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第十話『動き』
しおりを挟むそれからガラッと世界は変わった。
俺を見る目は奇異から畏敬の視線に変わり、俺が歩くと自然と道が開く。
少し物分りがよくて気味が悪いが、気分は悪くない。
そしてついに俺の話は四年校舎だけではなく、全学年の校舎まで広まった。
「新しい第一位は魔力が無いくせに、第三波動の魔力壁を破れる」と。すると何人かの生徒から決闘を申し込まれた。
恐らく魔力が無いことを軽視したのだろう。無謀な奴らはワクワク顔で挑んできた。もちろん全員一発で沈んだ。
すると次は先輩方だ。
他学年に決闘権は適応されないので普通の戦闘。
五年の覇者、シィルさんが目をかけていることもあるのだろう。舐めた後輩を叩き潰しに来たといった様子でワクワク顔だった。
もちろん全員一発だ。
シィルさんならともかく、そこらの木っ端に俺は倒せない。
そもそも弱すぎる。
分校のときから思っていたが、なぜこんなに弱いのか。
それは別に俺が特異な特別性を持っているから生じた疑問ではない。
まだ他の十位以上順位者を見た訳では無いが、世界の人材不足が露骨に現れていた。
「よォ『灰色の魔王』。今日も女を侍らせて景気がいいなぁ?」
今日も一人、ノコノコと木っ端が俺を訪ねてくる。
こう呼ばれるのは慣れてきた。
どうやら戦魔科ではランカーを外見や能力をとって異名をつけるらしい。
俺は『灰色の魔王』。
かっこいいが正直辞めて欲しい。
魔王は本来魔界の統治者につける異名だ。魔界で尊敬され、優れた治世を行う彼らの魔王を俺が名乗るのは敬意に欠けている。
だから──
「俺のことは魔王ではなく神と呼べ」
「それはそれで不敬すぎないか……?」
挑戦者の男は引いていた。
それもそのはずこの世界の神は二人。
世界を救った女神と世界を滅ぼそうとした邪神の二柱。
どちらもタブーとされており、軽々しく御名を名乗ることは許されない。
女神は教会とかでよく崇拝されるから比較的マシだが邪神はそうはいかない。
彼が生み出した魔人という概念は未だに世界を苦しめているからだ。
故に禁忌。
「わざわざ来てもらって悪いんだがもう満席だ。ご予約は一ヶ月先まで埋まってますがいかがします?」
「はぁ!?一ヶ月!?長すぎだ!でも一応しとく」
「了解。フィース」
「お名前は?」
「第二クラス、エミナルです」
フィースの時だけ敬語だ。
「かきかき」
「見た目とは打って変わって可愛い名前だな」
「ほっとけ!というかアンタも律儀だよな。アンタ以外のランカーはみんな身内で済ませるぜ」
「そうなのか?」
「ああ、順位を守りてぇ連中は派閥の仲の良い奴と決闘権を三つ使い切るんだ。だから本当に順位を上げたいやつは朝早くから狙ってる奴に決闘を仕掛けてる。まだルウシェ派はマシだぜ?レンサのとこの派閥となるとランキングはほとんど変わらねぇ。本当、嫌な学年だぜ」
「それは、問題だな」
「アンタが言うと皮肉に聞こえるな、わはは!でもアンタも気をつけな。この学園に転入したばかりでやり方はともかく一位をとっちまったんだ。これ以上なんかするとルウシェもレンサも黙っていねぇ。いやもう動き始めてるかもな」
「いいじゃないか。二人の美少女に追いかけられる美男子。絵になる」
「口の減らねぇ奴だな、アンタは。まぁどうせそんなに持たねぇよ。レンサはともかくルウシェは手段を選ばねぇ。いつ何かを奪われるか分からねぇぞ」
「恐ろしい話だ。頭の隅に置いとくよ」
「そうしとけ。まぁアンタの天下も一ヶ月後だがな!オレがこの学年の一位になってやる!忘れるなよ!」
ズカズカとエミナルと名乗った男は教室を後にした。
今までで一番騒々しい男だ。
だが嫌いではない。ただまだホームルームも始まっていないのにその声量はいただけなかった。
「挑戦者なんだからお前が忘れるなよ……」
