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新たな事件

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-健太-
美優ちゃんを家まで送り届け、少し寄り道したが無事自宅前に着く。
 
『ふう、やっと帰って来た』
そう思いながら横の焼け残った幽霊ビルを見ると少し今朝見たのと違って見える。
 
『ん?なんだ?・・・規制線!』
 
そう新たに規制線が張られていたのだ。
 
『火事の現場検証はとっくに終わったはずなのに』
 
不思議に思いながら自宅に入る。
 
「ただいま」
 
「お帰り。ちょっと健太知ってた?」
母親が血相を変えて飛んで来た。
 
「隣の焼け跡で前に住んでたお爺さん死んでたらしいで」
 
「えっ!?」
あまりの予想外の事で固まってしまう。
 
「えっどういう事?あの火事でお爺さん死んでたん?」
 
「違う、違う。なんでかはわからへんけど焼け跡の所にお爺さんが来て亡くなってたらしいわ。丁度あんたの部屋から1番近い部屋で亡くなって2、3日経ってたみたいやけど何も音とかしてなかった?」
 
「えっ?そんなん何も聞いてないで」
 
動揺しながら階段を上がり自分の部屋に入る。
 
『えっ、2、3日前?夢に出てきてたのとタイミングがドンピシャなんやけど・・・』
冷静になって考えるがどんどん怖くなる。
 
『この向こう側で・・・』
割れた窓枠にはめられたベニア板に手をあてながら考える。
 
『なんなんだ一体!?ここ最近の色んな事は・・・』
 
さっきから鳥肌が止まらない。気が付くと自然と呼吸も荒くなっていた。
 
『はぁ、はぁ。どうしたらいい?さっきまで美優ちゃんとあんなに楽しかったのに』
 
『そうだ。美優ちゃん。美優ちゃんに連絡しないと』
そう思いLINEではなく電話をかけた。
 
  「はい、もしもし」
元気良く美優ちゃんは電話に出てくれた。
 
「あっごめんね。いきなり電話して。ちょっと喋りたくて」
さっきまで一緒にいて喋っていたのに俺は一体何を言ってるんだろう。
上手く言葉を取り繕う余裕すら無くなっていた。
 
「どうしたの?へへ、さては私の声聞きたくなりましたか?」
美優ちゃんは明るく笑いながら冗談っぽく言ってくる。
 
「はは、そうかもしれない」
まだ上手くスマートに冗談で返せない。
 
「えっ、ちょっと、普通に肯定されると凄く恥ずかしいんだけど」
美優ちゃんが困った様に笑っている。
 
「ははは、ごめん、ごめん。ちょっとなんて言うか、えっと、難しいな・・・」
上手く言葉に出来ない。
こうして少し会話しているだけでも落ち着けるんだが自分の現状をどこまで、どう話したらいいのかわからない。
見切り発車で電話してしまったのだ。
 
「どうしたの?何かあったら話して」
美優ちゃんは優しく問いかけてくる。
そのひと言で少し落ち着き頭で整理する。
 
「え~と、俺の家の隣が軽く幽霊ビルみたいになってて最近火事になったって言ったっけ?」
 
「えっとね、火事になったのは知ってるけど幽霊ビルとか詳しくは聞いてないかな」
 
「あっそっか。実はね・・・」
俺はそれから隣のビルでボヤがあり、無人になり、幽霊ビルと呼ばれる様になった経緯を説明した。
そしてそこに昔住んでた人がつい最近そこで亡くなっていた事も。
 
「えっ、嘘。そんな事が・・・」
予想以上に美優ちゃんは絶句している。
 
「そうなんだ。しかもその亡くなったお爺さんが何の前触れもなく夢に出てきたりして気味悪くてさぁ」
女の霊の事も話すと長くなりそうだったからそこははぶいてお爺さんが夢に出てきた部分だけを話した。
 
「・・・・・・」
 美優ちゃんは沈黙している。
寧ろちゃんと繋がっているか心配になり呼びかける。
 
「あれ?美優ちゃん?」
 
「あっごめん。・・・健太君。お願い。疲れてるとは思うし、面倒くさいかもしれないけど、今からもう一度だけ会えない?」
さっきまでの明るく優しい口調の美優ちゃんとは打って変わり静かに落ち着いた口調になっていた。
 
「えっ、うん。了解。家まで行ったらいい?」
 その落ち着いた美優ちゃんに少し気圧されている。
 
「えっと家のちょっと手前に公園があったと思うんだけどそこに来てほしいな」
 
「OK。ちょっと待ってて。すぐ行くから」
 
「あっ、急がなくてもいいから。安全運転でお願い」
美優ちゃんが優しい口調に戻る。
 
「はい。了解」 
そう言って俺は再び美優ちゃんの元へ向かった。
 
-美優-
  どうしよう。もう結構やばい事になってるのかもしれない。
もう、少しぐらい頭のおかしな女と思われようとも健太君にちゃんと話した方がいいかもしれない。
 
そんな事を考えながら家を出ようとしていると
 
「あれ?美優、また出かけるの?」
お母さんに呼び止められた。
 
「あっうん。ちょっとね。朱美に用事あってさ」
 
「そう。今日ね、おばあちゃんから電話あったよ『美優ちゃんは元気か?』って」

「あっそうなんだ。なんて言ったの?」

「元気よって。今日も楽しそうに出掛けて行ったしって言っといたよ」

「いやまぁ、その最近出掛け過ぎかなぁとは思うんだけど色々あってさぁ」
まずいなぁ。さすがに私の親は緩いとは言え調子乗りすぎたかな?

「ねぇ美優。ひょっとしてあんたするの?」

「いやまぁ、たまにね」
お母さんからそんな事聞かれるのは予想外だ。

「あんたが最近楽しそうにしてるなって思ってたら急におばあちゃんの所に行くとか言い出すしなんかそういう悩みでもあるのかな?って思ってさ」

「まぁその帰ったらまたちゃんと話すから」
お母さんの鋭さにちょっと気圧されながらも今は健太君との待ち合わせに急ぎたい。

「ふ~ん。まぁ夏休みだしいいんだけど大きな怪我とかは気を付けてね」
 
「うん。大丈夫だから。じゃ、ちょっと行ってくるね」
そう言って家を出る
 
『朱美、名前勝手に使ってごめんね』
朱美に心で謝りながら公園で健太君を待つ。
 
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