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第三章 アッシュフォード男爵夫人
7:突然の訪問者(3)
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「それで?ご用件は何ですか?何の連絡もなく突然押しかけられても困ります」
「事前に連絡できなかったのはすまなかった。急いでいたものでな」
「そ、そうなの。こんな形で押しかけてごめんなさいね。でも私たちも招待状をもらって焦っていたの。急がないとあなたが結婚してしまうから」
「……してしまう?どういう意味でしょう?」
確かに招待状は送った。イアンに言われたように、後悔しないために。
だが、当たり前だがそれは結婚するから送ったのだ。それなのに、結婚してしまうとはどういうことだろう。アイシャは怪訝な顔をした。
「アイシャ、お前はダニエル殿下の元に嫁ぎなさい」
「………………………はい?」
鈍器で頭を殴られたような衝撃に、アイシャは間抜けな声を出してしまった。
これは一体、どういうことだろうか。
「あの、私はアッシュフォード男爵様と結婚するのですが。お父様がそうしろとおっしゃったからそうするのですが?」
「状況が変わったのだよ、アイシャ」
「どんなふうに状況が変わればそんな非常識なことが罷り通るのですか。殿下にもマリアンヌ様という素敵なご婚約者様がいらっしゃるでしょう?」
「マリアンヌ嬢の事は心配いらない。確かにまだ殿下とご婚約中だが、成婚の儀は済んでいないからな。どうにでもなる。その辺はダニエル殿下が上手く解決なさるはずだ」
伯爵はアイシャにはあまり見せたことのない満面の笑みで、当たり前のようにそう話す。
理解が追いつかないアイシャは眉根を寄せた。
「ん?ああ、もしかして、男爵のことを心配しているのか?」
「誰もそんなことは言っていません」
「それも大丈夫よ。心配いらないわ。当初の予定どおり、ベティがこちらに嫁ぐから。何なら結婚式もそのまま行えばいいわ。花嫁は変わるけれど、どうせアカデミー時代の友人とエレノア夫妻しか呼んでいないのでしょ?なら大丈夫よ。それに、これを機にあなたの友人とベティが仲良くなれるかもしれないし。お友達が少ないベティにはきっとその方がいいわ」
「ちょっ、何を勝手なことを……」
「大丈夫ですわ、お姉様。確かに私の体はこの地の気候には合わないので基本的には首都で暮らしますけれど、大事なパーティーなどは男爵夫人として出席しますし、必要とあらばこの地に訪れることもやぶさかではありません。それに、肖像画を見る限り、男爵様はとてもカッコよくて……、噂通りのお方ではないように見えました。だから私はきっと仲良くなれます!安心してください」
安心?何を安心しろと言うのか。
大丈夫?何が大丈夫なのだろうか。
何故こんなことをそんなに良い笑顔で話せるのだろうか。
何故ベアトリーチェは当たり前のように、姉の夫と姉の友達が、自分の夫になり自分の友達になると思っているのだろうか。
アイシャはただ呆然と、そこから先の話を右から左に聞き流した。
「殿下は魔族との和平を実現させたお前の功績を高く評価してくださっている。お前も殿下の期待にお応えしなくてはならない。これは貴族としての義務だ。わかるな?」
「きっと殿下はあなたに良くしてくださるわ。だってあなたは優秀だもの。国のためにもあなたは殿下の隣で殿下をお支えして差し上げるのよ」
「アッシュフォード男爵も美しいベティが妻の方が良いだろう。もう魔族に怯える必要もないし、今後社交界に出た時に隣に立つのがベティなら誰も平民上がりの男爵を嘲笑ったりしない。それにブランチェット家だけでなく、間接的に皇家とも繋がりができるのだ。彼もその方がいいに決まってる」
「みんなが幸せになれる選択ですわね、お姉様!」
さも当然のように話す夫妻とベアトリーチェ。
彼らの話すみんなの幸せに、アイシャは含まれていない。
そしてそのことに、彼らは気づいてすらいない。
なんて虚しいのだろう。
彼らの身勝手な主張にとうとう耐えきれなくなったアイシャは声を荒げた。
「ふざけないで!勝手なことばかり言って、意味がわからないわ!」
「まあ、落ち着きなさいアイシャ。混乱するのも無理はないさ。だが冷静になればこの方がお前のためになると、賢いお前ならわかるはずだ」
「そうよ、アイシャ。今回は私たちもアイシャの心が決まるまで待ってあげるから、ゆっくり考えなさい」
「考える必要などありません。私はイアン様と結婚します。それが私の幸せです。彼の隣以外に私が幸せになれる場所などないわ!」
ああ、情けない。泣くまいと思っていたのに。
