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デート当日③

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-美優-
なんか1人で勘ぐって、1人で空回りして、それでも優しく肩を抱いてくれようとしたら『痛っ』と叫んで健太君に気を使わせて、私は今、凄く沈んでいる。
 
「ごめん。痛かった?」
 
健太君はものすごく申し訳なさそうに謝ってくる。
 
「あっ違う。全然大丈夫だから・・・」
 
『だから・・・』何?
本当はその後に『もう一度肩に手を回して』と言いたいがそんな事を言える訳もなく、
愛想良く微笑むしか私には出来なかった。

せっかくいい感じになりかけたのに、ギクシャクしてしまった。
これも全部あの女の霊のせいだ。
 
あの女の霊は公園で私の肩に手形を残して消えたが一体何がしたいの?
まぁとりあえず消えてくれたのは有り難いけれど。
だいたいあの佐和子って奴も・・・・・・
うんん。・・・佐和子ちゃんて子も健太君の周りでチョロチョロするし、
健太君の周り、変な女、集まり過ぎじゃない?
 
・・・・・・えっ、私もその中の1人とかじゃないよね?
 
「美優ちゃん」
 
『ハッ』
気が付くと健太君が呼びかけてくれてた。
 
「何か考え事?それともここ最近、毎日お出かけで疲れがだいぶキてる?」
健太君が優しく問いかけてくれる。
今度は私が何処かに行ってしまってたようだ。
 
「違う違う。全然大丈夫。寧ろこれからが勝負」
 そう言って笑顔で返すが、
えっ?何の勝負よ?私は何言ってんの?
健太君になんか変な誤解与えてない?
 
「はは、そっか。ならよかった」
健太君は特に気にもとめてないのか、それともあえて聞き流してるのか、ただ笑ってた。
 
『まだるっこしいなぁ』
私が第三者ならそう思ってたかもしれない。
 
いや今までの私ならそう思っていただろう。
それぐらい今までの私は恋愛にもクールだったんだと思う。
今の私は良くも悪くも恋愛してるんだなと思う。

「ねぇねぇそろそろいい感じに日が落ちてきたんじゃない」
 そう言って展望台から街の方を見下ろす。
 
すると真っ赤に彩られた街が広がり、川に反射した夕日から無数のきらめきが生まれ幻想的な世界を作り出す。
 
「うわぁぁ。凄い」
それ以上の言葉が出なかった。今まで思っていた『夕焼け』という概念が覆るほどに綺麗な夕焼けが広がっていた。
 
「前に来た時も凄かったけど今日はそれ以上に凄いな」
そう言って健太君が横にきた。
 
2人並んで夕焼けに染まる街を見下ろしながら自然と腕を組む。
ここまでの不安を消し飛ばすぐらい今最高に幸せな気分になる。
 
「美優ちゃん」
不意に健太君が呼びかけてくる。
 
「はい!」
不意だったのと何か緊張して思わず素直な返事をしてしまった。
 
「写真撮ろうか」
 
「あっ、うん。撮ろう」
写真の方ね。なんか変な期待しちゃった。
 
そんな事を思いながら2人で夕焼けに染まる街をバックに写真を撮る。
スマホで自撮りする時、2人の距離はグッと近くなる。
そして写真を撮る度、鼓動は高鳴り、幻想的な風景も相まって私は大胆になっていた。腕を組み、次は腰に手を回し、次は健太君の肩に寄りかかり、そして・・・・・・
 
「健太君」
自撮り棒を足元に置き不意に健太君に呼びかける。
 
「ん?」
こっちを向く健太君の首に両手を回し少しつま先立ちになり唇を重ねる。

一瞬健太君の動きが止まったがすぐに私の背中と腰に手を回し支えてくれる。
 
どれほどの時間そうしていたかわからないがその後健太君の腰に手を回し抱きつき、健太君は私の頭を抱えるように抱きしめてくれる。
 
もし今ここが何処かの部屋でそのまま押し倒されれば私は喜んで受け入れるだろう。
そんな事を考えてるとふっと昨日の朱美の言葉を思い出す。
『たまには全部すっ飛ばしてもいいじゃん』

「ふふふ、本当だね」

思わず口に出してしまった。
 
「えっ何が?」
健太君がささやくように聞いてくる。
 
「あっ何でもない。こっちの話し」
笑って誤魔化すが
 
「えっ、こっちの話しって誰と話してた?」
健太君が少し困惑気味に聞いてくる。
 
「あはは。本当に何でもないから」
もう笑うしかなかった。
昨日朱美に言われた事を『なるほど本当だね』と受け入れてるなんて言えるわけない。
 
「そっか。・・・美優ちゃん。どうしても気になる事があるんだけど」
健太君が割と真剣なテンションで言ってきた。
 
「何かな?なんでも聞いて」
 
「その肩の手形、本当にどうしたの?DVとかじゃないよね?」
 
ここで手形の話が来たか。なんて言おう?

「えっコレ?いや本当に気付いてなくて、それよりDVって誰に?」
 
「いや、その・・・他の誰かとか・・・」
 
健太君は歯切れが悪かった。
 
「他の誰かって?他の男の人とかって事?」

「いやまぁ、うん」
 
「そんな人いる訳ないでしょ!ここ最近の私と健太君の関係じゃまだ信用がない?」
 
「いやそういう訳じゃないんだ。・・・情けない。悪いのは俺の方だ」
そう言って健太君は悲しそうな顔をする。
 
「ねぇ健太君。もっと自信持ってよ。私は貴方の事が大好きだし、絶対裏切ったりしないよ」
そう言って健太君を頭から抱きしめる。
 
「うん。そっか」
そう言って健太君が少し甘えるように抱きしめてくる。
 
そして暫くして私は我に帰る
『えっ私今、自分から大好きだって言っちゃった。しかも健太君の顔、自分の胸に抱きかかえてるし』
 
どんどん恥ずかしくなり顔が高揚してくるのがわかる。
顔から火がでそうとは、正に今の私の事だろう。
 
「よし!」
健太君が突然そう言って今度は私を頭から抱きしめる。
 
「ここまで美優ちゃんに言わせといてなんだけど、俺も美優ちゃんの事が好きです。付き合って下さい」
健太君から突然告白された。まぁもしこれで告白されなかったら私から告白してたとは思う。
 
「はい。喜んで。大事にしてね」
そう言ってもう一度軽くキスをする。

そして何か気配を感じ薄らと目を開けると
あの女の霊と目が合った。
 
「んぐ!?」
 
不意をつかれ思わず健太君の唇を噛んでしまった。
 
「ご、ごめん。痛かった?いや痛いよね」
 
「あはは、だ、大丈夫。とりあえず美優ちゃんがSだってわかった」
そう言って健太君は笑っているが唇からは血が流れ出ている。
 
「ち、違うの。そういうんじゃなくて、あの・・・バ、バランス崩して」
なんとか誤魔化そうと必死だ。
 
だいたいあの女(霊)が悪いのよ。
なんでいきなり出てきて人のキスシーン間近で見てるのよ。
 
今は女の霊に対して恐怖より怒りが勝っていた。
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