怖いお話。短編集

ドッペルゲンガー 侵食③

　雄一の家に着くとチャイムを鳴らす。しかし何も応答がなかった為、淳士が玄関の扉に手をかけると鍵はかかっておらずすぐに開いた。

「すいません」

　呼び掛けるが誰からも応答はなく仕方なく淳士は「お邪魔します」と言って靴を脱いだ。
　淳士はそのまま階段を駆け上がり雄一の部屋の扉をノックする。
　しかし返事はなく淳士は「入るぞ」と声を掛け扉を開けた。
　そこには衝撃の光景が広がっていた。

　ベッドで体を起こし怯える雄一と椅子に腰掛け怯える雄一がいた。

　雄一が二人？――。

　戸惑う淳士に椅子に座る雄一が語り掛ける。

「淳士助けてくれ、俺の偽物がベッドに」

　それを聞いたベッドの雄一も叫ぶ。

「何言ってる？偽物はお前だ！分かるだろ淳士？」

　互いに同じ主張をする二人の雄一を相手に淳士は困惑していた。

　なんだよこれ？分かる訳ないだろ？どうすりゃいいんだ？――。

「さっき電話で話したのは？」

「俺だ」

　椅子に座る雄一が手を挙げる。
　
　だがさっきの会話は誰とでも出来るような内容だった。まだ信じられない――。

「じゃあ俺が響香と付き合ってるのを知ってるのは？」

「勿論」

　二人共が手を挙げる。

「じゃあ今から舞に告白しよう。OKもらった方が本物だ」

「……分かった」

　ベッドの雄一が頷くと椅子に座る雄一が首を振った。

「まだ準備が整ってないって言っただろ」

　それを聞いた淳士がニヤリと口角を釣り上げた。

「そうだったな、お前が本物だ雄一」

　そう言って椅子に座る雄一と拳をコツンと合わせる。そしてベッドにいる雄一の方を振り向いた。ベッドの雄一は恐怖におののいた表情で首を振る。

「お前が偽物だな」

　淳士が静かにそう言うとベッドにいた雄一は絶叫しながら姿を消した。