「レイドってこういうの多いよね~。人気者じゃん」
ルルイエは羨ましそうな、だが気の毒そうな顔をしている。
「と言いながらもお前も人気者だろ?」
そう、こいつもかなりの人気者だ。
美少女だし性格も朗らか。誰にでも笑顔で接し、男女分け隔てなく人気だ。
クラスでもよく話しているのを見かける。
何回か告白もあったらしい。
気持ちは分かるが許さん。その告白した奴らは全員決闘で潰してやった。
「でも決闘のお誘いはからっきしだよ~。順位もぜんぜんのびない……」
一日三回の決闘権では伸び率が悪いらしい。
もっと上を目指せば取れると思うのだが、こいつは少し上の連中しか狙わない。
意外なことに慎重な性格のようだ。
「一位いるか?」
「嫌だよ。私は実力であがりたいの」
「そうですね。不正はいけません」
「しかしレンサという少女にも会いたいな。凄い美人さんなんだろ?」
「レイドには申し訳ありませんがレンサは今距離を置く方針らしいですよ。「ルウシェと鉢合わせなんてごめん」だそうです。あの二人あまり仲良くないですからね。顔を合わせるといつも仲裁しなくてはなりませんし」
「お前も大変だな」
「二人ともいい子なんですけど少し我が強いんです……」
「フィースって二人と知り合いなの?」
「どう考えてもそうだろ。というか止められるのはフィースぐらいだ。同じロードとは言え、フィースとルウシェでは格が違いすぎる。レンサは言わずもがなだ」
フィースは権力で威張り散らすような少女ではないが、他の生徒では手が出せない厄介事の時、権力は役に立つ。権力は時には暴力よりも強いからな。フィースもそれを分かっているから止めに入るのだろう。
まぁ、見てられなかっただけだろうが。
「しかし胸が踊るな。ルウシェがあれだけ可愛いならレンサも相当期待できる。ぐへへへへへ」
「あーレイドがいやらしい目してるー」
「バレたか」
「やっぱり!」
俺が求めるのは有能な人物だ。
その前提条件として自分よりも優れていること。次点で見た目が優れていること。これを重視している。
そうだな。最低でもフィースとルルイエは除いて十人は欲しい。
問題は現段階でお眼鏡にかなう者がほとんどいないことだ。そう簡単に見つかるものでは無いと思っていたがここまでとは。
なんとも世界は厳しい……。
「今度は悪い顔……」
♢♢♢
一週間も立てばこの学園のことも見えてくる。
どうやら俺たち四年は二つの派閥に別れているらしい。
一つが先日会ったルウシェ派。
彼女たちは完全なる実力主義を徹底としている。強者が弱者を食らう、この世の理をそのまま描いたもの。
分かりやすいがゆえに、意外だ。彼女はもっと理知的な人だと思っていたが、かなり自信家で好戦的な性格らしい。ザンリをけしかけたのも納得がいく。
可愛らしいフェイスに獰猛な獣が潜んでいるわけか。
そして彼女と敵対するもう一つがレンサ派。
彼女はルウシェと正反対。みんな平等、秩序ある学園を求めているそうだ。
ルウシェの後にできた派閥で低順位の生徒たちに支持されている。ようはルウシェ派に対する抑止力。
彼女たちがあまりやり過ぎないように見張っているようだ。
この二つが奇跡的なバランスで保たれて、応用四年が成り立っているって話。
そしてその中に一つの爆弾が投げられた。
一人の少女を伴って第三波動の少女と対等に話す男。
つまり俺だ。
ルウシェの右腕であるザンリをねじ伏せ、戦魔科で一位を獲得したことにより二つの派閥は蜂の巣をつついたように大騒ぎだったらしい。
均衡崩れちゃったからね。俺のせいでね。
「二人はレイドを新しい派と見るそうです」
「本当か?別に構わんがまだ一ヶ月もたってないぞ」
「本人たちに確認したので間違いないです。どうやら決め手になったのはわたくしの存在のようです」
「どういうこと?」
「わたくしは今までどちらの派閥にも入っていなかったのです。シェルバーロードの娘として大きな力を持っていますので、どちらかに大きく関わると良くない方向に形勢が変わってしまうから距離を置いていました」
