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第三話『仕組まれたボーイミーツガール中編』
しおりを挟む夢を見ている。
とある場所の大きな高台。そこに広がるカラフルな花畑。
その中央にポツンと質素な木材でできた家があった。台風が来ればひとたまりもないほど頼りなかったが、俺はこの家が好きだった。
記憶が定かでない幼い頃、この家で俺は父親にこう言われた。
『誰にも負けない雄になれ』
そう言いながらよく頭を撫でられた。その時の俺は何も考えずうなづいていただろう。
何も考えず、ただそうなるべく全てが進むと。時間が俺を成長させると。
「俺は、今強いのか?」
俺は手のひらを開閉する。
否、そんなことはあるまい。肉体も精神もガキそのものだ。多少成長したものの、まだ納得できるレベルではなかった。
「強き雄、か」
顔も忘れた父親の言葉。
両親は確かに俺を手放したかもしれないが、別に俺は恨んでいない。逆に強くなるきっかけをくれたことを感謝している。
願わくば再会したい、それくらいしか彼らに感情は持っていない。
俺は遠い記憶に背を向け、歩き出す。
『アザト!』
誰かが俺を俺ではない名前で呼んでいる。
♢♢♢
また別の場所だ。
ここは子供部屋か?
そこらかしこに様々なジャンルの遊具が転がっている。
特に多いのは人形だ。二頭身にデフォルメされた可愛らしい人形がたくさんいる。
中には見覚えのある人形もあった。
俺は一際大きいフィースの形を模したそれをとる。
「おぉ、下着の色が今日のと一緒だ。どういう仕組みだ?」
フィースの人形を下から覗き、感心する。
「うわぁぁ!どいてぇぇえ!」
「ふぎぃっ!」
突如真上から女の子が落ちてくる。
当然下にいた俺は潰され、少女の下敷きになった。
「ぬおっ!」
……目の前に広がる暗闇。世界は突如、闇に覆われた。
そして顔には肌触りのいい布地と柔らかくとハリのいい肉の感触。
そして甘くも色をくすぐる女の子いい匂いが鼻の中に広がった。
「むがむがむが」
「きゃあぁぁぁあ!動かないでぇ!」
顔面に一発くらって少女は俺の上から飛び退いた。
「よぉ。いい柄の下着だったな。趣味がいい。百点をやる」
「うるさいっ!」
顔を耳まで真っ赤にした少女は足元にあったぬいぐるみを投げる。ものすごい速さだが、所詮は綿に布をかぶせたもの。大したダメージにはならない。
ぽふっと胸で受止め、俺は足元にそれを置いた。
「そんなことより、質問してもいいか?」
「そんなことより!?女の子にひどいことしといてそんな適当に片付けないでよ!私すっごく恥ずかしかったんだから!!せっかく助けようと思ってここまで来たのに!ふんふん!」
「わかったわかった。責任はとる」
ヒートアップする少女にどうどうと宥める。だが少女は鼻息を荒くして俺に威嚇する。
不可抗力だとしても完全に俺が悪いのだが、俺の座右の銘は『無慙無愧』。悔いない恥じない反省しないだ。
「落ち着いたか?それで続きなんだが」
「ふっーふっー……ッ!むぅ、分かった、お話する」
このまま睨んでも何も進展しないと思ったのだろう。
しばらく警戒したあと少女は肩の力を抜いた。
「それでいい。で、まずここはどこなんだ?」
少女は行儀よく下にペタンと座る。まだ警戒されているのかスカートをやけに押えて。
「こほん。ここはあなたの心象部屋。みんなが一つは持つ波動が具現化したもの。いわばその人を表す心そのものだね」
「は?え?ここが俺の心だって?いやおかしいだろ、俺の心がこんな片付いてないおもちゃ部屋並みに幼いってことか?それはなんというか、かなりショックだな」
その言葉に少女は意趣返しかツーンと言葉を返す。
「子供っぽいってことでしょ。まあえっちなあなたにはお似合いでしょうけど」
まじかー。でもまあいいや。よく考えてみると別にそんなに悪くない。
童心を忘れないことは原点を忘れないこと。俺は初心に帰ることができると思えば、ショックも飲み込める。
多分違うと思うが……。
「はぁ。で、なんで俺がその中にいるんだ?外の俺は大丈夫なのか?」
