怖いお話。短編集

赤羽こうじ

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初めての男 初めての……③

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「そう、それでいいの。いい?別れを切り出しちゃ駄目じゃない。優里亜ちゃん悲しむわ。あの子は私と違って貴方の事が大好きみたいだから。ただ貴方が少々女遊びしても目をつむるぐらいの器量は持ち合わせてるみたいね。おかげで私の存在には気付いてなさそう」

 杠は淡々と語り出した。
 どうやら優里亜の事まで調べ尽くしているようだった。

「いい聖也?女はね男次第でどうにでも成長出来ると思うの。だから経験のない私を上手く成長させてくれる男を求めていたの。私と初めて会った日の事覚えてる?あの日少し回りくどかったけど獲物を手に入れて私の気分は高まっていたわ。手に入れた獲物をどう料理するか次の約束の日までに考え抜いたの。貴方は私が考えた通りに動いてくれて本当に良い仕事してくれた。私が思い描いた以上に円滑に物事が進んだわ」

 そう言って杠が聖也の頭を撫でると、聖也の瞳は困惑の色で満ちていく。

「地元では自分の欲望を抑える為に恋愛からは遠ざかっていたの。だって男を知ってしまったら自分の欲望を抑えきれないかもしれないから。代わりに勉強したわ。痕跡の消し方や事後処理の方法を」

 杠は冷たい視線を聖也に向けながら冷淡な口調で語りかけていた。

 聖也は目を麗せ頭を振りながら必死に何かを訴えていた。

「駄目よ、大人しくして。私は今最高に気分がいいんだから。頭が悪い貴方でももうわかるでしょ?私は人を殺してみたかったの。それも貴方みたいに自信に満ち溢れた男を」

 そう言って杠は無造作に左手で聖也の髪を鷲掴みにしベットに押し付け、隠していたナイフを右手に持つ。

 聖也の瞳はみるみる恐怖に染まり唸り声を上げていた。

「駄目よ、そんな怯えた瞳で私を見ないで。興奮が抑えきれないじゃない」

 杠は気分の高揚を抑えきれず興奮は最高潮に達しようとしていた。

「ハァ、ハァ、駄目、ねぇお願い。もう我慢出来ないの。もういいでしょ?」

 そう言って右手に握ったナイフを聖也の胸の辺りにかざす。

 聖也は目に涙を浮かべながら必死に抵抗しようとしていた。

「ああ、もう無理よ。我慢なんて出来ない。いいでしょ?一気にいくからね」

 そう言って杠は一気にナイフを持った右手を振り下ろした。
 聖也はガムテープ越しに声にならない何とも言えない悲鳴を上げている。

 高揚感で満たされていた杠はそのまま二度三度と聖也の胸めがけて右手を振り下ろす。

 杠は慌てて聖也の口のガムテープを剥がし猿ぐつわを外した。

「ねぇ、もう時間が無いでしょ?最後に何か言って。今の気分を聞かせて」

 そう問いかけたが聖也は口をパクパクとさせた後、事切れた。

「……ああ、そう。貴方も声にならない程気持ち良かったのね」

 杠の初めての殺人は完遂され、心は満たされていた。
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