それだけだったらまだ問題は無いだろう。御三家の中でも派閥に属しているロードは多い。その中でもフィースが特別視されている理由は至極単純だ。
「第三波動のせい?」
「ええ、その通りです。ですからわたくしは軽率な行動を控えていたのですが、まさかこのようなことになるなんて」
フィースが俺に近すぎたのが原因の一助だろう。
婚約者(確定)だから必然の距離感なのだが、非公式な話なため人々は俺をあらゆる視点で想像してしまっているのだ。
「ククク。これでルルイエが第六波動と知られたら大変なことになるぞ」
「笑い事じゃないよ!どうするの?」
「どうするなにも問題ないだろ」
「え!どういうこと?」
「わたくしが当てましょうか?」
「おう」
「ルウシェちゃんとレンサの派閥を潰して自分の傘下にすれば問題ではなくなるという作戦ですよね」
作戦というにはお粗末だが、生徒たちにはなるべく分かりやすい方がいい。
「大正解。さすがフィース。今日冴えてるな」
「……もう何も言えないよ。この人どこまで本気なの?」
ルルイエは呆れ顔。
彼女の気持ちも分かる。だがこればっかりは変えられない。
恐らくこれが俺の本質なのだろうな。
「聞いた話レンサという少女も美少女なのだそうだ。心が踊るな」
「あはは………」
レンサの知り合いでもあるフィースは苦笑いだ。
人となりを知っているからどうなるか予想がつくのだろう。それが悪いかいいかは別として楽しみだ。
「今日は悪いが二人で帰ってくれ」
「レイドはどちらに行かれるのですか?」
「ちょっと図書館にな」
「私も行きたい!」
「駄目だ。お前はフィースと帰れ」
「けち!」
「まあまあ、レイドも何か考えがあっての事です。今日は帰りましょう」
図書室では無い図書館だ。
図書室には無い特別な蔵書を扱っていて、簡単には知りえない情報を知ることができる唯一の場所。
だが本当はそこではない。
俺が向かったのは時計塔。
この学園の重要な部署が集まった場所だ。一般生徒には開放されておらず、呼ばれたものしか入ることができない。
俺が今日ここに来た理由は、学園長との話し合いがあったからだ。四五六の戦魔科の一位だけを集めて何か大事な話をするそうだ。
学園長室に向かって廊下を歩いていると、そこで意外な人物と会った。会ったと言うより見つけた。
俺はサッと角に隠れるが、その人物は唐突に振り返り俺を見つける。
「あら、れーちゃん。こんな所で会うなんて奇遇だね。もしかして私に会いに来てくれたのかな?」
「うぐっ」
シィルさんだ。
彼女がなぜここに。というかかくれたのに見つけるとかなんかそういうセンサーでもついてるのか?
「もしかしてれーちゃんも学園長に呼ばれたの?なら一緒に行こうよ!」
素早く腕を組まれ、抵抗が出来なくなる。
やはり五年で頭はってるだけはある。すごい力た。
というか本当にこの人全科目一位なのか。フィースから聞いた時は半信半疑だったが、学園長に呼ばれたのなら真実なのだろう。
「構いませんけど、シィルさんはなんで呼ばれたか分かりますか?」
「いや全然。多分ガルバくんも知らないよ」
「あの人も呼ばれてるんですね」
ガルバ・ブライスロード。
ロード御三家の一つ。力のロードであるブライスロードの次男。圧倒的な魔力と魔剣を自在に操るこの学園最強の存在。
そして俺を幼少期に鍛えてくれた一人でもある。
だからちょっと腰が引ける。
「失礼しまーす」
「シィルさん、軽すぎますよ」
ノックも無しにシィルさんは扉を開ける。
そこには両目を眼帯で封じた男性と穏やかで薄暗い笑みを浮かべた男性がいた。
「来たか、座れ」
「はーい」
静かにだが重量感を感じる言葉で俺たちを促した。
「これから魔神教団の対策会議を始める」
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