に触れたことはない。それなのに、耳にキスされたような気になって、思わず耳を押さえる。
「まあ、まずはお茶でも飲むと良いよ」
「……お茶?」
「シャワー浴びたあとだしね」
そう言って、雨下がワイングラスに入った冷たいお茶を差し出す。ひとくち含んでみれば、澄んだ香りのするジャスミンティーだった。ジャスミンティーに対する印象があまり良くなかった俺だったが、このお茶は馬鹿みたいに美味しい。
「んっ、美味しい……」
冷たく冷えているおかげで、より美味しく感じるのか、スイスイ飲んでしまう。身体の中に染みわたるような感じがした。
「中国茶もおいしいんだよ。今度の店でも出そうと思っててね」
「すごく良いですね。中国茶って、こんなにおいしいんだ……。ウーロン茶しか知らなかったです」
「日本茶とは発酵のさせかたが違うんだよ。日本茶や紅茶とはまた違って、奥深いよね……。癖が強いものもあるけれど、青茶や白茶なんかはすがすがしくて素晴らしい香りのするお茶もあるよ」
「へえー」
「中華も良いなあ。中華料理は好き?」
雨下の手が、さわりと太腿を撫でた。ビクリと肩を揺らして、俺はチラリと雨下を見上げる。雨下は気にした様子もなく、さわさわと太腿を撫でまわしてきた。
「――っ、好き……ですよ……っ……。そんなに、詳しくないですけど……」
俺が食べたことのある中華料理なんて、ラーメンと餃子と、チャーハン、エビチリ、麻婆豆腐くらいだ。母がまだ元気だったころ、ファミリー中華に食べに行ったことがあるだけで、それ以上の思い出はない。いつでも母は俺に多く分け与えてくれて、自分は殆ど食べていなかった思い出がよみがえる。
「じゃあ、中華にしようか。居酒屋さんも良いけどね……」
「っ、ん」
太腿の内側に手が滑り込んできて、ビクリと肩を揺らす。思わず腰が引ける俺に構わず、手が内腿の柔らかい皮膚を撫でていく。
「っ、あ……雨下っ……」
雨下の指が内腿をくすぐる。ビクンと膝を揺らして、思わず雨下の腕を掴む。きわどい部分に触れる手に、ゾクゾクと皮膚が粟立つ。
「僕の行きつけの店、エビチリが美味しくてね。すごく大きなエビが入ってるんだよ」
「っ、ん……」
雨下の言葉が、頭に入ってこない。
いやらしく蠢く指が、内側の皮膚を擦っていく。脚の付け根の方へと指を滑らせる雨下に、ハッと息を呑む。
「う、雨下っ……ん、そこっ……」
ほとんど股間近くを往き来する手に、ビクビクと肩を揺らす。雨下の手が、無防備な性器に触れそうで、羞恥心とともに酷い興奮が、頭に染み渡っていく。
(あっ―――……、雨下の、手が……)
手が内腿を撫でる度に、袖が俺の膨らみ始めた性器に触れる。さわさわと羽で触れられるように、もどかしい快感に爪先が伸びた。
「あっ、やっ……待って……ん」
「……感じてる? 縁くん……」
耳許に、雨下の声が響く。
雨下の愛撫によって、俺の身体は既に快楽に染まりやすくなっている。脚を触られる行為が、俺の感度を高めていくと経験則的に知っていて、バスローブの下では既に硬く主張し始めていた。
「っ……、あっ……、雨下っ……」
袖が触れていることなど、お互いに分かっていたのに、どちらもそれを言い出さなかった。酔っていないはずなのに、身体が熱くなって、思考が蕩けていく。
「縁くん……」
雨下が、なにか言いかけて、唇を閉ざした。俺はそれが気になったけれど、目線で訴えても雨下は曖昧に笑うだけだ。
「っ、あ……ん……っ」
ビクン、身体を跳ねらせても、決定的な快感には至らず、もどかしくて堪らない。いっそ、自分で弄ってしまいたくなるが、まだ興奮した様子を見せない雨下の前で、乱れるのは恥ずかしい。
思わず、催促するように、太股を雨下の脚に寄せる。
すり、と脚でにじり寄れば、雨下が、息を呑んだのがわかる。
(……いつもみたいに……)
いつもみたいに、太股にキスをして、爪先を舐めて欲しい。興奮した顔で俺の脚に擦り付けて、精液をかけて欲しい―――。
「―――っ」
とんでもない妄想をして、カッと顔を赤くする。思わず、反射的に雨下の胸を押した。だが、雨下の手が腰に回り込んで、逃がしてくれない。
