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第三章 アッシュフォード男爵夫人
30:彼の帰還
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これはある種、また面倒ごとを押し付けられているだけではないのだろうか。
とうとうオリバーの上で胡座をかき始めたイアンは、うんざりしたようにため息をこぼした。
すると、ふと視界に影ができた。
まさかと思い、イアンが顔を上げると、そこには久しぶりの赤目の男がいた。
「テオォ!」
何だろう、この安心感は。イアンはホッと胸を撫で下ろした。
テオドールはまるで数年ぶりの再会かのように涙ぐむ主人公に少し呆れてしまった。
「何ですか、その顔は。情けない」
「待ってたぞ!」
「はいはい。貴方様の下僕、テオドールがただ今戻りましたよ」
「早かったな!」
「まあ、裏技を使ったので」
「会いたかったぞ!」
「今ハグしようとしたらぶっ殺しますからね」
「…………何故わかった」
「両手広げてたら誰でもわかるでしょ」
ランはこちらを見ていないが、群衆がこちらを見ている。あらぬ噂を立てられたらたまらない。
テオドールは帰ってきて早々にくだらないボケをかましてくるイアンにため息をこぼすと、胡座をかく彼の前にしゃがみ込んだ。
「これ、どういう状況ですか?」
「決闘をした」
「それはまた、派手に立ち回りましたね」
「ちょっと我慢ならない事があってな」
「それについては後で詳しく聞かせてもらいましょう。それで、決闘そっちのけで奥様は何をしていらっしゃるのです?」
「場外乱闘?アイシャがかっこいい。惚れ直した」
「あ、そういうのは聞いてないです」
「何というか、場外乱闘ついでに閣下が叛逆の狼煙をあげそうだ。俺を北部の王に据えたいらしい」
「なるほど。大体把握できました。閣下を立会人に選んだのが間違いでしたね」
「あの話はずっと冗談だと思ってたのに……」
「えっ、いつもかなり本気で口説いているように見えましたけど……。まあいいです。それより下に敷いてる彼、大丈夫です?」
「大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないわッ!」
流石に腕の痛みで意識を保っているのがやっとなオリバーは叫んだ。
テオドールは仕方がないと、イアンに彼の上から退くよう促す。
イアンはテオドールの言葉には素直に従い、立ち上がった。
「……英雄殿の飼い主かよ」
「どちらかと言えば調教師では?」
「まあでも助かった。ありがとう、赤目の青年。どこの誰だか知らんが」
「どういたしまして。ところで、そちらこそどこの誰だかは存じ上げませんが、決闘なんですよね?どうしますか?降参しますか?」
「する。するする!」
「では君に慈悲を」
テオドールはそう言うと、広場の向こう側。噴水の奥にある大きな木の下にいる男を指差した。
「あそこにいる人は一応医者です。なので、どうにかこうにか自力で這って行って助けを求めてください」
「這ってって、片腕粉砕されてるんですけど!?鬼かよ……」
「足は折れてないはずだぞ。歩けるだろ」
「気分は折れてる。脛は痛いんだぞ」
「そこまで言うなら本当に折ってやろうか?」
「嘘です。ごめんなさい。自力で行きます」
イアンがオリバーの足の上に自分の足を乗せて脅すと、彼は何とか自力で立ち上がり、フラフラとした足取りで医師の元へ向かった。
テオドールはそれを見届けてから、辺りを見渡した。
円の反対側では今もまだ場外乱闘が続いている。
「はぁ。仕方がないなぁ」
テオドールは面倒臭そうに立ち上がるとイアンを見据えた。
「さて、旦那様。あなたはどうしたいのですか?ちなみに僕は閣下の意見に賛成したい派です」
「お前までそんなことを言うなよぉ!」
「でもあなたが望まないのなら今は諦めます」
「俺は玉座に興味はない!」
イアンは切実に訴えた。
イアンはアッシュフォードが好きだし、ここを離れる気はない。
それにこれ以上守るものを増やしたくないし、責任も負いたくないらしい。
「俺はアッシュフォードで手一杯だ」
「旦那様は何だかんだでやればできる人だと思いますけど」
「俺はそんなすごいやつじゃない。みんな過大評価しすぎだろ」
「閣下は人を見る目あると思いますけど?」
「と、とにかく!俺は一生アッシュフォード男爵のままがいい!せっかく魔族との和平が成立したんだ。戦争が終わってようやく取り戻した平穏をそう易々と手放す気にはなれないし、何より俺は、お前とアイシャとここでのんびり静かに暮らしたい。だからテオドール。どうにかして閣下を宥めてくれ」
「…………相変わらず、おねたりがお上手でいらっしゃる」
「どういう意味だよ」
