怖いお話。短編集

赤羽こうじ

文字の大きさ
5 / 87

初めての男 獲物③

しおりを挟む
「ねぇ、何してたのよ?」

 優里亜が少し拗ねながら問いかけてくる。

「特に何もしてないって。ゲーセン行ってたら着信に気がつかなかっただけだって」

「大体今日あんたから連絡するって言ってたんだよ、覚えてる?」

「え、まぁ何かと色々忙しかったんだよ」

「ふ~ん。無職の何処が忙しいんだか」

 優里亜の剣幕に少し圧されながらもなんとか誤魔化し続ける。
 杠を上手く俺色に染めるまでは何かと都合がいい優里亜をなんとか繋ぎ止めておきたかった。

 そして杠との約束の三日後はすぐにやってくる。

 夕方、普段来る事のない少し離れた郊外の駅で待っていると約束の時間10分前に杠はやって来た。

「すいませんお待たせしました」

 そう言って頭を下げる杠は先日通り薄いメイクを施し自然な美しさを醸し出している。

 しかし服装は相変わらず地味だ。
『次は服装を変えさせるか』と考えていると杠が少し不思議そうに見つめてきた。

「あの、化粧おかしいですか?」

 どうやら少し勘違いさせたようだ。そう思い満面の笑みを向ける。

「いやいや、逆だって。綺麗だよ」

「そうですか。なら良かった。では行きましょうか」

 そう言って歩き出した杠の表情は少し笑ってる様に見えた。
 初めて笑顔を見せたような気がするがやはり容姿を褒められたら嬉しいようだ。

 予定通り映画を見た後、近くのレストランでさっき観た映画の感想なんかを交えながら食事を済ませる。

「さぁ、これからどうしようか?」

 あえて明るく聞いてみた。

「え?もう遅いんで帰りますよ。こんな時間から何処に行くんですか?」

 杠は真顔で当たり前のように言ってきたがそう簡単に引き下がる訳にはいかない。

「いやいや、せっかく会えたんだからもうちょっと一緒にいようよ。俺はこの日を待ちわびてたんだから」

「待ちわびてたってあれから三日ですよ?ちょっと大袈裟じゃないですか?・・・ひょっとして私が恋愛経験乏しいからといって何かよからぬ事を考えてませんか?」

 杠は眉根を寄せて険しい表情を見せる。

 結構痛い所を突かれた

 出来れば今日一気に関係を進めたかったがなんとか食い下がってみるか。

「いや、そのなんて言うか、ほら今後の二人についてもう少し話し合うというか」

「……男女の関係を求めてるようにしか感じませんが……そういうのはもっと順序を追っていくものじゃないですか?」

 呆れたような物の言い方だが表情を見てると満更でもなさそうな気がした。

「確かにそうかもしれないけど俺は既に杠に夢中なんだ。だから駄目かな?」

「ふぅ……駄目ですね。まだそういう気にはなれないんで」

 そう言って杠は首を降った後、周りを確認すると路地の方に腕を引いて行く。

「今日はこれぐらいでいいでしょ?」
  
 杠はそう言って首に腕を回し目を閉じていた。
  
『消極的なのか積極的なのかよくわからないな』
  
 そう思いながら杠と唇を重ねる。

 少し舌を絡ませると杠は少し戸惑った様子だったが特に拒否してくる素振りもなかったので次は右手をそっと杠の胸の上に置いた。
  
 ――その時、舌に激痛が走った。
  
     杠が噛み付いてきたのだ。
  
「いでででで」
  
 杠は鋭い目付きで睨みながらまだ舌に噛み付いてくる。

 杠の肩を軽くポンポンと叩くとようやく離してくれた。
  
「私はそこまでしていいとは言ってませんよ。もし今日それ以上の事したいんなら私は今みたいに噛み付きますし、爪も立てますから」

 そう言いながら杠は冷たい目をして笑っていた。
  
「それとも聖也はそういうプレイが好きなの?それならもうちょっと付き合ってあげようか?」
  
 杠は少し舌なめずりしながら笑みを見せていた。
  
「い、いや今日はもう十分さ。さぁ送るよ」
  
 そう言って杠と二人駅へと歩いて行く。
  
  
 せっかく手に入れた獲物だ。まだ焦っちゃ駄目だ。ゆっくり行こう。
――でも実はちょっと良かったなぁ。
 口の中に微かに残る血の味と共に少し余韻に浸る。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

意味が分かると怖い話(解説付き)

彦彦炎
ホラー
一見普通のよくある話ですが、矛盾に気づけばゾッとするはずです 読みながら話に潜む違和感を探してみてください 最後に解説も載せていますので、是非読んでみてください 実話も混ざっております

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

上司、快楽に沈むまで

赤林檎
BL
完璧な男――それが、営業部課長・**榊(さかき)**の社内での評判だった。 冷静沈着、部下にも厳しい。私生活の噂すら立たないほどの隙のなさ。 だが、その“完璧”が崩れる日がくるとは、誰も想像していなかった。 入社三年目の篠原は、榊の直属の部下。 真面目だが強気で、どこか挑発的な笑みを浮かべる青年。 ある夜、取引先とのトラブル対応で二人だけが残ったオフィスで、 篠原は上司に向かって、いつもの穏やかな口調を崩した。「……そんな顔、部下には見せないんですね」 疲労で僅かに緩んだ榊の表情。 その弱さを見逃さず、篠原はデスク越しに距離を詰める。 「強がらなくていいですよ。俺の前では、もう」 指先が榊のネクタイを掴む。 引き寄せられた瞬間、榊の理性は音を立てて崩れた。 拒むことも、許すこともできないまま、 彼は“部下”の手によって、ひとつずつ乱されていく。 言葉で支配され、触れられるたびに、自分の知らなかった感情と快楽を知る。それは、上司としての誇りを壊すほどに甘く、逃れられないほどに深い。 だが、篠原の視線の奥に宿るのは、ただの欲望ではなかった。 そこには、ずっと榊だけを見つめ続けてきた、静かな執着がある。 「俺、前から思ってたんです。  あなたが誰かに“支配される”ところ、きっと綺麗だろうなって」 支配する側だったはずの男が、 支配されることで初めて“生きている”と感じてしまう――。 上司と部下、立場も理性も、すべてが絡み合うオフィスの夜。 秘密の扉を開けた榊は、もう戻れない。 快楽に溺れるその瞬間まで、彼を待つのは破滅か、それとも救いか。 ――これは、ひとりの上司が“愛”という名の支配に沈んでいく物語。

とある男の包〇治療体験記

moz34
エッセイ・ノンフィクション
手術の体験記

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

久々に幼なじみの家に遊びに行ったら、寝ている間に…

しゅうじつ
BL
俺の隣の家に住んでいる有沢は幼なじみだ。 高校に入ってからは、学校で話したり遊んだりするくらいの仲だったが、今日数人の友達と彼の家に遊びに行くことになった。 数年ぶりの幼なじみの家を懐かしんでいる中、いつの間にか友人たちは帰っており、幼なじみと2人きりに。 そこで俺は彼の部屋であるものを見つけてしまい、部屋に来た有沢に咄嗟に寝たフリをするが…

ちょっと大人な体験談はこちらです

神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない ちょっと大人な体験談です。 日常に突然訪れる刺激的な体験。 少し非日常を覗いてみませんか? あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ? ※本作品ではGemini PRO、Pixai.artで作成した生成AI画像ならびに  Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。 ※不定期更新です。 ※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。

処理中です...