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首都イオニア編

シャギーリ魔法協会会長 ゼンギョウ・オオカワワ

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 どう考えを整理すればいいのか、宿泊先のホテルまで帰りながら考える。
 ピリスは始めから俺が魔法寄りの力を持っている事を分かっていた。
 だから、助けられた善意で俺をカヤ達、魔法協会に紹介したのか? 
 ……あり得ない。そういう類の人種ではない。別の思惑があったに違いない。
 俺とカヤたちを会わせる事で何かが起きることを予見していた?
 
――朱雀か。

 通常では現界することなどあり得ない、ケイラスの化身、それがゴブリンの野営地に現れた。
 あれは偶然ではなく、俺がカヤ達と接触する事が引き金となったのかもしれない。
 五行による相世相克の関係を持つ五神、俺だけが朱雀の弱点を看破出来た。
 そして、ピリスはそのことを知っている……どこまで知っているのだろうか。
 もしまた、何かが切っ掛けで朱雀が現れたら……それこそボッカイの街に現れてしまったら。
 ダメだ、ネガティブな方向にしか考えられない。

「おっそぉい!! アンタ、何時間うろついてんのよ!? マジ信じられないんですけど?」

 ホテルの玄関前に仁王立ちする、金髪ツインテールの我らの会長がむくれた顔で待っていた。

「ごめん、ちょっと……」

『キミが好きだよ』
 
 ピリスは敵かもしれない……だが。

「ちょっと珍しいものだらけで目移りしてさ」
「はぁ!? 観光で来てるんじゃないんだから! それよりこっちに来なさい」 

 ツカツカとこちらに来ると腕を組んで、ホテル内に引っ張り込んだ。

「オオカワ先生、ウチのバカ副会長、今、来ましたので」

 カヤの『いつもとは違う作った声色』をかけた先を見る。
 おお、龍人ってやつか。
 老いた龍のような男性だ。
 顔のウロコは古く固い印象を浮かばせており、鋭い眼光は猛禽類を思わせ、白く長いひげは知性をなびかせ、大きな口を真一文字に結んでいる。
 龍の顔をしていても気難しいお爺さんの代表みたいな雰囲気を纏っている。
 この人がゼンギョウ・オオカワ先生か。
 敵では無いと思うが、オブザーバーで確認。

――――――――――――――――――――――――――――――――――
名前:ゼンギョウ・オオカワ 年齢:72歳 ランク:A
職業:魔法使い
HP:C
MP:A
魔力:A
魔防:A
筋力:C
体力:C
速度:D
禁術:B
―――――――――――――――――――――――――――――――――――

 カヤとアカネほどではないが会長職も伊達ではないな。ケイラスの流れも調和している。
 無言のままソファに座り、こちらを上から下まで値踏みするように見てくる。
 会長職らしい態度は、どの世界でも一緒だな。

「……元はランクFだが、シドウ君のお陰かランクDにはなっているようだな」 
え、2ランクも上がっていたのか。カヤの魔法料理はチート過ぎるぜ。
「そのままでは、イセコスでは生き延びるのが困難ですので私の庇護下に置いております」
「シドウ君らしからぬ、甘さだな」

 明らかに不機嫌な声色でオオカワは表情を曇らせた。 
 こちらを見る視線に見覚えがあるなぁ、若造を軽視する年寄りの眼だ。

「先ほども、ご説明させていただいた通り、彼には我々に無い視点がございます。そのお陰でボッカイの魔術使い達も魔法協会に組み込めましたし、我々は公の組織であるとの宣言も出来ました」 

 へぇぇ、結構、俺の事を評価してくれているんだ……ピリスの事を伝えてないのが心苦しい。

「さっきは黙って聞いておったが、そのような些事ではなく、結果としてあの無資格の頭目は排除できておるのか?」 

 オオカワはまるで獲物をしとめるかのような眼光をカヤに向けた。
 パシー殺害はコイツの意向でもあるのか。

「排除ではなく配下となりました」 

 カヤの短い答えにオオカワは眉間に皺を寄せて、ため息を吐きながら立ち上がった。
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