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告白⑥
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『鬼龍さんこの後どうするんだろう?帰るのかな?明日もバイトだけど飲みに誘ったら来てくれるかな?』
用を足し、喫煙所で電子煙草を咥えながら幸太はこの後の事を考えていた。そんな時、幸太の前に一人の女性が歩み寄る。
「何一人でニヤついてんの?そんなに楽しいんだ?あの人といるのが」
少し鼻にかかった聞き覚えのあるその声に、幸太は渋い表情で顔を上げる。
「唯か、なんだよ?何か用か?」
楽しかった気分に水を差され幸太が明らかに迷惑そうな顔をすると、唯も険しい表情を見せる。
「随分な言い方ね。浮き足立ってるあんたに忠告しといてやろうと思ってさ。あの人この辺の人じゃないでしょ?ただ単にぷらっと一人旅にでも来て、一夏の恋ってやつを楽しみに来てるだけよ。飽きたらあんたは捨てられる。向こうはただの遊びよ。あんただけが本気になってて、周りから見たら滑稽でしかないわよ」
「お前、俺の事は兎も角、鬼龍さんの事けなすんじゃねぇよ!」
流石に叶の事を軽んじる様な物言いに、幸太が不快感をあらわにするが唯は更に挑発する様な笑みを浮かべた。
「鬼龍さん?まだ苗字でしか呼んでないんだ?あはは、ごめんごめん。あんたじゃ遊び相手にすらなってないんだろうね」
幸太は拳を握り締めながら歯ぎしりする。しかし一旦目を閉じ大きく息を吐くと、ゆっくりと心を落ち着かせた。
「……ふぅ。まぁ確かにあれだけ綺麗な人だから遊び相手にもなってないかもしれないな。だけど鬼龍さんはしっかりと俺の事を見てくれる。それに唯言ってたよな?無駄な時間過ごしたくないって。俺もそうだ、鬼龍さんとの時間を大切にしたい。もう俺に構わないでくれないか?今こうしてる時間がお前にも俺にも無駄な時間だろ?」
「人がわざわざ忠告してあげてるのに構うなとは何よ?」
「ああそうなのか?大きなお世話だろ?いちいち絡んで来てる様にしか思えないんだよ。だったら無駄な時間過ごしてないで早く何処へでも行ったらいいじゃないか」
この様な言い方をすれば唯の性格上、激情に駆られる事は目に見えていたが、あえて幸太はこき下ろす様に言った。案の定唯は目を釣り上げ歯噛みしながら凄まじい形相をして幸太を睨んでいた。唯はそのままにじり寄ると、腕を振り上げ思いっきり振り抜く。
幸太はその瞬間、歯を食いしばり咄嗟に目を瞑った。
次の瞬間、激しい痛みが頬に走り衝撃で幸太の顔面は右に弾け飛ぶ……筈だった。
だが少し経っても何も起こらず、不思議に思った幸太が目を開けると、唯が振り抜こうとした右腕を叶がしっかりと掴み、幸太の左頬の寸前で唯の右腕を止めていた。
「君、どれだけ人が良いの?何も黙って殴られてやる事ないでしょ?それとも何?そういう趣味があるの?」
「き、鬼龍さん。いや、そんな訳――」
少し笑みを浮かべながら問い掛ける叶に対して、幸太が戸惑いながら頭を振るが、同時に唯が不快な表情を浮かべて叶を睨む。
「ちょっと何なのよ!痛い、離して――」
「何?自分は暴力振るうくせに自分が振るわれたら喚き散らすんだ?凄い思考回路ね。ただ――」
そこまで話すと叶の目つきは鋭さを増し、唯の腕を掴むその手に更に力を込めた。
「幸太君は優しいから黙って殴られてくれるかもしれないけど私はどうかな?目の前で私の大切な人を傷付けられて、黙ってられる自信は無いから」
