画廊寄武等とyouれい!

須江まさのり

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最終章『画廊寄武等のyouかん』

82.続くイマトオの話

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「僕がやるべき事って言われてもなぁ……」

 イマトオの言葉に、心がざわつき始めていたのでちゃんと考えてみる。

「まずはブラを崇め奉るための教義を明文化することだろうか。まずは信者を募って……いや、それより先に宗教法人化の申請をしておくのが先なのか……」

「そんな申請は通らないし、信者も集まるわけが無いだろ……そっちの話ではもういいから」

「いや、だったら他に何があるっていうんだ」

「愚問だねぇ。あの死神と悪魔に報いを与えたいと、君はそう思ったんだろう? だからあんな夢を見た。違うかい?」

「だからどんな夢だったのか覚えてないと言ってるだろ……」

「いや、悪魔達にそそのかされた父親に殺されたという女の子の話はしたよね? それは夢じゃなくて起きている時に聴いた話なんだから覚えているだろう?」

「ああ、あの時な……。それが僕に関わりのある人だって話なのか?」

「ああそうだよ。ちなみに言っておくと、その女の子の本名は冬雨ふゆう玲衣れいではないけれどね」

「それはそうだろうな。どう考えても偽名だったし」

 そんな僕の何気ない受け答えに対し、イマトオはニヤケ顔のまま意味ありげな視線を向けながら続ける。

「ボクは彼女の本名を知っているけど教えてあげようか?」

 そう言ってニヤケた視線を向けてくるイマトオに僕はゆっくりと首を振っって返した。

「いやいい。人の名前を覚えるのは苦手だし、聞いてもどうせ忘れるだろうから」

「ふーん。まあ、いいけどねぇ」
 
 イマトオは自分で話を振っておきながら、それにはもう興味はなさそうな態度で話を続けた

「ま、あの子があの死神と魔族のコンビの標的になったのは、その魂が普通じゃなかったからなんだよね」

「普通じゃない……?」

――確かにちょっとばかり天然だった気もするが、そこまで言われるほど特異な様子は無かったとは思うんだが……。

 そんな言葉が頭をよぎると、まるでそんな僕の思考を読んでいるかのようにイマトオは話を進める。

「別にボクはあの子の性格の話をしているわけではないよ。あの子の魂がちょっとばかり規格外でね」

「それは、悪魔だのなんだのってやつらが欲しがるような貴重な魂の持ち主だったってことか?」

「そう、彼女の魂には悪魔なんて存在からすれば喉から手が出るほどのね。そんな特別な力が隠されていたせいで、それを狙われていたのさ」

「ふーん。それであんたは、あいつらの手にその魂が渡るのを阻止しようと思ってるってわけだ……」

「うん、だんだんと察しが良くなってきてくれたようだねぇ? 話が早くて助かるよ」

「その死神達が欲しがるって、いったいどんな魂なんだよ?」

「そうだねえ、もしその力が完全に発揮されれば地球上の人類を絶滅させちゃう程度のモノかな」

「規模が大き過ぎる!」

 思わずツッコミを入れてしまうが、イマトオは取り合うこともせずに続けた。

「まあ、そういうわけで文字通り魔の手を逃れたあのコの魂だったんだけれど、この世への未練があったせいで成仏はできず、この世に留まっていたのさ。幽霊としてね」

「未練って……?」

「ああ。キミに会いたいという、そんな想いが彼女をこの世に留めていたようだよ。でも、彼女はその愛しい人の前に姿を見せることは出来なかった」

「それは何故なんだ……?」

「とぼけるのはいい加減にやめてくれと言っているだろう? キミは知った筈だよ、あの子の想いをね」

 その疑問についてこちらが考察するより前にイマトオは答えを言う。

「言っただろう? キミが夢だと思って忘れているの出来事は現実だ。幽霊の少女は実在したし、夢の中に過去の世界からあの子の前世である女の子を召喚したのも事実なんだよ」

