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第三章『画廊寄武等とYouしょく!』
63.邂逅一番
しおりを挟む夢というのは時には都合の良い展開が繰り広げられたりする。そんな感じでそれまで自分以外は誰ひとり居なかった筈の空間に突然現れたかのように、その女の子が居た。
そしてまた夢というのは現実世界での抑圧から解放された行動を取ったり、時には平常時には決して取らない行動を取ったりすることもある。
それはまさにそんな状況だった。
『ああ玲衣ちゃん、そこに居たんだ!』
本来の画廊寄武等である僕が持っている思考や価値観を意識の隅へと追いやるかのように、夢の中の画廊寄武等、略して夢タケトは現実世界では心の中ですら発しないであろう、そんなセリフを口にしながらその少女の元へと駆け寄ってゆく。
「やあ、ようやく会えたな。そんなに時間は経っていない筈なのに随分と懐かしい気がするよ」
普段の自分なら、いくら夢の中とはいえそんな行動に出るなんてことは許しがたい所だが、どうやらそこではあっちこそが主人格であり、こちらの意識がまるでイマジナリー人格扱いになってしまっているらしく、どうやらこちらには制御権どころか発言権も無いようだったので黙って見ているしかない。
ただ、それでもその展開に疑問を抱いているこちらの意識がその世界に反映しているのか、その白装束の女の子から返ってきた言葉はご都合主義とは言い切れないものだった。
「は、はい? え、えーと、どちら様……でしょう?」
その、夢の中の僕が思い描いていた人と同じ顔と姿をしていた女の子は、戸惑った様子でそう答えた。
「え? 僕を覚えてない?」
「あの……誰かと間違えているのでは……?」
そんな疑問を投げ掛けられて、夢タケトは思う。
――そうか……。相手に覚えてもらえていないというのは、こんなにもショックなことだったのか……。
そんな思いと共に、自分がどれだけひどい人間だったのかを再確認しているようだった。
これからは気を付けなければと、そんな反省をしながらもふと何か違和感に気付く。
「そう言われてみると……」
よくよく記憶と照らし合わせてみても、顔は当然としてその身にまとっている雰囲気のようなものですら全く同じに感じさえするのだが、それは決定的な違いでもあった。
――ああそうか……体が透けていないんだ……。
そう思って足元に目を向けると、はっきりとした足が地面に接地している。
――触ってためすわけにもいかないが、この人は霊体なんかじゃなくてちゃんと実体があるように見えるな……。
傍観者状態の僕には全く分からないが、どうやら夢タケトはそんな差異に気付いて気落ちしているようだった。
「よく見ると髪や着物のアクセサリーなんかもあの子の物とよく似ているけど、僕の知っているのとはなんだか少し違う気もするかな……」
ようやく納得してもらえた彼女は彼に言う。
「でしょう? 今のわたしには知り合いなんて存在するわけはないのですから……」
それは本来ならば、その言葉に違和感を抱いて多少の質問を投げ掛けるべき、そんな内容だったのかもしれない。
しかし、僕とは別人格のような存在である夢タケトも所詮は同じなのだろう。人として何か大事な部分が欠けているのだろう。そんな発言に対しても何の疑問を抱くことは無いままに会話を切り上げに掛かる。
「そうか済まないな。どうやら人違いだったようだ。じゃあ失礼する!」
「え、あの……」
それが自分の求めていた相手ではないという確証を得た途端、夢の中の僕はそのまま別れを告げて立ち去ろうとしていた。
しかし、こちらに用は無くても向こうにはまだ話したいことがあるのだろう。先へ進もうとする僕を彼女は慌てた様子で彼を引き留めようとする。
「も、申し訳ございません。わたし、どうやら迷子になってしまったようで、ここがどこなのか、せめて住所だけでも教えていただけないでしょうか?」
「はい?」
その言葉に夢タケトは立ち去ろうとした足を止めた。
しかし、これまでの人生でほとんど鍛えた事の無い社会性が働くわけもなく、ましてや夢の中の登場人物に対して真摯に振る舞うという気にもなれないのだろう。頭だけ振り向いて端的に事実だけを伝える。
「ここは僕の夢の中だよ」
「は?」
まあ、実際に夢の中の登場人物だとはいえ、「はいそうですか」と納得してくれる説明では無いのだろう。そんな感じで戸惑っている様子だが、それに付き合っている余裕は夢タケトには無いようだった。
「じゃあ、そういうわけで」
そう告げて再び進み始めようとするのだが、当然それは彼女にとって納得できるものではないようだった。
「あの……。夢の中というのはいったいどういう意味なのでしょう? もう少々詳しく説明していただけないでしょうか」
「ああ。夢の世界というのは人が眠ってる時に見るアレだよ」
「いえあの……こちらもさすがに『夢』の概念を知らないというわけでは無いのですが……」
人間を良く知らない僕の夢の中の登場人物としては常識的な思考を持っているらしきその少女は困惑した様子で質問を重ねてくる。
「つまりここは、あなたが眠っている間に見ている夢の中だと、そうおっしゃっているのでしょうか」
「ああ。そうだよ」
「だとすると、なぜわたしはそんな所に迷い込んでしまったというのでしょう?」
やっぱり僕の夢の住人らしい。『いやいやここが自分以外の人の夢だっていう、そんな主張をあっさり受け入れちゃうの?』という感じで彼女はそんな疑問を問い掛けてきたのだが。
――そんな所まであの子に似ているのか……。
夢の中の僕は、今の彼女と同じように咄嗟に作った無理のある突飛な持論を真に受けてしまうことが多々あった、そんなお人好しな誰かを思い返したのか、内心では煩わしさを感じつつもその問いを無視などはせずに答える。
「僕はここで人探しをしているんだ。本来ならその本人が登場する場面だったのが、何かの手違いでその人に雰囲気がよく似ている君がこの世界に呼び込まれてしまったのかもしれないな」
「ではわたしは、人違いでここに連れられてきたと?」
「ああ、夢ってのは何でも有りだからな」
「ま、まさかそんなことがあり得るとは……」
『いや、ここまで言ったなら普通はもう受け入れきれないだろ普通!』という、そんな言葉を返したつもりだったにもかかわらず、相手はそんな話に謎の食い付きを示し始める。
「だとすると、いったいどういう原理で現実世界に存在するわたしをここに呼び出したというのです? 夢ってつまりは精神世界のようなものでしょう?」
そんな質問に対して夢タケトは感慨深げに思う。
――いや、素直な天然タイプなのに、矛盾点の指摘だけは随分と的確なんだよなぁ、そんな所もあの子と一緒なのかよ!?
いや全然的確な指摘じゃないけど? それって彼女が現実世界には存在しない夢の中の登場人物でしかないということなんじゃないの?
客観的に見ているとそれでこの話は終わりなような気がするのだが、どうやら夢の中の僕には思い出の人とうり二つの姿をしている彼女とのやり取りを楽しみたいという、そんな深層的な欲求が心のどこかに有ったのかもしれない。
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