63 / 103
第三章『画廊寄武等とYouしょく!』
60.〝あーちゃん〟とのやり取り
しおりを挟む「ね? これからどうするえ?」
二階の自室へと戻り、足を引きずるようにしながらベッドに腰掛けると、そんな僕の隣の足元に腰を下ろしてベッドに寄り掛かり、こちらを見上げるような姿勢であーちゃんはそう言った。
人とそんな距離感で接した経験など無かった僕は、その距離感が近すぎて居心地が悪いなあと感じながら、そんな彼女に答えを返す。
「何って……なんだか疲れたし、仮眠をとるだけだよ」
そんな僕に、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。
「ウソだぁ。今のタケトは不老不死なのよ。殺されても死なない不死身の体なのに疲れるわけないじゃん。ねえ」
彼女の意見はもっともだった。今の僕は、どんな怪我をしようと瞬時に治ってしまうのだから、こんな疲労感程度のものが解消されていないのは不自然なのだ。
「とはいえやっぱりダルいし眠くてしかたない……。もしかすると肉体的には平気でも、精神的に疲れてるのかな」
「だったら、疲れてないって、そう思い込めばいいだけじゃない? うん!」
「心の問題がそんな簡単に解決できるわけがないだろ」
呆れる僕に対して、彼女は確信に満ちた笑顔で答える。
「出来るよ? 疑うんなら、疲れてないって思ってみればいいのよ!」
「それで解決するなら簡単なんだけどな……ん?」
そう言った僕だったが、自分の体調の変化に気付いて驚く。
「ん……? あ、ホントだ。疲れが取れて眠気も引いていく……?」
「ねっ、あたしの言った通り、でしょ?」
得意げな彼女だったが、こちらはなんだか納得できない気分だった。
「だったら精神も不死身にしてほしかったな。体調は良くなっても気力の方は萎えたままだ」
そう言って、後ろに倒れ込んだ僕に対し、彼女はじれったそうに訊ねる。
「だからどうしてよ? タケトはもうあたしと同化してるも同然なんだよ? 思考だってあたしと同じように自由自在に操作できるんだってば!」
「ああそうか……。僕はもう人じゃないんだっけ……」
「そうそう。あなたは既に人間なんて超越しちゃってる存在なんだから、嫌な事があったとしても全部忘れちゃえばいいの、あたしみたいにね」
明るく励ますあーちゃんだったが、僕はそんな実感も持てずに質問を返す。
「……忘れようと思えば忘れられるのか?」
「んっ! 忘れられるよ」
「……忘れて……いいのかな?」
「いいんじゃない? うん!」
明るく即答を返す彼女に僕は浮かない気分のまま訊ねる。
「君はそうやって、全て忘れてきたのか?」
「ん そーよ。だから、毎日が幸せ♡ イエぃ!」
「本当にか……?」
そう問い質す僕の真剣な眼差しに、あーちゃんの顔から笑顔が消えた。
「……そうね。今のあたしにも忘れちゃいけない事だってあるわ……うん」
俯き加減で真面目な表情でそう語る、そんな彼女の態度の変化に僕は気になって訊いた。
「それはなんだ?」
「ん! お風呂場にある、食べ残しのインスタントタケト!」
「はあ?」
「あの食べ残しを忘れないうちにバラして、冷蔵庫にしまっておかないと腐っちゃう。それはもったいない!」
その予想外の言葉に対するツッコミも忘れていた僕に、あーちゃんは楽しそうに語り続けるのだった。
「あれ、インスタントだって馬鹿にしちゃいけないんだよ。内臓とかもちゃんとあって、けっこー美味しいし、ほとんど本物と変わりないんだから。豪快に丸かじりも良かったけれど、次はちゃんと解体してお上品に料理してみるなんてのもイイかもね。あ、道具の心配はしないでいいよ、このあたしの手刀ひとつできちんと捌けるから」
「もうそのへんでやめとけ、グロい話はもうおなか一杯だ!! てかそれ以上やったら規制されてしまうわ!!」
やっぱりツッコミは忘れてはいけないようだった。
「つーか今うちのバスルームどんな状態になってんだよ!?」
「んー、ちょっとした猟奇殺人現場? あはっ!」
「『あはっ!』じゃねーだろ!!」
「じゃ、R18指定のホラー映画。うふっ♡」
「表現の仕方の問題じゃない!!」
「だいじょぶ! あるのはタケトの死体なんだから、本人であるあなたが殺人の冤罪で捕まる心配はないよ。イェイ!」
「そんな心配をしているわけじゃない!! 気持ちの問題だ!! 想像するだけで気色わりいよ、これから風呂場に行けなくなるだろが!」
「だから気持ちの問題だったなら、そんなの忘れちゃえばイイんだってば」
明るくピースサインを決める彼女に僕は反論をしようと試みるが……。
「そうできるものなら、そうしたいよ! だいたい、そんな簡単に嫌な事を忘れられたら苦労なんて……。って? あれ? 何だっけ?」
