夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

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二人の行方③

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 まだまだ暑さが残る浜辺を幸太と叶が楽しそうに並んで歩いて行く。

「叶さん、何食べたい?というか好きな食べ物ってどういうの?」

「う~ん、結構何でも食べるんだけど、何食べたいかな?洋食とかもいいし、和食とかも食べたい気がするしなぁ。まぁ美味しければ何でもいいよ。この辺は君の方が詳しいでしょ?」

 そう言われ幸太は頭を悩ませる。
 初めて二人っきりで行く飲食店。これは絶対に失敗したくなかった。洋食といえばテレビで紹介された所が近くにある。和食も行列が絶えない名店がある。だが両方それなりの出費を覚悟しなければならない。勿論払えない訳ではないが、先日病院でも出費したばかりで今の幸太の手持ちでは心許なかった。

 少し悩みながら二人でひとまず浜辺から街に向かって歩いていると、幸太の腕を掴む叶の手に急に力が入る。
「痛っ」一瞬顔を歪めた幸太だったが、すぐに笑顔で叶を覗き込んだ。

「どうした?何かあった?」

「あ、ううん、ごめん痛かった?」

「いや、大丈夫だけど……あっ」

 叶の表情を見て、幸太も途中で気が付いた。今通ってる場所は半年前、幼い女の子と母親が暴走した車に轢かれて亡くなった場所だった。二人とも即死で、ノーブレーキで突っ込まれた二人の状態は目を背けたくなる程悲惨な状態だったそうだ。

「ひょっとして何か見えた?」

「はは……うん。小さい女の子とお母さんかな?ちょっと私じゃ手に負えないかな」

 そう言って俯く叶を見て、足早にその場を去った。

 私には霊が見える――。

 そう告げられて分かったつもりになっていたが今それを目の当たりにするとやはり戸惑ってしまった。その場所で悲劇的な事故があった事なんか、地元の人間しか知り得ない事だ。それを叶は被害者の容姿まで言い当てた。あらためて叶の力は本物だと思い知らされる。

「ごめん、俺がもう少し気を付けてたら良かったんだけど」

「いいっていいって、私は慣れてるから。ただ油断してる所にいきなり現れてびっくりしちゃっただけだから。さぁ早く食べに行こ」

 幸太を引っ張る様に叶が先に歩き出す。そのまま歩いていた二人だったが、突然叶が足を止めた。

「あの行列何?」

 そう言って叶が指をさす方向には確かに十人程の行列が出来ていた。

「ああ、あそこはラーメン屋。結構美味しくていつも行列が出来てるんだ」

「へぇそうなんだ。美味しいの?」

「有名なのは醤油とんこつ。つけ麺も美味しいけど俺は醤油とんこつラーメンが好きかな」

「よし、そこにしよっか。私お腹減って限界だし」

 叶の提案に思わず幸太も驚いた。ラーメン屋には失礼だが、初めて二人で行くならもう少し雰囲気の良い所で、と思っていたのに叶は特に気にする様子はなかったのだ。

「本当にラーメンでいいの?」

 幸太が気になりもう一度確認するが「美味しいんでしょ?だったらここでいいじゃん。私結構ラーメン好きだし」そう言って意に介していなかった。

 結局二人でラーメン屋の行列に並び、二人並んで醤油とんこつラーメンに舌鼓を打った。

「ご馳走様。うん、本当に美味しかった」

 手を合わせて満足そうに微笑む叶を見て、思わず幸太も笑みがこぼれる。

「叶さんもラーメン食べて美味しいってなるんですね」

「……何言ってんの?そりゃ美味しい物食べれば美味しいってなるでしょ。私ってどんなイメージなのよ?」

「いや、その、叶さんがラーメンとか食べるイメージなくて、なんかお寿司とか目の前でシェフが焼いてくれるステーキの鉄板焼きとかを笑顔で食べてるんじゃないかとか思って……」

「へぇ……じゃあそのイメージ通りに幸太君の奢りで高級お寿司屋さんとかに連れて行ってもらおうかな」

 頬杖をつきながら叶が少し見下した様に笑うと幸太は慌てて謝った。

「あの、ごめんなさい無理です。変な事言ってすいません」

「ふぅ、それと君、女の子はトイレに行かないとか変な幻想抱いたりしてないよね?私だって普通に生きてるんだからね」

 少し呆れながら叶が窘めると、幸太は苦笑いを浮かべて頭を下げていた。
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