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N.G397年 ラフィン戦争⑬

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「わからんかね? サリアの街は武器の類いの持ち込みは禁じられている。すなわちザクスは今丸腰という事だ。違うかね?」

 モドリアットは机に肘を着きながら歪んだ狡猾な笑みを浮かべていた。

「確かにザクス・グルーバーは今丸腰でしょう。何をお考えですか司令?」

 モドリアットの表情をみて良からぬ事を企てていると感じたクリスが怪訝な表情を見せる。

「くっくっく、今ならザクスを殺れるだろう? 奴の宿泊しているホテルを爆破し、仮に脱出して来てもそこを襲撃すればいくらザクスといえども丸腰ではどうする事も出来まい」

「爆破なんて!? 他にも宿泊者はいるんですよ! それでは完全にテロ行為です。明らかな条約違反ですよ?」

 モドリアットの一般人の犠牲者もいとわないその蛮行にクリスは激しい怒りさえ覚えた。

「ラングレーで君達が阻止したがダム爆破とかいう前代未聞の虐殺をしようとしていたのは奴らラフィンの方が先ではないか。それにこれは戦争だ。犠牲者は付きものだろうに」

「……作戦はどうするんですか? サリアに武器は持ち込めません。武器携帯のうえ、部隊を率いて行けばその時点で入れてもらえないか警報を鳴らされます。ザクスも気付くと思いますが?」

「既に工作員は潜入させてある。武器弾薬は、この前ラフィンの捕虜を捕まえただろ? あいつらの体内に武器弾薬を詰めて『怪我人だ』とか言って持ち込めばいい」

 とんでもない発案をしてくるモドリアットに対してクリスは更に眉根を寄せて嫌悪感を露わにする。

「司令、人道的にもかなり問題があると思いますが? 捕虜の彼らはその後どうされるのです?」

「この作戦の重要なポイントは捕虜共がぎりぎり生きた状態でサリアの検疫を突破する事だ。死んでいては入れてもらえない可能性があるからな。故に捕虜共はサリアの街に入った後はどうなろうと構わんだろう。どうせぎりぎり死なない程度に内蔵を取り出し武器等を詰めるんだ。どうせ長くはもたんさ」

「……その作戦、本気で言っておられるのですか?」

 クリスは震える程の怒りを抑えながら静かに問い掛ける。

「ああ、勿論だとも。中尉、君はその死にかけの捕虜共を連れて街に入り、先行して潜入している工作員達に渡す事だ。君が帰って来なければ君が子飼いにしているリオ軍曹にでもこの任務を任そうかと思ってたんだがね」

「我々がそんな非人道的な任務を簡単に受けると思いますか?」

「なんだ、受けないのか? 職務放棄かね? 中尉、君は孤児でありリオ軍曹は野盗崩れなのだろう? この重要な任務を断れば君達の立場は悪くなるんじゃないかね?」

『何処まで貴様は……』そんな言葉が喉のすぐそこまで出かかったが必死に堪える。
 数秒沈黙した後、クリスは大きく息を吐いた。

「司令、捕虜引渡し後、私の身柄はどうなりますか? 条約違反で拘束される気もしますが?」

「ふっ、心配するな。君は無事サリアを脱出出来るように裏から手を回してある」

 感情を殺し、冷静に問い掛けるクリスに対してモドリアットは酷く醜い笑みを見せる。

「……気持ちを整理するので一時間下さい。一時間後に作戦を開始します」

「一時間か。夜明け前だしまぁいいだろう」

「作戦に従事する者達に一時間後に作戦を開始する旨をお伝えしてほしいのですが」

「何故に?」

 クリスの謎めいた願いにモドリアットは眉をひそめた。

「一時間後には作戦を開始すると自分を追い込む為です」

「ふっ、なるほどな。まぁいいだろう。連絡しといてやるか」

 そう言ってモドリアットは徐に通信機を手にすると部下へ一時間後に作戦を開始する旨を伝えた。

「さぁこれで――」

 モドリアットが部下との通信を終えて振り向いた瞬間、クリスはモドリアットの眼前へ迫っていた。次の瞬間、クリスの硬く握られた拳がモドリアットの顎を捉える。
 不意打ちを喰らいまともに顎を打ち抜かれたモドリアットは膝から崩れ落ちた。

「き!貴様……」

「本当はこの場で殺してやりたいけど今はこれで我慢しとくわ」

 そう言ってクリスは倒れたモドリアットの襟を掴み頸動脈を絞めるとモドリアットは数秒の後に気を失った。
 そのまま部屋にあった衣服等でモドリアットを縛り上げると椅子に括り付けて拘束する。

 その後、部屋を出たクリスはそばにいた衛兵に声を掛けた。

「司令官は作戦に備えて仮眠を取られるそうだ。一時間は部屋に誰も近付けるなと仰られていた」

「了解。では一時間は誰も通さないようにしよう」

 クリスは衛兵にウィンクをして笑顔を見せた後、次は一階にある捕虜が捕らえられている部屋を目指して走り出す。

「ああちょっと作戦変更らしい。捕虜は私が預かる。こいつらは別の使い方をするらしいから」

「そうなのか? 変更は何も聞いてないが」

 捕虜を連れ出そうとしていた兵にクリスが話し掛けると兵は戸惑いを見せる。

「今回の作戦の鍵はこの捕虜達よ。聞いてるでしょ? とりあえず護送する車両に全員乗せて。後は私が引き継ぐから」

「一人で大丈夫なのか? まぁ気持ち悪い手術しなくて済むならありがたいけどな」

 兵士は少し安心したような顔をした。
 それもそうだろう。誰も好き好んで人間の内蔵を抜き、代わりに武器を詰め込むなどという人の道から外れた事などしたくはないのだから。
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