既にすっかりと忘れていた。何か、とても気持ちの悪いものを想像していた。それくらいしか覚えていない。
「ね? 忘れようと思えば忘れられるでしょ?」
そう訊く彼女の顔はとても可愛くて。
「だから、今日の出来事もイマトオから聞かされた話なんてのもぜーんぶ忘れちゃえばいいんだよ」
その声はとても清んでいて……。
「そうすれば、毎日幸せ。ん!」
その仕草はとても愛らしく思えるのだった。
「じゃあ逆に『忘れたくない』と……そう思ったことは、いつまでも忘れないでいられるのかな?」
そんな僕の言葉によってあーちゃんの顔がわずかに曇った。
「ん? そりゃぁまあ、そうだけど……?」
「そうか……じゃあ、またあの子の名前を訊いても、もう忘れたりはしないでいいんだな……」
「もーサイテー!! あたしの前で他の女の事なんか考えないでよー! めっ! めっ!!」
まるで子供の遊びのように可愛らしくポカポカと殴り始めた彼女のそんな行動が理解できずにいた僕は、『なんだかなぁ……』と呟くのだった。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
JKメイドはご主人様のオモチャ 命令ひとつで脱がされて、触られて、好きにされて――
のぞみ
恋愛
「今日から、お前は俺のメイドだ。ベッドの上でもな」
高校二年生の蒼井ひなたは、借金に追われた家族の代わりに、ある大富豪の家で住み込みメイドとして働くことに。
そこは、まるでおとぎ話に出てきそうな大きな洋館。
でも、そこで待っていたのは、同じ高校に通うちょっと有名な男の子――完璧だけど性格が超ドSな御曹司、天城 蓮だった。
昼間は生徒会長、夜は…ご主人様?
しかも、彼の命令はちょっと普通じゃない。
「掃除だけじゃダメだろ? ご主人様の癒しも、メイドの大事な仕事だろ?」
手を握られるたび、耳元で囁かれるたび、心臓がバクバクする。
なのに、ひなたの体はどんどん反応してしまって…。
怒ったり照れたりしながらも、次第に蓮に惹かれていくひなた。
だけど、彼にはまだ知られていない秘密があって――
「…ほんとは、ずっと前から、私…」
ただのメイドなんかじゃ終わりたくない。
恋と欲望が交差する、ちょっぴり危険な主従ラブストーリー。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
旧校舎の地下室
守 秀斗
恋愛
高校のクラスでハブられている俺。この高校に友人はいない。そして、俺はクラスの美人女子高生の京野弘美に興味を持っていた。と言うか好きなんだけどな。でも、京野は美人なのに人気が無く、俺と同様ハブられていた。そして、ある日の放課後、京野に俺の恥ずかしい行為を見られてしまった。すると、京野はその事をバラさないかわりに、俺を旧校舎の地下室へ連れて行く。そこで、おかしなことを始めるのだったのだが……。
わたしの下着 母の私をBBA~と呼ぶことのある息子がまさか...
MisakiNonagase
青春
39才の母・真知子は息子が私の下着を持ち出していることに気づいた。
ネットで同様の事象がないか調べると、案外多いようだ。
さて、真知子は息子を問い詰める? それとも気づかないふりを続けてあげるか?
セーラー服美人女子高生 ライバル同士の一騎討ち
ヒロワークス
ライト文芸
女子高の2年生まで校内一の美女でスポーツも万能だった立花美帆。しかし、3年生になってすぐ、同じ学年に、美帆と並ぶほどの美女でスポーツも万能な逢沢真凛が転校してきた。
クラスは、隣りだったが、春のスポーツ大会と夏の水泳大会でライバル関係が芽生える。
それに加えて、美帆と真凛は、隣りの男子校の俊介に恋をし、どちらが俊介と付き合えるかを競う恋敵でもあった。
そして、秋の体育祭では、美帆と真凛が走り高跳びや100メートル走、騎馬戦で対決!
その結果、放課後の体育館で一騎討ちをすることに。
俺様上司に今宵も激しく求められる。
美凪ましろ
恋愛
鉄面皮。無表情。一ミリも笑わない男。
蒔田一臣、あたしのひとつうえの上司。
ことあるごとに厳しくあたしを指導する、目の上のたんこぶみたいな男――だったはずが。
「おまえの顔、えっろい」
神様仏様どうしてあたしはこの男に今宵も激しく愛しこまれているのでしょう。
――2000年代初頭、IT系企業で懸命に働く新卒女子×厳しめの俺様男子との恋物語。
**2026.01.02start~2026.01.17end**
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
