最弱の魔王に転生させられたんだけど!?~ハズレスキル【砂糖生成】で異世界を征服してみよう~

素朴なお菓子屋さん

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第一章 はじめての

根底

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 一方その頃。


 ***

 

「スレット、遅いなぁ……」


 天窓から射す光も……気付けば爛々とした朝日から、柔らかい夕日に変わっていて。

 けれど……待ち人は来ず。


「心配なされるな魔王様。貴方の力を得た我々は……強いっ!!」
 

 ムキッ! と力こぶを見せてくるプース。

 強いから大丈夫とか、信じてるから大丈夫……とか、そういう感情じゃないんだよ、心配ってさ。


「ただただ、相手を思う……独り善がりの、愛しい想いなんだよ、心配ってさ」


「魔王様ァァァ御手を! あぁ~御手をぉぉぉ動かしてぇぇぇ!!」


「ごめん、フェーリー」


 僕のセンチメンタルはフェーリーに打ち砕かれ……手元の意識を戻す。

 スレットが一狩り行っている間、僕らは何をしているかというと――――――ずばり、内職である。

 テーブルに散乱した飴玉達。

 床に散乱した木箱と麻布袋。

 それらを合体させると、飴を食べて羽が大きくなった妖精達が、魔王国内にお届けしてくれるって寸法。

 この、立派になった四天王達みたいに……国民も逞しくなってくれると良いけど……。

 勿論、スレットの後方にあるゴブリンの森から、ドワーフ達の集落……と、前線に近い方から配っている。

 早く……早くせねば……!!


「魔王様……いぃや、違ぇな。アラン様…………貴方は何故、そこまで死を恐れる?」


「……えっ」


 手を動かしながら、視線をこちらに向けることも無く……何となしに、プースから言葉を掛けられて。

 言い難い……自分の、本質。それを聞かれていて。

 かといって……黙っている訳にもいかず。


「………………昔、さ……仲の良かった友達が死んだんだよ」
 

 ポツリポツリと……零すように。

 プースの目を見る訳でもなく……独り言のように。


「………………そりゃあ、お悔やみ申し上げまする」


 自分の中で……生きるという事、命というものを……認識してしまった日。


「五年振りにきた連絡が……訃報でね。頭の先からスーッ……と血が抜けていった感覚は……後にも先にも、あの日だけ」


 友達は……相談も無しに、自ら命を絶っていった。


「ふむ……その、安らかに、過ごされてると……良いですな」


 辛いとか、悲しいとか……不甲斐ない、とか……全部違って、全部正しい……そんな風な、やるせない気持ちが、今でもある。
 もう半年以上経ってるのに……癒える事は無くて。


「どー……だろー……ねぇ……。魂ってさ……何処に行って、何処に消えるんだろうね」


 友達の為に、何か出来なかったか……助けられなかったか、そう考えて――――――その考えが、全部自分本位だという事に気付いて。

 自分が凄く嫌な人間に思えて。

 自分と、周りの命が……とても重く感じるようになって。


「……神の元で……幸せに、暮らしてやさぁ……」


「そうだね」

 
 棺に眠る彼の顔を……触ってやれなくて。

 アイツが亡くなったのに……職場の人も、お客さんも……それを知らなくて。

 誰かが死んでも世界は周り……けれど、その人の時は止まる。

 考える事も……悩む事も、楽しむ事も……何も出来ない。

 その……齟齬が、酷く恐ろしく思うようになって。

 遺された方だって……その人とのストーリーはそこで終わってしまって……それが、嫌で。

 もし、自分が死んだら……次、どうなるの? 死後の世界? 転生?
 そんな事も考えられなくなる……それが、酷く恐ろしくなって。

 だから僕は……死が、怖い。
 

「自分の大切を守る為に……必要な死や殺しがあるのは理解してるよ? けど……なるべく、生きて欲しいよね、皆には」


 今までの人生で……この事を言葉にした事は無い。

 何となく、心が楽になった……というか軽くなったというか。


「……貴方の御心に触れられた事、光栄に思いまする」


「そんなそんな……」


 床に座ったまま目を瞑り、頭を下げるプースに気恥しさが――――


「主様。火急の報告が」


「ひゃ、はいっ」


 ……不意に耳元で、甘く震えるような、少し掠れた低音が響いたせいで……思わず、ゾクッとした。


「誰……あ、ペールか」


 声のトーンは……恐らく、警護に当たっていたペール。
 不安だからと、配下の蝙蝠達と共に城を警邏けいらしていた筈だけど……?


「何かあったのペー……あれ、違う……? ん……? 誰?」


 手元の飴の詰め作業が一区切り付いた為、振り返ってみたけど…………そこに居たのは、純白の牙を口元から覗かせたヴァンパイアが一人。
 ペールの……配下、だろうか。

 血色が良く、真っ白な艶肌。サラサラと靡く白髪。

 悔しいほど端正な顔立ちと、程良い筋肉のスラッとしたスタイル。
 堂々と、胸を張ってスッと背筋を伸ばした姿は、自信に満ち溢れてて……ちょっと眩しい。


「君は……誰かな?」


「…………ペール、ですが」


「え…………? 嘘でしょ?」


 猫背で、青白い顔をしていたでしょペールは……!! それに、牙も伸びてなかったし…………あ、え? これが噂の夜フォルム……!?