「……今、なに考えてた……?」
「なっ、なにもっ……」
耳許が、ざわざわする。雨下の声に、耳を撫でられている。
「教えて、縁くん……」
「~~~~~~~~っ……」
まさか脚をイラズラされたくて、妄想したなどと言えるはずなく。曖昧な言葉で逃げようと試みる。
「縁くん」
囁かれて、落ちない人間なんか、居るんだろうか。頭がクラクラする。密着したお互いの身体は、燃えるように、熱かった。
誤魔化すことに、意味などないように思えた。どうせ、雨下は変態なのだし、俺が言わなくとも、それはするのだろうし。それに。
(俺は、そのために来たのだし―――)
免罪符のような言い訳を脳内で繰り返し、潤んだ瞳で雨下を見上げる。
「脚っ……舐めて、よ」
雨下相手でなければ、傲慢すぎる言葉は、雨下相手であるから突き刺さったらしく。
雨下が、俺をソファに押し倒し、やや乱暴に脚を掴んだ。自然、脚を開く形になってしまい、慌てて股間を隠す。だが、バスローブははだけ、肩からずり落ちてしまった。
雨下の視線が、肌に刺さる。肩から胸。露になった乳首に、雨下の視線が行くのがわかる。肩を直そうとした刹那、雨下の舌がくるぶしを這った。
「っ―――……、はっ……」
赤い舌が皮膚をなぞる、その光景に、背徳的な感情が沸き上がる。雨下ほどの男が、俺の脚にしがみついて愛撫を施す様子は、倒錯的で頭がクラクラして仕方がない。
「ふ……、んっ……」
吐息を漏らしながら、ゾクゾクと皮膚を震わせる。
雨下が、スラックスを緩め、僅かに反応を見せる肉棒を取り出す。
「……っ」
思わず、ゴクリと喉を鳴らす。雨下のソレから目が離せずに、つい凝視してしまう。
雨下はクスリと笑うと、俺の両足を掴み、束ねるようにして持ち上げる。腰が浮きそうになって、慌ててソファにしがみつく。
「ちょっ……、雨下―――」
ヌルリ。脚の間に濡れた感触がした。温感のローションだということは、すぐに解った。
ビクン、肩が揺れる。
ぬちゅ。
音を立てて、脚の間に、雨下が欲望を捩じ込む。
「え」
戸惑いの声が漏れる。
脚に擦られたことは多々あれど、挟んだことはなかった。その上、こんな際どい位置。
「う、か……っ」
「動くよ」
そうと決めたらしい声に、ゾクリと被虐心が疼く。
「あっ……、ぅあっ……! ン……っ!」
ぬぢゅんっ、と雨下が太股で肉棒をしごく。ほとんど付け根の部分でそれをされれば、当然のように、俺の勃起した性器にぶつかって、ゴツゴツした雨下の欲望に擦りあげられる。
「あっ、あっ……! 雨下っ、あっ!」
直接的な快感に、手が空を掻く。雨下はわざとらしく腰を揺らしながら、脚に向かって腰を打ちつける。
ぱちゅん、と肉のぶつかる音が、リビングに響いた。
それは、脚をなぶるという行為の度を越えた、もっと直接的ななにかだった気がする。
だが、快感に弱く、人肌に飢えた人間の前―――嫌ではないという状況で、抵抗する理由が見いだせず、されるがままになぶられる。
「あ―――あ、あっ、雨下……、雨下っあ……!」
「っ……、縁、くん……っ」
ずちゅっ、ぐちゅっ、と濡れた音が響く。雨下に執拗に擦られ、限界だった。
だらしなく開いてしまいそうな脚を、雨下が抱くように押さえつけ擦り付ける。
バスローブが意味をなさないくらいはだけて、ほとんど腰紐だけになっていたけれど、快感の前ではどうでもよく、ビクビクと身体をしならせ、大きく仰け反った。
「あっ、ん、あ、あ……っ」
雨下に、抱かれているみたいだった。
雨下の性器が裏スジを擦りあげる。脚の隙間に、熱量を感じる。
「う―――雨下、ぁ……っ」
甘い声が、唇から漏れた。自分で、どんな媚びた顔をしていたのか、分からない。
雨下の腕が俺の肩を掴んだ。距離が近くなる。
雨下はなにかを言いかけて、やめたようだった。
じっと俺を見てから、確信を得たように。
雨下は俺の唇に、噛みつくように食らいついた。
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