画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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youれい!

15.一段落の後

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 何はともあれ咄嗟な機転により、先ほどまでの病的な強迫観念による幻覚はすっかり消え去ってくれたようで何よりだった。

「さて、生者の世界とやらにようこそ。って感じで、それじゃ家に帰るとするかな……」

 ちょっとカッコつけすぎだったかもしれないが、少しばかり調子に乗っていた僕を窘めるように自称透明人間の幽霊少女、玲衣ちゃんは言う。

「軽口で答えてはいるものの、顔面蒼白ですよタケトさん」

 本来はこんなに前向きな性格では無いのに無理をしていたのだろうか。客観的に見ると疲れが出ているらしい。心配されるのは悪い気もしないのだが、あまり気を使わせるのも悪い気がして、話題を変えて誤魔化すことにした。

「てか、そっちこそ何だか顔が赤いみたいだけど大丈夫なのか?」

「え、ええっ!? ど、どこがです? だとしても、先ほどの動揺が収まっていないだけだと思うのでお気になさらず……」

 と、なんだが落ち着かない様子だった。やっぱり無理やり道路を渡らせたのは強引すぎだったのかもしれないと、今更ながらに反省する。

「そっか……。さっきの荒療治は軽率な行為だったかもな。なんなら落ち着くまでちょっと休んでおくか?」

「いえ、全然平気ですので大丈夫です……」

「なら行こうか」

「どちらへ?」

「え、えーと……」
 そう尋ねられて困ってしまう。実のところ何も考えずにその場のノリだけで喋っていたからだ。とはいえそれを正直に明かすわけにもいかないので、相変わらず成り行きに任せて言葉を続ける。

「いやまあ、何か精神的にも体力的にも疲れたのでとりあえず家に帰ってひと休み……ではなくて。君の透明状態を解決するためには、落ち着ける場所でじっくりと考えた方が対策を練りやすいと、そう考えてひとまず家に帰ろうと思うんだ」

「ほほう、そうやってわたしを家に引きこんで何をするつもりなのでしょう。わたしはそんな軽い女ではありませんよ」

「勝手に不名誉な疑いを向けてくるな! てか触れることすらできない相手に、いったい何が出来るって言うんだよ!」

「何を言ってるのです、今さっきだって、わたしの手を握っていたではないですか」

「それは……」

 彼女に道路を渡らせるために挑発したつもりが、意図せず催眠状態になってそう思い込んでいるだけなのだが、それを逆手に取られているみたいな展開になってしまっていた。
 彼女の認識では本当に手を引かれた事になっているのだろうが、当然こっちには触れた感触も無かったのだが……。

「もし実体があるというのなら胸でも触らせて証明してみろ、とでも言ってやりたい気分だった」

「いや、地の文を思いっきり口にしちゃっていますけれど? 心の声がダダ洩れですけど?」

「ああ最低な事を口にしてしまったみたいだな、申し訳ない。これは家に帰ってじっくりと反省する他は無いな。君はここで待っててくれ、猛反省して真人間となれたあかつきには必ず戻って来るから」

「それっていつになるのですか? いったい何度生まれ変わったらタケトさんが真人間になれるというのです? というかそんな日は来ないと思いますよ」

 何だか思いっきり刺々しい返しをされている気がする。本来はそんな事は言わない優しい性格だったはずなのに、あの焼け跡から戻って来てからというもの微妙にヤサグレモードが発動している気がしてならない。それも僕の軽率な提案がもたらした結果だというのだろうか。

「何だかむっちゃ反省したい気分だ。とりあえず家に帰って思いっきり落ち込んでこよう」

「というか、どれだけ家に帰りたいのですか」

「引きこもりの僕にとっては自分の部屋だけが心休まる場所なんだよ、そこだけが安息の地なんだ!」

「そうやってわたしを自分のお部屋に引き込みたいわけですね」

「だから何だよその余計な自己防衛意識。付いて来るのが嫌なら、ここで待ってれば良いから」

「か弱い女の子をこんな所で独りっきりにして、もし世紀末救世主伝説に出てくるような不良さんに『ヒャッハー!女だぜぇ!』という感じで襲われたりしたらどうするのです?」

「だから何で君の妄想は荒唐無稽なくせにやけに具体的なんだよ? 安心しろ、そんな悪党は世界が滅んでからしか現れない。それに引きこもり生活を続けてきた中で衰えきった僕の戦闘力は皆無だ。もし現れたのが普通の犯罪者だったとしても僕は決して勝てるわけないからどうせ役には立てないだろう」

「なに情けない事を自慢げに……」

 呆れたようにしてから彼女は言った。

「まあ良いでしょう。そんな弱々男子になら襲われても対処できるでしょうしね。そこまで言うのであれば家にお呼ばれしてあげますよ。というわけで行きましょうか」

「まあ、納得してくれたと言うならそれで良いんだが……」

――何だか建前上拒否する態度をしただけで、実はノリノリで僕の家に行きたがっているかのようにも見える……のはさすがにこちらの勘違いだろうか……。

 というか今度はこっちの被害妄想が刺激されてしまい、彼女が何か良からぬことを企んでいるのではないかと、そんな勘ぐりすらしてしまうのだった。

 結果的に僕は、彼女の願いを叶えるまでの間、死ぬまで取り憑かれ続ける羽目になってしまうのかもしれないというのが現実で。
 怖い話だが、完全な自由を得るためにはどうにかして、この問題を解決する方法を模索し続けるしかないのだろう。

 既に肉体を失っている自称透明人間の幽霊を普通の人間に戻すという、そんな難問の回答を……。

 それはつまり、死んだ人間を生き返らせなければならないという事で……。

 途方に暮れながら家路へと向かって歩き出した僕の横を、ふわふわと宙に浮いている状態で付いてきている彼女を横目で見やる。

 変な妄想から解放されて気が楽になったのだろうか、機嫌はよさそうだ。

――てか、幽霊だと言われたくないなら、せめて普通に歩いているフリくらいすればいいのに……。

 と、もはやお化けの漫画的表現みたくなってしまっている彼女の足元を横目で見ながら、そんな感想を抱くのだった。
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