既に叶の表情からはいつもの様な不敵な笑みは消え、鋭い視線で唯を見下していた。腕を捻られ、苦悶の表情を浮かべる唯は、怒気を含んだ叶の言葉に完全に気圧されていた。
「ただ、今日だけは彼の顔を立てて見逃してあげる。早く消えて唯ちゃん」
「ひっ……」
最後は優しい笑みで語り掛ける叶だったが、唯は怯える様にしてその場を去って行った。
そんな唯を冷たい視線で見送って、叶は笑顔で幸太の方を振り返る。
「さぁ、席に戻ろっか」
「う、うん」
叶が笑顔で幸太の腕を取るが、何故か幸太も叶の圧に少し飲まれていた。
用を足し、喫煙所で電子煙草を咥えながら幸太はこの後の事を考えていた。そんな時、幸太の前に一人の女性が歩み寄る。
「何一人でニヤついてんの?そんなに楽しいんだ?あの人といるのが」
少し鼻にかかった聞き覚えのあるその声に、幸太は渋い表情で顔を上げる。
「唯か、なんだよ?何か用か?」
楽しかった気分に水を差され幸太が明らかに迷惑そうな顔をすると、唯も険しい表情を見せる。
「随分な言い方ね。浮き足立ってるあんたに忠告しといてやろうと思ってさ。あの人この辺の人じゃないでしょ?ただ単にぷらっと一人旅にでも来て、一夏の恋ってやつを楽しみに来てるだけよ。飽きたらあんたは捨てられる。向こうはただの遊びよ。あんただけが本気になってて、周りから見たら滑稽でしかないわよ」
「お前、俺の事は兎も角、鬼龍さんの事けなすんじゃねぇよ!」
流石に叶の事を軽んじる様な物言いに、幸太が不快感をあらわにするが唯は更に挑発する様な笑みを浮かべた。
「鬼龍さん?まだ苗字でしか呼んでないんだ?あはは、ごめんごめん。あんたじゃ遊び相手にすらなってないんだろうね」
幸太は拳を握り締めながら歯ぎしりする。しかし一旦目を閉じ大きく息を吐くと、ゆっくりと心を落ち着かせた。
「……ふぅ。まぁ確かにあれだけ綺麗な人だから遊び相手にもなってないかもしれないな。だけど鬼龍さんはしっかりと俺の事を見てくれる。それに唯言ってたよな?無駄な時間過ごしたくないって。俺もそうだ、鬼龍さんとの時間を大切にしたい。もう俺に構わないでくれないか?今こうしてる時間がお前にも俺にも無駄な時間だろ?」
「人がわざわざ忠告してあげてるのに構うなとは何よ?」
「ああそうなのか?大きなお世話だろ?いちいち絡んで来てる様にしか思えないんだよ。だったら無駄な時間過ごしてないで早く何処へでも行ったらいいじゃないか」
この様な言い方をすれば唯の性格上、激情に駆られる事は目に見えていたが、あえて幸太はこき下ろす様に言った。案の定唯は目を釣り上げ歯噛みしながら凄まじい形相をして幸太を睨んでいた。唯はそのままにじり寄ると、腕を振り上げ思いっきり振り抜く。
幸太はその瞬間、歯を食いしばり咄嗟に目を瞑った。
次の瞬間、激しい痛みが頬に走り衝撃で幸太の顔面は右に弾け飛ぶ……筈だった。
だが少し経っても何も起こらず、不思議に思った幸太が目を開けると、唯が振り抜こうとした右腕を叶がしっかりと掴み、幸太の左頬の寸前で唯の右腕を止めていた。
「君、どれだけ人が良いの?何も黙って殴られてやる事ないでしょ?それとも何?そういう趣味があるの?」
「き、鬼龍さん。いや、そんな訳――」
少し笑みを浮かべながら問い掛ける叶に対して、幸太が戸惑いながら頭を振るが、同時に唯が不快な表情を浮かべて叶を睨む。
「ちょっと何なのよ!痛い、離して――」
「何?自分は暴力振るうくせに自分が振るわれたら喚き散らすんだ?凄い思考回路ね。ただ――」
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