「いや、幽霊の少女ってだけでも現実離れしてるのに、夢に過去の人物を召喚って、僕にそんな力は……あるのか……。〝あーちゃん〟がその力を持っているなら」

 僕は妙に納得してしまっていた。だが、そんな僕の戸惑いを無視するようにイマトオは一方的に話を進める。

「今のキミはあの子の言葉には逆らえないという、そんな呪縛に支配されている状態だ。だから自分のことは忘れてほしいと言われたその規範以外の行動は取れない。ただ夢の中という状況では時に普段理性で押さえていた隠れた衝動が解放されたりするからね。キミにも有ったのさ、あの子の言葉に反してもを想い追い求めるという裏の衝動がね」

「裏の衝動とか言われてもなあ……。てか表も裏も僕の心は既にブラ様に全て捧げているしなぁ」

 そんな僕の言葉にイマトオは心底うんざりしている様子だった。

「それに付いて論議している時間は無さそうだからさ。とりあえずタケト君には別の意識が存在するかもしれないという、その認識で話を進めて良いかな?」

 イマトオは本当に急いでいるのだろう、こちらの返答も待たずに話を再開する。

「キミのしょうもない話は置いといて幽霊の女の子の話に戻ると、あの子はかなり酷い殺され方をしたんだ。『こんな姿じゃ、タケトくんに会いに行けない』って、死ぬ間際にそう思うくらいにね。そんな思いが強く働いてしまっていたんだろうね……幽霊になっても、彼女はその想い人に会いに行ってはいけないという、そんな強迫観念みたいなものが残っていた。幽霊ってのは、死に際の強い想いってものに左右されがちだからね」

「そんな話をされても、その覚えていない人が僕のことを好きだったとして、だからどうだっていうんだ?」

「あはは、たいしたロクデナシ発言だねぇ。でもさぁ……」

 偽悪的に振る舞う事で責任逃れをするような、そんな僕の心の動きを指摘はせずに、イマトオは芝居がかった口調で言葉を続ける。

「ボクはそんな彼女が不憫でね。だから、その事件の記憶……というか残留思念みたいなものだけれど、それを魔法で消してあげたんだよね。ついでに成仏しやすいよう、この世への未練になりそうだった生前の記憶も消してあげたんだ」

「そりゃ……随分とお節介だな」

「うん。そうだったかもね……。でも、どうやらそれはボクの魔法よりも強い想いだったらしくてね……結局キミへ懐いていた思いだけは消せはしなかったよ」

「なんだそれ……どういう意味なんだ?」

「名前どころか、生前の自分がどんな目にあったのかも全て忘れさせられて、もちろん行為を抱いていた相手の存在すら消されているっていうのに、彼女はその魂に刻まれるほどにキミを求め続けていたって意味さ。

 それと同時に、キミに会いに行くわけにはいかないという想いも強かったようでね。そんな相反する二つの強い想いによって、互いにその願いを否定し続けてしまい、自ら行動を起こす事もままならない……彼女はそんな状態であの場所に留まっていたんだ」

「それが……あの押しボタンの横断歩道……だったっていうのか?」

「そうだよ。そんな永劫の苦しみに苛まれ続けるハズのあのコの魂を救ったのが、偶然にもそこに現れたキミだったというんだから、そのへんは良くやったと褒め称えるべきなのかな?」

 何の反応も出来ず、ただ一方的に相手の話を聞いていた僕は、それが自分の意志なのかどうかも分からない状態でイマトオに訊ねていた。

「それで……あの子は……。玲衣ちゃんの魂は救われたのか?」

「まあ、そう言ってあげて良いだろうね」

 イマトオは相変わらずのニヤケ顔でそう言った。

「結果的にあのコの魂は成仏できて、いつになるのかは不明だけれど転生待ちの状態にある。まあ次の人生ではキミみたいなヤツに惚れたりなんてせずに幸せな人生を送ってもらいたいものだね」

「…………」

 そんな嫌味の混じりな言葉にも僕は何も言い返せない。

 彼女の魂が救われたのだと告げられても、何故か僕の心は落ち着かなかった。

 何の感情だかも理解できない。そんな己の心の中で湧き上ってくる思いが心を搔き乱し始めているかのようだった。
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