「別に?まあ、一生は無理でしょうけれど、仕方がありませんね。了解です」
ご主人様がそう言うならば仕方がない。今は諦めてやろう。
テオドールはつい笑みが溢れてしまう口元を隠しつつ、ダニエルの元へ向かった。
とうとうオリバーの上で胡座をかき始めたイアンは、うんざりしたようにため息をこぼした。
すると、ふと視界に影ができた。
まさかと思い、イアンが顔を上げると、そこには久しぶりの赤目の男がいた。
「テオォ!」
何だろう、この安心感は。イアンはホッと胸を撫で下ろした。
テオドールはまるで数年ぶりの再会かのように涙ぐむ主人公に少し呆れてしまった。
「何ですか、その顔は。情けない」
「待ってたぞ!」
「はいはい。貴方様の下僕、テオドールがただ今戻りましたよ」
「早かったな!」
「まあ、裏技を使ったので」
「会いたかったぞ!」
「今ハグしようとしたらぶっ殺しますからね」
「…………何故わかった」
「両手広げてたら誰でもわかるでしょ」
ランはこちらを見ていないが、群衆がこちらを見ている。あらぬ噂を立てられたらたまらない。
テオドールは帰ってきて早々にくだらないボケをかましてくるイアンにため息をこぼすと、胡座をかく彼の前にしゃがみ込んだ。
「これ、どういう状況ですか?」
「決闘をした」
「それはまた、派手に立ち回りましたね」
「ちょっと我慢ならない事があってな」
「それについては後で詳しく聞かせてもらいましょう。それで、決闘そっちのけで奥様は何をしていらっしゃるのです?」
「場外乱闘?アイシャがかっこいい。惚れ直した」
「あ、そういうのは聞いてないです」
「何というか、場外乱闘ついでに閣下が叛逆の狼煙をあげそうだ。俺を北部の王に据えたいらしい」
「なるほど。大体把握できました。閣下を立会人に選んだのが間違いでしたね」
「あの話はずっと冗談だと思ってたのに……」
「えっ、いつもかなり本気で口説いているように見えましたけど……。まあいいです。それより下に敷いてる彼、大丈夫です?」
「大丈夫だろ」
「大丈夫じゃないわッ!」
流石に腕の痛みで意識を保っているのがやっとなオリバーは叫んだ。
テオドールは仕方がないと、イアンに彼の上から退くよう促す。
イアンはテオドールの言葉には素直に従い、立ち上がった。
「……英雄殿の飼い主かよ」
「どちらかと言えば調教師では?」
「まあでも助かった。ありがとう、赤目の青年。どこの誰だか知らんが」
「どういたしまして。ところで、そちらこそどこの誰だかは存じ上げませんが、決闘なんですよね?どうしますか?降参しますか?」
「する。するする!」
「では君に慈悲を」
テオドールはそう言うと、広場の向こう側。噴水の奥にある大きな木の下にいる男を指差した。
「あそこにいる人は一応医者です。なので、どうにかこうにか自力で這って行って助けを求めてください」
「這ってって、片腕粉砕されてるんですけど!?鬼かよ……」
「足は折れてないはずだぞ。歩けるだろ」
「気分は折れてる。脛は痛いんだぞ」
「そこまで言うなら本当に折ってやろうか?」
「嘘です。ごめんなさい。自力で行きます」
イアンがオリバーの足の上に自分の足を乗せて脅すと、彼は何とか自力で立ち上がり、フラフラとした足取りで医師の元へ向かった。
テオドールはそれを見届けてから、辺りを見渡した。
円の反対側では今もまだ場外乱闘が続いている。
「はぁ。仕方がないなぁ」
テオドールは面倒臭そうに立ち上がるとイアンを見据えた。
「さて、旦那様。あなたはどうしたいのですか?ちなみに僕は閣下の意見に賛成したい派です」
「お前までそんなことを言うなよぉ!」
「でもあなたが望まないのなら今は諦めます」
「俺は玉座に興味はない!」
イアンは切実に訴えた。
イアンはアッシュフォードが好きだし、ここを離れる気はない。
それにこれ以上守るものを増やしたくないし、責任も負いたくないらしい。
「俺はアッシュフォードで手一杯だ」
「旦那様は何だかんだでやればできる人だと思いますけど」
「俺はそんなすごいやつじゃない。みんな過大評価しすぎだろ」
「閣下は人を見る目あると思いますけど?」
「と、とにかく!俺は一生アッシュフォード男爵のままがいい!せっかく魔族との和平が成立したんだ。戦争が終わってようやく取り戻した平穏をそう易々と手放す気にはなれないし、何より俺は、お前とアイシャとここでのんびり静かに暮らしたい。だからテオドール。どうにかして閣下を宥めてくれ」
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「どういう意味だよ」
「別に?まあ、一生は無理でしょうけれど、仕方がありませんね。了解です」
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