アイシャは大粒の涙を流しながら、ソファから立ち上がるとそのまま彼らに背を向けた。
彼らの身勝手な発言のせいで伯爵家での辛かった日々が走馬灯のように浮かんでは消え、アイシャを苦しめる。
イアンに愛され、みんなに愛され。この屋敷で心穏やかに過ごした日々が、伯爵家での辛い日々を忘れさせてくれていたのに。
「……どうせ泊まるところもないのでしょう?野宿して野犬に襲われても困りますし、今日は泊まって行ってください。晩餐もご用意します。けれど、明日の朝一番に帰ってください」
それだけを言い残し、アイシャはサロンを出た。
「事前に連絡できなかったのはすまなかった。急いでいたものでな」
「そ、そうなの。こんな形で押しかけてごめんなさいね。でも私たちも招待状をもらって焦っていたの。急がないとあなたが結婚してしまうから」
「……してしまう?どういう意味でしょう?」
確かに招待状は送った。イアンに言われたように、後悔しないために。
だが、当たり前だがそれは結婚するから送ったのだ。それなのに、結婚してしまうとはどういうことだろう。アイシャは怪訝な顔をした。
「アイシャ、お前はダニエル殿下の元に嫁ぎなさい」
「………………………はい?」
鈍器で頭を殴られたような衝撃に、アイシャは間抜けな声を出してしまった。
これは一体、どういうことだろうか。
「あの、私はアッシュフォード男爵様と結婚するのですが。お父様がそうしろとおっしゃったからそうするのですが?」
「状況が変わったのだよ、アイシャ」
「どんなふうに状況が変わればそんな非常識なことが罷り通るのですか。殿下にもマリアンヌ様という素敵なご婚約者様がいらっしゃるでしょう?」
「マリアンヌ嬢の事は心配いらない。確かにまだ殿下とご婚約中だが、成婚の儀は済んでいないからな。どうにでもなる。その辺はダニエル殿下が上手く解決なさるはずだ」
伯爵はアイシャにはあまり見せたことのない満面の笑みで、当たり前のようにそう話す。
理解が追いつかないアイシャは眉根を寄せた。
「ん?ああ、もしかして、男爵のことを心配しているのか?」
「誰もそんなことは言っていません」
「それも大丈夫よ。心配いらないわ。当初の予定どおり、ベティがこちらに嫁ぐから。何なら結婚式もそのまま行えばいいわ。花嫁は変わるけれど、どうせアカデミー時代の友人とエレノア夫妻しか呼んでいないのでしょ?なら大丈夫よ。それに、これを機にあなたの友人とベティが仲良くなれるかもしれないし。お友達が少ないベティにはきっとその方がいいわ」
「ちょっ、何を勝手なことを……」
「大丈夫ですわ、お姉様。確かに私の体はこの地の気候には合わないので基本的には首都で暮らしますけれど、大事なパーティーなどは男爵夫人として出席しますし、必要とあらばこの地に訪れることもやぶさかではありません。それに、肖像画を見る限り、男爵様はとてもカッコよくて……、噂通りのお方ではないように見えました。だから私はきっと仲良くなれます!安心してください」
安心?何を安心しろと言うのか。
大丈夫?何が大丈夫なのだろうか。
何故こんなことをそんなに良い笑顔で話せるのだろうか。
何故ベアトリーチェは当たり前のように、姉の夫と姉の友達が、自分の夫になり自分の友達になると思っているのだろうか。
アイシャはただ呆然と、そこから先の話を右から左に聞き流した。
「殿下は魔族との和平を実現させたお前の功績を高く評価してくださっている。お前も殿下の期待にお応えしなくてはならない。これは貴族としての義務だ。わかるな?」
「きっと殿下はあなたに良くしてくださるわ。だってあなたは優秀だもの。国のためにもあなたは殿下の隣で殿下をお支えして差し上げるのよ」
「アッシュフォード男爵も美しいベティが妻の方が良いだろう。もう魔族に怯える必要もないし、今後社交界に出た時に隣に立つのがベティなら誰も平民上がりの男爵を嘲笑ったりしない。それにブランチェット家だけでなく、間接的に皇家とも繋がりができるのだ。彼もその方がいいに決まってる」
「みんなが幸せになれる選択ですわね、お姉様!」
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彼らの話すみんなの幸せに、アイシャは含まれていない。
そしてそのことに、彼らは気づいてすらいない。
なんて虚しいのだろう。
彼らの身勝手な主張にとうとう耐えきれなくなったアイシャは声を荒げた。
「ふざけないで!勝手なことばかり言って、意味がわからないわ!」
「まあ、落ち着きなさいアイシャ。混乱するのも無理はないさ。だが冷静になればこの方がお前のためになると、賢いお前ならわかるはずだ」
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