のんあくしょん!

須江まさのり

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内気でごめんなさい。

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えーと……何をしたらいいのかも分からないので……。とりあえず自己紹介をすると、私の名前は墨谷香音すみたに かのん。高校2年生。

 性格は内気。そして「それはどうなのよ?」と自分でも思うくらいに優柔不断で、自分じゃ何も決められない。

 なので……。

「ノンちゃん、お願いがあるのー」

 ある日の放課後。たいして親しくもないクラスメート達が馴れ馴れしくそう声を掛けてきても、私の頭の中で『あなた達がそのあだ名で呼ばないで』といった感じの思いが湧いてくるだけで、それは言葉になってはくれない。

 というか、そんな意志を明確にしたところで相手に告げる決断なんて出来ないのだから、そもそもそんなのも無意味な事で……。

 なので私は、

「……え? え……?」

 と、ただただ相手の言葉にオロオロとするしかなく……。

「あたしちょっと用事があるから今日の掃除当番代わってほしいの、おねがーい」

 戸惑う私をよそにクラスメートだという以外に関係性を説明する言葉も無い女子達は、意地の悪さも隠しきれていない馴れ馴れしい笑顔でそう言った。

「え、えーと……」

 動揺してしまう自分を情けないとは思うけれど、どうしたらいいのか分からないのだから仕方がない。とにかく現状を把握するために、軽くパニックに陥っている頭をフル回転させて状況を分析する。

――相手は五人。さて……私はその中の誰と掃除当番を代わればいいのだろう……?

 そんな疑問に直面している間にも、「それじゃ頼んだわねー」「のんちゃんが用事がある時は代わってあげるから、あはは!」とか笑いながらその子達は教室を出て行ってしまう……。

「あ、あう……」

 私は……それを引き留めようと右手を差し出す事くらいしかできなかった。

 もちろん、そんなしぐさなんて完全に背を向けている状態の相手に伝わるはずもなく……。
 ただ一人教室に残された私は、誰も居なくなった教室を見回して頭をひねるのだった。

「……この教室を私一人で掃除しろと?」
 やっと自分の考えが纏まったものの、その質問を聞いてくれる人達はもう居ない……。

「……この場合私はこの先、五回分の掃除を代わってもらえるのだろうか……?」

 プラス思考で考えればそういう事になる。だって五人分の掃除を代わってあげたのだから……。
 でも、私はその貸しを返してもらう機会などは訪れないというのも分かっていた。

 多分それは相手も分かっているのだろう。

『用事があるから掃除当番代わって』なんて言葉、私が口にする事など出来ない事を……。

「まあ、ここで考えててもそれこそ時間のムダよね……」

 私はそう呟いて、誰も居なくなった教室の机を運ぶ。

 だって、もし先生の目に留まったりしてこの状況の説明を求められてしまったら……それを上手く誤魔化すなんていう話術は私には無いし、結局は正直に話すしかない。

 突発的な現実には対処もできないくせに、未来の事はまるで実体験したかのように想像できてしまうわたしはそんな事を思う。

 そうなれば、あの女子達は先生から注意やお叱りという報いを受ける事になる。けれど……私は結局その事を逆恨みされて嫌がらせを受ける事になってしまうのだろう……。

――まったく迷惑な話……。

 だって、他人を利用したいのなら、その人の特性というか欠点くらい把握しておくべきだと思うのよ。

 その上で、もし……そういう事態が起こっちゃったら、それが先生にバレて怒られるかも……、くらいのリスクはあらかじめ認識しておいてほしい。それすら考えずに「あんたのせいだ!」なんてこっちに言われても……ねえ?

 でも彼女達は、そんな自分の任命責任を棚に上げて怒りの矛先を私に向けてくるタイプの人達なので、それを分かってもらおうと思う事すら無駄な行為だ。

 なので私はそんな未来に起こるであろう被害を最小限に留めるべく、掃除を手早く終わらせなければと努力しているんだけれど、この頑張りはきっと誰も評価してはくれないだろう……。それどころか、最初にはっきりと断れなかった自分の責任だとか、そんなふうに追及されてしまう羽目になるのを想像すれば、誰にも知られない方が良いとすら思える。

――私は孤独だ……。

 そう実感しつつ、ただ黙々と作業を進めるしか無い私だったのだけれど……。

「住谷さん、一人で掃除?」

「え? あ、あの……」

 不意に掛けられた声に一瞬、担任の先生かと思って慌ててしまったのだけれど、その声の主はクラスメートの野村君だった。

 それに気付いた私は改めて……。

「あ、あわわわ……」
 と、慌て直すのだった。

……だって、私はその野村寿蔵のむら としぞう君に密かな恋心を抱いていたから……。

 だから、こんな所を見られたくは無かった。だって、これじゃまるで私がイジメられてるみたいじゃない?

 それで、なんとか誤魔化そうと頭をフル回転させようとしたのだけれど……。

「あ、あの。えーと……その……」

 当然のように優柔不断な私の頭は機能停止したまま、そんな言葉(?)しか口から出す事はできなかった。
 というか、そんな臨機応変に対処できる話術があったら、そもそもこんな状況になどなっていない。

「その様子じゃ、掃除当番を押し付けられたって感じだね?」

 碌な言葉も返せないわたしに野村君はそう言った。この人は察しが良すぎるのだ。

「まあ俺も暇だし手伝うよ」

 そして、気遣いのできる人でもあった。

「……あ。い、いえ。その……あの……」

 と私が口ごもっている間にも、野村君はまるでそれが自分の本来の仕事だったかのように、さっさと机を運び始めてしまう。

 野村君は行動の人なのだ……。

 思いがけず野村君と二人きりになれた私は、掃除当番を押し付けたクラスメートの女子達に対し、『ちょっとくらいは感謝してもいいかも』……なんて思ってしまうのだった。

 まあ……私が口下手じゃなかったとしても、あの人達にそんな感謝の言葉を口にするなんて絶対に無いのだけれど……。

――と、とにかく何か野村君に話し掛けなきゃ……。

 とはいえ、この千載一遇のチャンスを生かさなければと思うのだけれど、私に出来るのはそこまでだった。いくら考えても気の利いた世間話のひとつも思い付く事ができない、そんな自分の口下手さを呪いたくなっていると、彼はそれを察しているかのように向こうから話しかけてくる。

「住谷さんなんだか最近、色々と面倒事を押し付けられてるみたいだね?」

「……う、うん。そうなのかな? 私は別に気にしてないけど……」

 私はさりげな~く、健気な少女を演じてみたのだけれど、察しの良い筈の野村君はそれをあっさりとスルーして質問を重ねる。

「そうなったのは、やっぱ、〝中居〟が学校に来なくなってから?」

「……う、うん……」

 中居真由(なかい まゆ)……。

 それは私の唯一の親友だった……。
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