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赤い服の女⑪ 終わらない悪夢

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そして俺は走っていた。
 
いや正確には駆け上がっていた。
 
そう螺旋階段を駆け上がり赤い服の女から逃げていた。
 
『ハァ、ハァ、くそ、ダメだ追い付かれる!』
あの女がすぐ背後まで迫って来ているのが気配でわかる。
 
「下に!下に飛んで!」
誰かが叫ぶ。
 
「下!?何処に!?」
言ってる事を理解する前に振り返ると女の顔が真横に迫っていた。
 
「うぉぉぉ!」
俺は勢いに任せて手すりを乗り越え飛び降りる。
 
そしてすぐ下の手すりに捕まり、手すりを乗り越えもう1度螺旋階段に戻る。
まさにスタントマンもびっくりするようなアクロバティックな動きだ。
 
しかしこれであの女を振り切れた。
 
そう思い一気に螺旋階段を駆け下りる。
 
だがやはり振り切れなかった。
 
あの女は螺旋階段の外を頭から逆さまに落下しながら俺を見てくる。
 
俺が必死に階段を駆け下りる速度と一緒に逆さまに落下しながらずっと横で見てくる。
 
怒るでもなく、無表情のまま、目を見開きずっと。
 
気が付くと俺は螺旋階段から伸びる通路を走っていた。
 
そしてそのまま突き当たりの扉を開けると。薄暗いフロアに出た。
 
「これはダメだ。追い込まれてる」
そう思ってもあの女が迫ってるのはわかっていて、もう戻る事も出来ない。
  
途中、何処かで見たようなお爺さんに出会い
「もうダメだ」
と言われた。
 
それでも俺は走り回って逃げたがすぐそこに女の影が迫っていた。
 
「もうダメだ。ここに入ろう」
そう思いそこにあった扉を開けて入るとそこはトイレだった。
 
「やっちまった。」
そう思い戻ろうとしたが扉の向こうに女の影が、
 
咄嗟とっさに何個目かの個室に入り身を潜める。

映画なんかでは絶対にやってはいけないパターンなのはわかっていたがもうどうしようもなかった。
 
バタン!!
何処かの個室の扉が開かれる。
 
バタン!!
個室の扉を開ける音は近ずいてくる。
 
・・・息を潜め目を閉じて必死に祈る。
 
・・・・・・この暗闇の中の静寂がいつまでも続くんじゃないかと、この僅か数秒が何時間にも感じられる様なプレッシャーの中、
 
『・・・扉を開ける音が止んだ』
不審に思いながらもゆっくり目を開ける。
 
耳を澄ませ周りの状況を確認しようとする。
 
『嫌な予感はする。どうする?一か八か勢い良く扉を開けて個室から脱出するか?』
 
そう思いながらふっ、と天井を見上げた。
 
個室の上からあの女が俺をジッと見ていた。
 
「うわぁぁぁ」
叫びながら個室から飛び出るがトイレの扉は開かずトイレからは出られない。
 
その場にヘタリ込みどうする事も出来ないでいると
 
「間に合った!大丈夫?」
勢い良く扉を開けて誰かが入ってきた。
 
それはさっき螺旋階段で『下に!下に飛んで!』と叫んでいた声と一緒だった。
 
今度はしっかり顔が見える
 
それは美優ちゃんだった。
 
美優ちゃんは赤い服の女に何か勇ましく叫んでいるが何故かはっきり聞こえない。
 
そしてその女は片手でさっきいたお爺さんを捕まえたまま何処に消えた。
 
 
ハッ!
ここで目が覚めた。
時間を確認したら夜中の3時前だった。
「ふぅ、今日は4時じゃないんだな」
そう呟き、ベットから起き上がると
 
『ガタガタッ』
 
割れた窓に応急処置ではめたベニア板が揺れる。
 
あまりのタイミングの良さに『ビクッ』となり
 
「なんかの嫌がらせか?」
そう言いながらもう一度ベットで横になる。
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