夏の日の出会いと別れ~霊よりも怖いもの、それは人~

赤羽こうじ

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二人の行方⑦

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「まぁ脅かすつもりはないんだけどさ、今分かってるのは黒いもやみたいな物が人にまとわりついたりしてるって事ぐらい。ただ約束してほしい事があって、仕事上毎日海の近くにいる訳じゃん。だから私が海に近付かないでって言ったら絶対に近付かないでほしいの。それだけは約束してくれない?」

 そう言って叶は笑みを浮かべながら右手の小指を立てて幸太の前に差し出した。

「勿論。その時は叶さんの指示に従うよ」

 そう言って差し出された叶の小指に自身の小指を絡め、約束の契りを交わす。
 その後再び二人でお酒を酌み交わしていると、暫くして叶が腕時計に視線を落とした。

「ねぇ、そろそろ二十時だよ。お店出よっか」

 叶の言葉に幸太も頷き、二人は急いで店を後にした。横を歩く叶に「少し急いでもいいかな?」と問い掛けて幸太が手を差し出すと、叶は笑みを浮かべてその手を取った。少しだけ早足で街行く人々の間を抜け、いつの間にか二人は街の喧騒から離れ静かな河川敷に来ていた。

「良かった、間に合った」

 幸太が小さく呟き、腰を下ろすと叶はにこやかな笑みを浮かべて並んで腰を下ろす。

「わざわざこんな所に来なくても街中の何処かでも見れたんじゃないの?」

 笑みを浮かべながら少し意地悪な質問をすると、幸太は照れ笑いを浮かべて片手で頭を掻く。

「いや、まぁそうなんだけど、出来れば静かな場所で叶さんと二人で見たくて」

「まぁ確かにこうして見る方が雰囲気は出るよね」

 叶がそう言うのとほぼ同時に花火が上がり始める。絶妙なタイミングで上がり始めた花火は夜空に大輪の花を咲かせては消えていく。夏の夜空を彩る花火を見つめて叶は想いを巡らせていた。

『あらためてこうして見ると綺麗だな。いつぶりかな、こんなに落ち着いて花火を見るのって。上がっては一瞬で消えていく花火。君はどういう想いで見てるのかな?』

 横に座る幸太を見つめていると、その視線に幸太も気付いた。

「えっ?何か?」

「ふふ、知らない街に来て、そこで知り合った君とこうして花火を見上げてるのも不思議だなってね」

 そう言って叶は変わらない笑みを浮かべていた。
 幸太は少し首を傾げたが、すぐに叶が夜空を見上げると、そんな叶の横顔を幸太は見つめた。

 出来る事なら、ずっとこんな時が続きますように――。

 そんな事を思いながら幸太も再び夜空を見上げる。夜空を彩る様に花火が上がり続け、地面には二人寄り添う様に座る影が写しだされていた。

 やがて終わりを告げる花火が、一際大きな花を夜空に咲かせた。叶は立ち上がり、座ったままの幸太に手を差し出す。

「さぁ行こうか、明日もバイトだし」

「えっ、ああ、そうだね」

 少し名残惜しかったが笑顔を作り、差し出された叶の手を取ると、幸太も勢いよく立ち上がった。

 人気のない河川敷を二人並んで歩いていると、叶が不意に話し掛ける。

「ねぇ、昨日の話、あまり勿体ぶるのも悪いかなとは思ってるんだけどさ……」

 そう言って覗き込んでくる叶の顔を見て幸太の胸が高鳴る。

 このタイミングでその話をするって事は……どっちだ?どっちなんだ?――。

 幸太が顔を引きつらせていると、叶は少し意地悪そうな笑みを見せる。

「昨日も言ったけど幸太君の気持ちは嬉しかったよ。ただ私が恋愛経験乏しいから上手く言われて乗せられてるだけって事もあるよね?」

「えっ?いや、そんな訳――」

 幸太が慌てて否定しようとしたが、叶がすぐに遮る。

「そんな訳ない?私もそう信じてるよ。ただね今日、喫煙所で君は楽しそうに女の子達と話してたよね?楽しそうにデレデレしながら女の子達と話しをしている君を見て、あれ?私騙されてないよね?って不安になってさ」

 そう言って叶は薄目で幸太を見つめながらニヤリと片方の口角を上げていた。
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