夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

文字の大きさ
26 / 62

告白④

しおりを挟む
 アパートで横になって休んでいた幸太はスマホのアラームで目を覚ました。画面の時刻は十六時三十分と表示されており、幸太はゆっくりと身体を起こす。

「もうすぐ閉店かな?そろそろ行こうか」

 起き上がった幸太は鏡の前に立ち、寝癖を直しながら身支度を整える。

『少し大袈裟に見えるか?』

 そんな事を考えながら腕に包帯を巻き部屋を後にした。夕方とはいえ、夏の日差しはまだ容赦なく照りつける。じんわりと汗を滲ませながら自転車をこぎ進め、三十分程で海水浴場へと辿り着く。

 しかし海水浴場へ着いた幸太が海の家へと行くと既に『閉店』の札が掛かっていた。

「えっ?もう終わってる。早く閉めたのか?」

 少し途方に暮れていた幸太だったが弘人へ連絡しようとスマホを取り出したちょうどそのタイミングで聞き覚えのある元気な声が響いた。

「あれ?幸太君じゃん!」

 声のした方を振り返ると咲良が笑顔で手を振っていた。幸太が手を振り返すと、咲良が弘人を連れて駆け寄って来る。

「幸太君もう大丈夫なの?痛かったでしょ?」
「幸太お疲れ。退院出来たのか?まだ全快にはかかりそうだな。どれぐらいかかる?」

 二人が慌てて駆け寄って来てくれたのは嬉しかったが、矢継ぎ早に二人が質問を投げかけてくる為、幸太も苦笑いを浮かべていた。

「いや、まぁ結構痛かったけどもう大丈夫だよ、退院も出来たし。全快するのはまだかかりそうだけど日常生活には支障なさそう。二、三日でバイトには復帰出来るかなって思ってるんだけどな」

 戸惑いながらもにこやかに笑う幸太を見て、二人はひとまず安堵の表情を浮かべていた。

「そういえば今日のバイトどうなったんだ?もう店閉めたのかよ?」

「ああ、食材が尽きて早めの店じまいになったの。だいぶ忙しかったんだけど叶さんが手伝ってくれたからなんとかなったかな。まぁ叶さん目当てのお客さんもいたから叶さんのせいで忙しくなった様な気もするけど」

 咲良が笑って言っていたが、それを聞いた幸太は戸惑いの色を見せた。

「えっ?鬼龍さんがバイトに来たって事?なんで?」

「なんか幸太君が怪我したのに責任感じて手伝いに来てくれたみたい。早く終わったから海にも誘ったんだけど『水着ないから』って断られて、さっき帰っちゃった」

 咲良は眉を八の字にしながら笑っていたが幸太は慌てて踵を返す。

「ごめん、ちょっと鬼龍さん追いかけてくる。楓さんには明日また顔出すって言っといて!」

 慌てて駆け出しながら振り返り叫ぶ幸太を二人は笑顔で見送っていた。
 浜辺を後にした幸太は自転車に跨ると精一杯ペダルをこぐ。もし叶がまっすぐ帰ったなら以前送って行った方向へ行った筈だと思い、自転車を必死に走らせた。

 しかし幸太が必死に自転車をこぎ進めて行くが遂に叶を見つける事なく、先日叶と別れた場所まで来てしまった。

『……ひょっとしたらコンビニとかに寄ってるかも』

 そんな事を考えて近くのコンビニ数軒に立ち寄ったが叶には出会えず暫く周辺を徘徊した後、幸太は途方に暮れていた。

「はぁ、何やってんだろ……」

 気が付くと日も傾き時刻は十八時を回っていた。街行く人達の喧騒の中、幸太がベンチに腰掛け項垂れていると、幸太の前で一人の脚が止まった。

「君、分かりやすく項垂れてるね」

 聞き覚えのあるその声に慌てて顔を上げると、そこには幸太の事を覗き込む様にして叶が立っていた。

「鬼龍さん」

「倉井君いつも項垂れてない?……っで、何処見てんの?」

 座っている幸太に対して叶が膝に手をつき前かがみで覗き込んでいた為、思わず幸太の視線が叶の胸元に行ってしまった。それに気付いた叶は笑みを浮かべたまま胸元を手で隠すと、幸太は慌てて頭を振る。

「い、いや、違う。その、たまたま目が行っただけで変な目で見てた訳じゃないです」

「へぇ……スケベ」

 笑みを浮かべた叶は上体を起こし反転するとさっさと歩き出した。

「あっ、ちょっと!鬼龍さん待って」

 幸太が慌てて立ち上がり急いで後を追うと、叶は振り返りほくそ笑んでいた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

それなりに怖い話。

只野誠
ホラー
これは創作です。 実際に起きた出来事はございません。創作です。事実ではございません。創作です創作です創作です。 本当に、実際に起きた話ではございません。 なので、安心して読むことができます。 オムニバス形式なので、どの章から読んでも問題ありません。 不定期に章を追加していきます。 2025/12/29:『ふるいゆうじん』の章を追加。2026/1/5の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/28:『ふゆやすみ』の章を追加。2026/1/4の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/27:『ことしのえと』の章を追加。2026/1/3の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/26:『はつゆめ』の章を追加。2026/1/2の朝8時頃より公開開始予定。 2025/12/25:『がんじつのおおあめ』の章を追加。2026/1/1の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/24:『おおみそか』の章を追加。2025/12/31の朝4時頃より公開開始予定。 2025/12/23:『みこし』の章を追加。2025/12/30の朝4時頃より公開開始予定。 ※こちらの作品は、小説家になろう、カクヨム、アルファポリスで同時に掲載しています。

(ほぼ)5分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ5分で読める怖い話。 フィクションから実話まで。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

百物語 厄災

嵐山ノキ
ホラー
怪談の百物語です。一話一話は長くありませんのでお好きなときにお読みください。渾身の仕掛けも盛り込んでおり、最後まで読むと驚くべき何かが提示されます。 小説家になろう、エブリスタにも投稿しています。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

(ほぼ)1分で読める怖い話

涼宮さん
ホラー
ほぼ1分で読める怖い話! 【ホラー・ミステリーでTOP10入りありがとうございます!】 1分で読めないのもあるけどね 主人公はそれぞれ別という設定です フィクションの話やノンフィクションの話も…。 サクサク読めて楽しい!(矛盾してる) ⚠︎この物語で出てくる場所は実在する場所とは全く関係御座いません ⚠︎他の人の作品と酷似している場合はお知らせください

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

奇談

hyui
ホラー
真相はわからないけれど、よく考えると怖い話…。 そんな話を、体験談も含めて気ままに投稿するホラー短編集。

処理中です...