画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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最終章『画廊寄武等のyouかん』

80.目が覚めてから

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「ああ、タケトってば、そんなに激しくしちゃ! ああ~~ん!」

「んん……ん?」

 僕は〝あーちゃん〟のそんな寝言で眠りからさめた。

 床で寝ていたにもかかわらず体に痛むところも無かったり、寒さも感じなかったのは彼女との契約によって得られた不老不死のご利益だろうか。

 それはともかく、彼女もそんな僕に付き合おうとしたのだろうか。開いているベッドに寄り掛かる感じで眠っていた。もしかしたら、ベッドに上がる前に眠気に負けたのかもしれないが……。

「あらあら、タケトってばこんなに元気になっちゃって、すごーい!」

「なにその寝言……」

 どうやら〝あーちゃん〟の夢の中の僕は良い思いをしているらしい……。こっちが観ていてた夢とは大違いだ。

 眠ったまま身もだえている彼女を見て、なんだかその夢の中にいるらしき自分が羨ましいような、そんな気分になりながらもそっと体を起こしていた間にも寝言は続く。

「そんなタケトのあそこをチョキーン! 叫び声うるさいから首スパーン!! それでもタケトは死にません。ん~ムニャムニャ……」

「てかどんな夢見てんのぉっ!?」

 なにやら全然羨ましくはない展開のようだった。僕という人間はどこにあっても過酷な状況に置かれているらしい。

 そんな彼女にツッコミを入れそうになるが、危うくそれは思い留まる。

 寝起きが悪く目覚めても意識はまだ寝ぼけていて、見ていた夢そのままの行動を取ってしまう、なんてのはよくある話だ。

 それが、抱き着かれてキスされる、とかいうのなら普通の男子としてはラッキーなアクシデントなのかもしれないが、彼女の食料という立ち位置の僕だと抱き着かれてそのまま食べられてしまう……なんて最悪な事態も十分にあり得る。

 そんな身の危険を抱いたところで、

「もぐもぐ……ごっくん!」

 などと、そんな声を上げながらもしゃもしゃと口を動かしているのを見せられ、更に危機感を募らせた僕は、彼女が目を覚ましませんようにと願いながら慎重に距離を取り、物音を立てないよう細心の注意を払いながらその部屋を出るのだった。


****


「やあ、おはようタケト君。ぐっすりと休めたようだね。それじゃあ、続きを話そうか」

 リビングルームへ入ると、ソファーに横たわったままのイマトオは瞳だけ開けてそう言った。

「いや、寝起きなんだからとりあえず水くらい飲ませてくれ……」

「あはは、夢の中で走り憑かれて喉が渇いたのかい?」

「何だよそりゃ? 夢の中の行動のせいで喉の渇きに影響なんて出るかよ。寝てりゃ普通に喉は乾くだろ」

 そう言いながら、グラスに水道の水を注ぎながらイマトオに訊ねる。

「てか僕はどれくらい眠ってたんだ……?」

「睡眠時間は6時間34分50秒11ってところかな?」

「いや……そこまで細かくなくてもいいんだが……ってか今は何日の何時くらいなんだ?」

 そう言いながら壁掛け時計に目を向けるのだが振子が止まっているのを見て、数日前から電池が切れたままだったのを思い出した。そんな僕にイマトオは言う。

「もうすっかりお昼だよ」

「そこはぜひ正しい日時を教えて欲しいところなんだけどな」

 何なら今すぐ時計の電池交換をして正しい時間をセットしておきたいとも思ったのだが、彼はそんな意図も読み取っているかのように意地の悪いニヤケ顔で答えた。

「タケト君が喜ぶ情報は教えたくないなぁ、あははは」

「なんだよそれ?」

「まあ、軽い嫌がらせみたいなものだから気にしないでイイよ。キミがなんだかモヤモヤした気分になってくれたなら、それでこちらとしては満足なのさ」

「前々前世からの恨みだか何だか知らないが、いい加減そんな程度の低い嫌がらせは止めてほしいもんだけどな……」

「む! それじゃあ、アタシの存在意味が無くなっちゃう! イヤっ!」

「……それ、オッサンが言っても可愛くないし……」

 あーちゃんの物真似をしたイマトオのそんなセリフにツッコミを入れた僕だったが、その背後から声が掛けられる。

「んじゃ、あたしがやるには可愛いと思ってるってこと? ね?」

 と、モノマネ番組のご本人登場ドッキリのように、いつの間にか背後に立っていたあーちゃんから声を掛けられ僕は慌てた。いや別に僕がモノマネをしていたわけではないが……。

「うわっ! って、居たのかよ。てか起きたんだ?」

 いったいどんな夢を見ていたのか聞きたいような聞きたくないような、そんな複雑な気分になっていた。

「うん。やっぱ、可愛いヒロインが居ないと話が盛り上がらないでしょ? ねぇ?」

 いや登場が早すぎだよ。せっかく起こさないようにと細心の注意を払っていたこっちの気配りがまるっきり台無しじゃないか。せめて一話くらいは挟んでくれよ。

 そんなことを思った僕は、意趣返し的に答える。

「いや……実はけっこーウザく感じている。個性を付けようとしているのか知らないが、その言葉の前後の掛け声みたいのが特に……」

「がーん!」
 意外にショックを受けている彼女だったが、こちらも色々とストレスが溜っていたのだろう。僕は気を使う気にもならず更に続けた。

「白状すると実は僕の好みは、赤ちゃん言葉で喋る女の子なのだ!」

「そ、そうだったんでちゅか!? じゃあこれから赤ちゃん言葉で話ちまちゅから、あたちを嫌いにならないでくだちゃい!」

 いや、何で僕の周りに現れるのはこんな出来の悪い作り話をあっさりと信じちゃうような人ばかりなんだよ……。

 相手が向けてくる好意に対して、何故だか煩わしさとも不安ともつかないそんな思いを抱いていたせいで、それを少しでも回避しようと言ったにすぎない。
 出来るなら嫌ってくれているほうが気も楽な気がしたのもあったのか、僕は更に続ける。

「さらに僕は、大食い女子が大好きなんだ!!」

「そ、そうだったのでちゅか!?」

 そんなあーちゃんに更に畳み掛ける。

「そう! それこそ〝食事のために部屋に籠もったまま、いつまでも出て来やしない〟みたいな、そんな大食いな女の子に僕は大いに萌えてしまうんだよ!」

 さも衝撃の告白という勢いで語られるそんな言葉に、あーちゃんは衝撃を隠せない表情だ。

「あー、そうだったでちゅ、おなかが減ったでちゅ~! こんな事してられないでちゅ、ごはんごはん、でちゅ~!」

 わざとらしくそう言いながら、食べ残しのインスタント食品が残っているというバスルームへと向かうあーちゃんなのだった。

「いや、そこ乗りツッコミ入れる所なんじゃないのかよ?」

 本当に居間から出て行った、そんな彼女を複雑な感情で見送る僕なのだった……。
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