ここに来る前、俺はメルトナイトに致命的な一撃を食らった。俺は死を覚悟したつもりだったが、この状況を考えるとどうやら生きているらしい。
「一時的に避難してるの。あなた、このままだと死んじゃうから。不本意だけど、こうしてあなたを助けるために来たんだよ」
少女はまだ不貞腐れながら説明をしてくれる。
だがおどろいた。第六波動はとてつもない力を持っていると思ったがまさか人の心の中まで入ってこれるとは、規格外だな。
「それで一応聞くけどまだ生きたい意思はある?」
「当たり前だ。俺がいなきゃ世界が寂しがる。まだまだやりたいこともあるし、何よりフィースを残している」
「だからあんなに死を否定したんだね」
「あぁ、諦めたくないし死にたくない。俺は強い雄にならなきゃいけないからな。こんなところで躓くわけにいかない。アイツを倒し、お前を助けて終わらせる」
「そっか。じゃわかったよ。助けてあげる」
意地悪く笑いながら少女は膝立ちのまま近づいてくる。身長の割にグラマラスなからだが目の前で揺れる。
「むーなんかえっちな目……」
「気のせいだ、気のせい。てかそうだ。お前、あの時俺のこと鮮十と呼んだだろ。もしかしてなんだが、えーと。お前、世良って名前か?」
淡い期待を抱いて俺は質問をする。俺にとってこの質問はかなり重要だ。前世かは分からないがほぼ同一の外見と俺を鮮十と呼んだこと、そして世界は違えどまた会えたという気持ちが芽生えていたからだ。
心臓の鼓動が高鳴り、俺は彼女の返答を待つ。
「えと、ごめんね?私は世良って名前じゃないの。あの時は咄嗟にそう呼んだけどあなたの名前は知らない。不快にさせたらごめんね」
「っ。そうか。俺こそすまなかったな。変なこと聞いて」
はぁ、俺は少女に聞こえないようにため息を着く。
わかっていたさ。世良とこの少女が違う存在だってことは。名前を呼んだ以外、俺を鮮十ではなく、初対面の人として接していたからな。俺の考え違いだ。
それに…………そこまで気にする事はない。
たかだか夢の内容に出てくる世良と呼ばれる少女とこの少女が似ているだけだ。あまりに似すぎているとは思うが、同一人物と思うにはメルヘンがすぎる。そもそも鮮十としての記憶もほとんどない。
ただ俺が馬鹿だったのだ。
彼女は世良の生まれ変わり。今はそう思おう。
だがそうなるとなぜ世良の生まれ変わりが女神の力を持っているという疑問が発生するのだが。
「ただそれ以上にあの時感じた感情が鮮明に浮かび上がるのが厄介だ……」
少女を想う気持ち、助けたい気持ち、後悔する気持ち。全ての感情がまるで自分のものかのように魂に彫り込まれている。今となっては邪魔でしかない前世(?)の記憶が俺を縛り付ける。
それ故に彼女を他人と思えない気持ちが言葉を紡ぐのを邪魔していた。
「あー!今、悪口言ってたでしょ!そういうのいけないんだよ。人はみんな仲良く!だよ!」
「言っとらんわ。だがそうだな、仲良くなるためにもおまえの名前を聞かせてくれないか?助けてもらう相手の名前も知らないのは収まりがつかない」
「それもそうだね。では私の名前を教えてしんぜましょー。私の名前はルルイエ。姓は無い、ただのルルイエだよ!よろしくねレイド!」
ルルイエは花のような可愛らしい笑顔で俺に名乗る。
俺はそれを複雑な気持ちで受け止めることしかできなかった。
♢♢♢
「それで俺を助ける方法は?」
「それはね。えっーと、少しいいづらいねー……あはは……」
ルルイエは照れと不安が混ざった表情で俺から目をそらす。
この領域は想像がつかない。一体どんなことをしなければいけないのだろうか。
「こほん、あなたを助ける方法。それは私の命を分け与えることだよ」
「な……っ」
なんだそりゃ。どこまでこの少女は俺を驚かせればすむ。
命を分ける?与える?いやいやおかしいだろ。
もはや神の領域だ。
伝説の存在だが第六波動は確かに女神の力らしい。
だがそれよりも気になることがある。
「なんでお前が俺のためだけにそこまでする。俺とお前は今日初めてあっただろうが」
