【完結】胎

七瀬菜々

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CASE1:冴島あずさ

4:拗らせ女の罪と罰(4)

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 そこからは穏やかな時間を過ごした。美味しいランチを食べながら、漫画の仕事をしている千景の近況を聞いたり、旦那のことが大好きな愛花の惚気話を聞いたり。
 私は終始、聞き役に徹していたけれど、特に嫉妬の感情に支配されることなく話を聞けたと思う。
 そしてランチ会も終盤に差し掛かり、各々頼んだデザートを味わっている時だった。
 愛花はそういえば、と話を切り出した。

「あずちゃんは子どもは作らないの?」

 その言葉に私の心臓はドクンと跳ねた。デザートの豆乳プリンを食べる手が止まる。
 その質問に他意はないとわかっているのに、愛花の顔が悪意に満ちているように感じた。

「え?あー、うーん。まだかなぁ……」
「えー、何で?結婚してもう5年くらいでしょ?」
「4年と半年だよ」
「ねえ、旦那さんは子ども欲しいとか言わないの?」
「うーん、欲しいとは言ってるんだけど……」
「早い方がいいよー?高齢出産って大変らしいし」
「そ、そうなんだ」
「てか、今仕事してないんだよね?」
「うん……」
「子どももいない専業って暇じゃない?」
「うーん、どうだろう」
「高校時代、職場体験で幼稚園を選んでたくらいだし、子どもは嫌いじゃないんでしょ?」
「そう、だね。子どもは好きな方かな」
「じゃあ、何で作らないの?」

 純粋な眼差しで詰め寄る愛花。多分、一緒に子育てをする仲間が欲しいと思っているからこそ出た言葉なのだろう。
 わかってる。愛花に悪意はない。私は愛花に自分の置かれている状況を何も話していないのだから、仕方がない。愛花のこれは嫌味でもマウントでも何でもない。

 わかってる。わかってるけど……、

 どうしてかな。私にはその『なんで』が痛く突き刺さる。『なんで』なんて、私が聞きたい。 
 私は俯き、グッと唇を噛んだ。今口を開けば、愛花をひどく傷つけるような言葉しか出てこない気がするから。
 
「……あずちゃん?」

 急に押し黙った私を愛花は不思議そうに見つめる。
 だめだ。黙っていても心配をかけるだけ。どうしようかと私は俯いたまま目を泳がせた。
 すると、千景は何かを言おうと口を開いた。
 だが、彼女からも同じような言葉が出てきたら多分もう耐えられない。私は千景の言葉を不自然に遮り、「トイレに行く」と言って席を立った。

 逃げるようにトイレの個室に入り、鍵を閉める。
 自然と涙が溢れてきた。これはまずい。メイクが崩れる。何より目が腫れれば泣いていたことがバレる。
 そうなればきっと、愛花は自分の発言が原因だと気づくだろう。
 今妊娠中の彼女にいらぬ負担はかけたくない。友達にそんな気を使わせたくない。
 私はゆっくりを深呼吸をして気持ちを落ち着かせた。
 そして個室から出て、軽くメイクを直すと席に戻った。
 この時ばかりは席を立つ時、咄嗟にポーチを持って来た自分を褒めた。


「いやぁ、ごめんごめん。急にお腹痛くなっちゃって。私昔からお腹弱いからさー。今日寒いし冷えたのかなー?」

 私は席に戻るとお腹をさすりながら笑顔で誤魔化した。
 しかし二人の反応は微妙に重苦しくて、気まずい。やはり泣いたのがバレたのだろうか。

「あの……」

 私が愛花に話しかけようとすると、千景はそれに被せるように「そろそろ出よう」と言った。
 まあ確かに店も混んできているし、食べ終わっているのに長居をするのはよろしくない。
 私も愛花もそうだねと頷き、荷物を持った。



 *



「この後どうする?」

 会計を済ませた私は店の外で二人に尋ねた。
 愛花は気まずそうに俯いたまま、何も答えない。やはり不自然に席を立ったことで気を使わせてしまったのだろうか。私は自分の行動を後悔した。沈黙が気まずい。

「まだ帰るには早いよね?」
「いや、妊婦さんを連れ回すのもあんまり良くないし、今日はこの辺で解散しよう」
「それもそうだね」
「愛花、隆臣くんに連絡できる?」
「あ、うん……」

 気まずい空気を察してくれたのか、千景は解散を提案してくれた。愛花は急いで隆臣くん電話する。
 電話越しに聞こえてくる隆臣くんの声は、話している内容こそわからないものの、酷く面倒臭そうに応対していることが窺えた。予定より早いお迎え要請に気を悪くしたのだろう。
 愛花は可愛く「ごめんってー」と謝っている。そして最後には「ありがとう、大好き。愛してるよ」と言って電話を切った。
 サラッとそういうことが言えてしまうのは流石だと思う。愛花の自分の可愛さも自分に求められている振る舞いもよく分かっている。

「隆臣くん、怒ってた?」
「ううん。家で映画見てる途中だったから、今いいところだったのにって拗ねてただけ」
 
 拗ねてただけって……。いい大人が何を言っているのか。
 私が呆れているのを察したのか、愛花は「えへへ」と誤魔化すように笑った。


 
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