「……まぁそんな事は何でも良いか。それで、何があったの?」


闖入者ちんにゅうしゃが一匹。既に捕縛しておりますが……連れてきますか?」


 え? なんで? 連れてこないでよ。

 牢屋入れといて…………ん、待てよ?


「んー……相手は人間かい?」


「えぇ」


「じゃあ……連れてきて。拘束は外さないように、ね」


「畏まりました」


 そう言ってペコッと頭を下げたと思えば……ポンッと煙となって消えていくペール。
 わぁお……不思議ぃ…………。


「……魔王様。この部屋に呼ぶんですかい?」


「ん?」


 そ、そうだ……部屋が狭いからキッチンから出て、玉座の間で内職しているんだった!!


「か、片付けてっ!! 体裁、魔王の体裁!!」


 こんな所見られる訳にはいかねぇ!!



 ――――――――――


 ――――――


 ――――

 
 ――


 何とか片付いた……。

 幸い、半分位は木箱に詰め終わっていたので、皆で必死に隣の部屋へ押し込んだ。
 因みに、プースとフェーリーには、詰め作業の続行をお願いしてある。
 
 
「主様……そろそろ」


「うん、お願い」


 扉からひょっこり顔を覗かせたペールに軽く手を挙げ、僕は玉座へと腰を下ろす。

 態々、自分が詰め作業を抜けてまで人間と対峙したかった理由――――――それは、自分の能力を確認したかったから。

 明確に敵対していて、尚且つ捕縛されており……もし、不慮の事故が起きてしまったとしても……大義名分がある相手。

 今後、易々と目の前に現れる保証は無い。というかそんなポンポン出てきて欲しくない。

 それならば……今しか、チャンスは……無い。


 ――――何より、僕は魔王だ。魔王として……生きていかなきゃ、ダメなんだ。

 相手を殺す覚悟。
 
 相手とその周囲の人間の心を壊す覚悟。

 人生を狂わす責任。

 それらを……飲み込む覚悟を持たなきゃならない。

 死を、命を、魂を……受け入れなきゃ、やっていけないんだ……。

 ブルブル……と震える拳を、ギュッと強く握る。


「ふぅ………………入れ」


 声が震えないように。

 出来るだけ……低く、恐ろしい声を出すように。


 キィッ……と扉が開き、静かに入ってくるペール。

 その肩には……一人の、女性が担がれている。


「魔王様……隊長格の女を一人、連れて参りました」


「うむ……」


 ……あれ、魔王っぽい言葉遣いってどんな感じだろ?

 僕が固まっていたせいか、ペールはドシャッ……と女性を投げ捨てた。


「ぐっ……!! きさ、貴様ぁ……」


 良く見れば全身傷だらけだし……顔も腫れてる。それに加えて両手足には真っ黒な拘束具が付いていて、流石に不憫。

 でも――――何でか、彼女を見ると……腹の底から、ゾクゾクと歓喜が湧いてくるのは……魔王の残渣が、顔を覗かせているからか。


「ふむ……随分と鮮度が悪い。強くなったなペール」


「ははっ!! 魔王様のお陰で御座います」


 ペールが戦っている所を見れなかったのが……ちょっと残念か。

 苦しさからか、モゾモゾと動き始める捕虜の女性。


「バ、バカに……しやがっ、て……!! お前ら、みたいな……下等生、物にぃ……」


 苦痛に歪んだ表情。

 しかしその目は……僕らを睨み付けていて。

 下等生物なんて見下して……凄く、不愉快。人間が正義で魔物が悪ってか?
 いるよね……こういう、肩書きとか立場だけ見て、自分が偉いと思っちゃう人。
 あーやだやだ。


「ふむ、貴様…………」


 ……あれ?

 早速実験台にしようかと思ったけど……この人、もしかして……サリュの味方だったりする……?
 
 やべぇ、確認もせずにボコボコにしてしまったぞ……??


「……? どうされました魔王様?」


「あ……いや……なぁ……」


 ペールの問い掛けに口篭った瞬間、先程ペールが来た扉とは別の、僕の背後にある扉がガチャッと開き――――


「おはよう……アラン。ふぁ~……あー……良く寝た」


 呑気に伸びをしながら入ってくるサリュ。

 ちょ、なんという間の悪さ……!!

 チラッと捕虜の女性の顔を見れば――――ピクッと頬肉が揺れた気がして。


「殲滅勇者殿!! 予定通り作戦結構だっ!! 私に構わず――――――魔法を放てぇっ!!」


 そんな決死の怒号が…………鳴り響いた。
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