視える私と視えない君と

赤羽こうじ

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 食堂へと歩いて行く中、叶が池江に問い掛ける。

「そういえば池江さん。私達にばっかりかかりっきりのようにも思えるんですけど、他のお仕事とか大丈夫ですか?」

 叶の不意の問い掛けにも、先を行く池江は穏やかな笑みを浮かべて振り返る。
 
「えぇ、もちろん大丈夫です。お気遣いありがとうございます。私は本来、鬼龍様そして嵯峨良様のお世話を仰せつかっておりました。ですが嵯峨良様の方から、自分達は必要な時には声を掛けるから鬼龍様を中心に動いてほしい、と御要望がありまして。もちろん私はお二組様共、同じようにお世話致します、と言ったのですが陸奥方様と二人の方が動きやすいからとおっしゃられたので私は鬼龍様と倉井様お二人のお世話を一番に考えさせて頂いております」

「そうでしたか。また二人には軽くお礼ぐらい伝えなきゃね」

 そう言って微笑む叶だったが、ふとした疑問が頭を過ぎる。

「そういえば、三条さんや神谷崎さんはお世話大丈夫なんですか?」

「三条様と神谷崎様はまた別の者がお世話させて頂いております。お見かけになってませんか?若い男の使用人で西園というのですが」

 池江に言われ少し記憶を巡らせる。確かに初日の夕食時に、煙草を吸いに食堂を出た所で若い男性の使用人に声を掛けたのを思い出した。

「あっ、確か髪が少し茶髪の若い男性の使用人の方がいましたね」

「そう、その男です。まだ斗弥陀家に使えて日は浅いのですが、義人様からの推挙もありまして三条様と神谷崎様のお世話を任せる事になったんです。申し訳ございません、何度髪を黒くしろと言ってもあの髪色なんです」

 眉根を寄せて会釈するように軽く頭を下げる池江に対して、叶は手を振りながら少し困ったように頭を振った。

「いえいえ、池江さんが謝る事じゃないですから。それに私は少しぐらい茶髪だからって特に不快にも感じてませんし」

「そうですか、ありがとうございます。ですが髪色だけでなく、西園の言葉遣いや態度等も目につく所が多々ありまして、使用人としての心得がなってないと私は思っています。こちらに仕えてまだ半年と経たない西園では三条様や神谷崎様に何かご迷惑をおかけしてしまうのではないかと私は不安でして、だいたい我々使用人の心構えと致しましては――」

「あ、あの池江さん、西園さんもそんなに悪気はないんじゃないですかね?きっとこれから池江さん達を見て成長して行くと思いますよ」

 尚も愚痴が止まらなさそうな池江に対して、叶がやんわりとなだめると、池江もようやく我に返ったのかお辞儀をするように深々と頭を下げた。

「鬼龍様、申し訳ございません。不満がつい口をついて出てしまいました」

「いえ、そんなお気になさらずに」

 笑みを浮かべて声を掛けたが、池江はそれでも恐縮するようにもう一度頭を下げた。

 叶と幸太は池江に先導されて食堂に入ると、初日と同じように志穂と嵯峨良が座るテーブルへと通される。

「すいません、お待たせしました」

 少し声をひそめて二人に声を掛けると、二人はいつものように笑みを浮かべた。

「いいわよ、たいして待ってないし。それに今回は貴女達が一番最後って訳でもなさそうだしね」

 そう言って志穂がもう一つのテーブルに視線を向ける。
 そこには神谷崎が一人で座り、隣りの席にはナイフやフォークが用意されてはいるもののまだ誰も座っていなかった。

「あそこは確か三条さんが座ってた席ですよね?」

「えぇそうね。また何処かでトラブルでも起こしてるのかしら?」

 少し意地悪な笑みを浮かべて志穂が笑うと、叶も眉尻を下げて笑顔を作る。
 しかしその後、暫くして叶達の元に池江がワゴンを押してやって来た。

「本日は松阪牛をメインに添えたコースとなっております。まずはこちらのスープからどうぞ」

 丁寧にお辞儀をし、池江が四人の前にスープを配膳していく。
 三条が揃わないまま食事が始まる事に僅かに疑問を抱いた叶が池江に問い掛ける。

「あの池江さん。あちらのテーブルの三条さんがまだ来られてないようですが、何かあったんですか?」

「三条様でしたら本日のディナーは欠席なさるそうです。うちの西園がお声掛けに伺った時に、今日は気分が優れないから寝かせといてほしい、と言われたようで」

「なるほど、そうですか」

 そう伝えられ、もう一度三条が座る筈だった空席に目を向ける。
 そこには綺麗にナイフやフォークが並び、空のグラスが虚しく残されていた。

「どうかした?」

 何故か漠然とした不安を抱き、虚ろな瞳で空席を見つめる叶に志穂が問い掛けるが、叶は僅かに口角を上げて何かを振り払うかのように頭を振った。

「いえ、大丈夫です、何もありませんよ」

 取り繕うような笑みを浮かべる叶を見て、志穂は軽くため息をつくと微笑みかける。

「さぁ、暖かいうちにスープ頂きましょう」

「そうですね」

 漠然とした不安を打ち消すように、務めて明るく頷く叶を見て幸太も何処か違和感を覚える。
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