画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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第三章『画廊寄武等とYouしょく!』

60.〝あーちゃん〟とのやり取り

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「ね? これからどうするえ?」

 二階の自室へと戻り、足を引きずるようにしながらベッドに腰掛けると、そんな僕の隣の足元に腰を下ろしてベッドに寄り掛かり、こちらを見上げるような姿勢であーちゃんはそう言った。

 人とそんな距離感で接した経験など無かった僕は、その距離感が近すぎて居心地が悪いなあと感じながら、そんな彼女に答えを返す。

「何って……なんだか疲れたし、仮眠をとるだけだよ」

 そんな僕に、彼女はいたずらっぽい笑みを浮かべながら言う。

「ウソだぁ。今のタケトは不老不死なのよ。殺されても死なない不死身の体なのに疲れるわけないじゃん。ねえ」

 彼女の意見はもっともだった。今の僕は、どんな怪我をしようと瞬時に治ってしまうのだから、こんな疲労感程度のものが解消されていないのは不自然なのだ。

「とはいえやっぱりダルいし眠くてしかたない……。もしかすると肉体的には平気でも、精神的に疲れてるのかな」

「だったら、疲れてないって、そう思い込めばいいだけじゃない? うん!」

「心の問題がそんな簡単に解決できるわけがないだろ」

 呆れる僕に対して、彼女は確信に満ちた笑顔で答える。

「出来るよ? 疑うんなら、疲れてないって思ってみればいいのよ!」

「それで解決するなら簡単なんだけどな……ん?」

 そう言った僕だったが、自分の体調の変化に気付いて驚く。

「ん……? あ、ホントだ。疲れが取れて眠気も引いていく……?」

「ねっ、あたしの言った通り、でしょ?」

 得意げな彼女だったが、こちらはなんだか納得できない気分だった。

「だったら精神も不死身にしてほしかったな。体調は良くなっても気力の方は萎えたままだ」

 そう言って、後ろに倒れ込んだ僕に対し、彼女はじれったそうに訊ねる。

「だからどうしてよ? タケトはもうあたしと同化してるも同然なんだよ? 思考だってあたしと同じように自由自在に操作できるんだってば!」

「ああそうか……。僕はもう人じゃないんだっけ……」

「そうそう。あなたは既に人間なんて超越しちゃってる存在なんだから、嫌な事があったとしても全部忘れちゃえばいいの、あたしみたいにね」

 明るく励ますあーちゃんだったが、僕はそんな実感も持てずに質問を返す。

「……忘れようと思えば忘れられるのか?」

「んっ! 忘れられるよ」

「……忘れて……いいのかな?」

「いいんじゃない? うん!」

 明るく即答を返す彼女に僕は浮かない気分のまま訊ねる。

「君はそうやって、全て忘れてきたのか?」

「ん そーよ。だから、毎日が幸せ♡ イエぃ!」

「本当にか……?」

 そう問い質す僕の真剣な眼差しに、あーちゃんの顔から笑顔が消えた。

「……そうね。今のあたしにも忘れちゃいけない事だってあるわ……うん」

 俯き加減で真面目な表情でそう語る、そんな彼女の態度の変化に僕は気になって訊いた。

「それはなんだ?」

「ん! お風呂場にある、食べ残しのインスタントタケト!」

「はあ?」

「あの食べ残しを忘れないうちにバラして、冷蔵庫にしまっておかないと腐っちゃう。それはもったいない!」

 その予想外の言葉に対するツッコミも忘れていた僕に、あーちゃんは楽しそうに語り続けるのだった。

「あれ、インスタントだって馬鹿にしちゃいけないんだよ。内臓とかもちゃんとあって、けっこー美味しいし、ほとんど本物と変わりないんだから。豪快に丸かじりも良かったけれど、次はちゃんと解体してお上品に料理してみるなんてのもイイかもね。あ、道具の心配はしないでいいよ、このあたしの手刀ひとつできちんと捌けるから」

「もうそのへんでやめとけ、グロい話はもうおなか一杯だ!! てかそれ以上やったら規制されてしまうわ!!」

 やっぱりツッコミは忘れてはいけないようだった。

「つーか今うちのバスルームどんな状態になってんだよ!?」

「んー、ちょっとした猟奇殺人現場? あはっ!」

「『あはっ!』じゃねーだろ!!」

「じゃ、R18指定のホラー映画。うふっ♡」

「表現の仕方の問題じゃない!!」

「だいじょぶ! あるのはタケトの死体なんだから、本人であるあなたが殺人の冤罪で捕まる心配はないよ。イェイ!」

「そんな心配をしているわけじゃない!! 気持ちの問題だ!! 想像するだけで気色わりいよ、これから風呂場に行けなくなるだろが!」

「だから気持ちの問題だったなら、そんなの忘れちゃえばイイんだってば」

 明るくピースサインを決める彼女に僕は反論をしようと試みるが……。

「そうできるものなら、そうしたいよ! だいたい、そんな簡単に嫌な事を忘れられたら苦労なんて……。って? あれ? 何だっけ?」

 既にすっかりと忘れていた。何か、とても気持ちの悪いものを想像していた。それくらいしか覚えていない。

「ね? 忘れようと思えば忘れられるでしょ?」

 そう訊く彼女の顔はとても可愛くて。

「だから、今日の出来事もイマトオから聞かされた話なんてのもぜーんぶ全部忘れちゃえばいいんだよ」

 その声はとても清んでいて……。

「そうすれば、毎日幸せ。ん!」

 その仕草はとても愛らしく思えるのだった。

「じゃあ逆に『忘れたくない』と……そう思ったことは、いつまでも忘れないでいられるのかな?」

 そんな僕の言葉によってあーちゃんの顔がわずかに曇った。

「ん? そりゃぁまあ、そうだけど……?」

「そうか……じゃあ、またあの子の名前を訊いても、もう忘れたりはしないでいいんだな……」

「もーサイテー!! あたしの前で他の女の事なんか考えないでよー! めっ! めっ!!」

 まるで子供の遊びのように可愛らしくポカポカと殴り始めた彼女のそんな行動が理解できずにいた僕は、『なんだかなぁ……』と呟くのだった。
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