夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

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二人の行方⑤

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 雑貨屋を出た二人は再び店を巡る。と言っても叶に先程の雑貨屋の様に何か目当ての物がある様には見えず、店に入ってはぷらぷらと見て周り、すぐに店を出るという様な事を繰り返していた。

「特にこれといった物は無い感じ?」

「まぁそういうより衝動的に買うのもなぁって思ってさ。この後どうするの?」

 叶が笑顔で尋ねる。実はこの日、二十時から花火が上がる事になっていた。幸太はなんとしてもその花火を叶と一緒に見たいと願っていたのだが時刻はまだ十七時。花火まではまだ少し時間がある為、幸太は頭を悩ませる。

『どうしよう。やっぱり偶然を装わずに叶さんに花火の事言うべきかな?だとしてもあと三時間どうする?』

 妙案が浮かばないまま時間だけが過ぎる。
つまらない男――。
 唯に言われた事が頭をよぎり、更に幸太は焦燥感に駆られた。

「えっと、あの……どうしようか?」

 少し困った様に幸太が問い掛けると、叶は小さくため息をついた。

「なんで君はテンパってんの?私何か困らせてる?」

 眉尻を下げ、少し呆れたように尋ねる叶を前に、幸太は自らの不甲斐なさに頭を抱えた。

 つまらない男と思われないようにしっかりしよう。楽しかったと思ってもらえるようにちゃんとエスコートしよう。
 そう思っていたのに結局空回りしてしまう。

「その、ごめん。ちゃんとしたいのに叶さんを楽しませてあげれてないね」

 そう言って苦笑して俯く幸太に叶が近付き首を傾げる。

「ねぇ私って我儘お嬢様?それともお姫様だっけ?ちゃんと私を手厚くもてなしなさい、とか言った?」

「あ、いや別にそんな事は――」

「だよね?私を大事に扱ってくれるのは嬉しいけど、そんな風に肩肘張らないでいてくれないかな?私は普通にしてほしいんだけど。それで?本当は幸太君はどうしたいの?」

 俯く幸太の顔を覗き込むようにして満面の笑みを浮かべる。叶はずっと普通に接していた。さっきもそうだったのに普通に出来ず、自分の言動が距離を感じさせてしまった。
 ここまでの自分を反省して、幸太はゆっくり顔を上げる。

「えっと、実は二十時から花火が上がるみたいで叶さんと一緒に見たいなぁって。それまでがちょっと時間空いちゃうんだけど」

 それでも尚、申し訳なさげに眉尻を下げた幸太だったが叶は笑顔で何度も頷く。

「なるほど花火か。いいね、夏って感じで。それまで確かにちょっと時間空くね。そうだな……幸太君はお酒強いのかな?」

 顎に手を当て少し考えた後、叶が問い掛けてきた。突然の質問に真意が分からない幸太だったがひとまず素直に答える。

「いや、そんなに強いわけじゃないかな。まぁ相手に合わせて嗜む程度かな」

「そっか、ならちょっと飲みに行く?お腹はいっぱいだけどビールで爽快に乾杯しない?」

 叶からの思いがけない提案に幸太は笑顔で頷いた。
 先日咲良と弘人と三人で駅前の焼き鳥屋に行った事を伝えると「ならば今日は」と言って幸太は近くの居酒屋を提案した。勿論叶は頷き二人は居酒屋へと移動する。

「へぇここが君のおすすめのお店か。注文は任せるね。お腹は満足してるから適当につまませてもらうから」

 席に着き店内を軽く見渡した後、叶が肘を着きながら微笑む。二人が来た居酒屋は落ち着き過ぎず、ほどよい騒がしさがあり、メニューは居酒屋定番メニューから家庭料理まで多岐にわたる。そんな中から幸太が今の満腹具合を考慮しつつ注文していく。ジョッキに注がれたビールが到着すると二人は手に取りジョッキを合わせた。

「乾杯!」

 共にジョッキを傾けると一気に半分ほど飲み干した。

「なかなかいい飲みっぷりですね」

 幸太が笑顔でそう言うと叶はニヤリと笑って見せた。

「そろそろ猫かぶるのももういいかなってね。今日は結構バイト頑張ったからビールが美味しい」

 そう言って屈託の無い笑顔を浮かべる叶を見て、幸太は無性に嬉しくなった。
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