至極当然だろう。残滓はあれどルルイエと世良は別々と言ってもいい存在だ。なのに自分の命まで使って俺を助ける義理などない。
ルルイエは俺の言葉に素直に答えてくれた。
「そんなの簡単だよ。あなたは私を助けるために命を落とそうとしている。だったら私があなたにできることをするのは当然でしょ?」
「だが普通はそこまでしないんだよ。普通はみんな自分の命を第一に優先する。人間という一種の生命として当然の帰結だ」
「でもあなただって命をかけて戦ってたじゃん」
「それとこれとは……。まぁいい。だが本当にいいのか?俺にメリットはあるがお前は損するだけだぞ?」
「いいのいいの。私があなたを助けたいと思ったんだから。それにこの後行くあてがないからよろしくね」
図太い女だと俺は立ち上がる。
ルルイエもそれにならって俺の前に立った。
身長はフィースより少し小さい。だが出てるところは出ている健康的なエロさ。
大きな目に長いまつ毛と顔つきも可愛らしく、すれ違った人が振り向くほど整っており、フィースとは違う魅力を持っていた。
グッド、100点満点。とても笑顔が似合う。
「はい舐めて」
ルルイエを第三視点で分析していたところ、彼女は血が濡れた指先を俺に向かって差し出した。
どうやら歯で噛み切ったようだ。
「なんで血を……」
「早く垂れちゃう!」
「むぐっ!」
否応もなしに口に指を突っ込まれる。その瞬間、からだに活力がみなぎり、形容しがたい充足感が俺を包んだ。
「あなたも、同じようにやってみて」
指を拭き取りながら、ルルイエは俺にも促す。
「お、おう」
若干頬を赤く染めながらルルイエはチラチラと俺を見る。やはり恥ずかしいようだ。
それにつられ俺も恥ずかしくなるが、顔には出さない。
そして俺も噛み切った指を差し出す。
「あむっ……」
ルルイエは俺の人差し指を舐める。敏感になった傷口にルルイエのつぶつぶとした舌が絡まる。甘い痛みと艶めかしさで俺は罪深い背徳感を覚えた。
だが何故か俺の時とは違い、ルルイエは汗を大量にかいていた。
「大丈夫か?すごい汗だぞ」
「ぷはっ。大丈夫だよ。ちょっと疲れただけ」
なぜかとろんとした目つきでルルイエは口を離す。息も荒くかなり疲弊している様子だ。
「最後に……」
ルルイエはグイグイと手招きをする。どうやら同じ目線に合わせろということらしい。俺は深く考えず目線を合わせる。
「いくよっ……」
こつんと少し勢いよく額を合わせる。
感じるのは互いの熱。ルルイエはかなり熱い。どうやらかなり無理をしているよう。
俺がそんなこと考えていると、一泊の間を置いて巨大なエネルギーが流れ込んできた。
だが荒々しい暴力のようなものではなく、太陽のように暖かく心地のいい安らげるものだった。
「はぁ……っ、はぁ……っ」
「なぁ、本当に大丈夫か?すごく辛そうだ」
「うん、ちょっときついかも……。手、握ってくれないかな」
その言葉の通りに俺はルルイエの小さな手を包み込む。少しだけルルイエの表情が和らいだように見えた。
そしてルルイエは、深呼吸で息を整え言葉を紡ぐ。
「『貴方が存り、私が在る』『四足で歩む者に翼を与え、世界を広げよ』『それは天地開闢の理』」
「『白の半円、灰の半円』」
唱え終わると正体不明の大きな力が俺たちを包む。見てみると手には白い六対の翼の紋章が入っていた。
「終わりっ……と……」
「おおっと」
ルルイエは額を離すと力が抜けたのか俺の方に倒れ込む。ぐったりと脱力している華奢なからだを抱きしめた。
「それは『天輪紋』。あなたと私を繋ぐ契約の証。これからよろしくね」
ルルイエは腕の中で力なく笑う。
その言葉に俺は力強くうなづいた。
「俺のためにすまんな。だが受け取ったぞ。お前のうつくしさをな」
ルルイエは俺の腕の中で力なく笑う。
次第に部屋が光に溢れ出し、現世に戻る時が来たことを告げる。
「えへへ。ちゃんと上手く使ってね……」
「つか……え?」
意味深なルルイエの言葉を最後に全てが光に包まれた。
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