主人公にはなりません

negi

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とうとうオルトが卒業する日が来てしまった。
孤児院の門から出ていく後ろ姿に、やっぱり涙がこぼれてしまう。

両想いになってからは一緒に眠るベッドの中で毎日キスを交わした。
深くすると声が出てしまうから今は触れるだけ、と言って何度も唇を合わせた。
実は寝ている俺の唇に一度だけキスをしたことがあると懺悔されてびっくりした。

キスしながらやさしく抱きしめてくれた彼と離れてしまうのがつらい。
でも、迎えに来ると言ってくれたからそれまで魔法の練習を頑張らないと!

魔力コントロールの練習をしながら自分の持つ魔力の大きさを把握する訓練もする。俺は魔力が多いらしくて、平民ではトップクラスの量なんだとか。
さすが主人公である。

魔力量を把握していないと、いざという時に命にかかわる場合もある。
孤児たちは将来もかかっているから、みんな練習も訓練も必死になる。

「みんな練習を止めてこちらに来なさい。お客様がお見えになりました」

神父様が魔法訓練用の部屋に来て、俺たちに集まるように言っている。
跪いくように言われたので、多分貴族様が視察に来たのだろう。

どう見ても警備兵より格上の装備の男2人が入ってきた。そしてその後ろから貴族だとわかる煌びやかな服の人物が優雅にこちらに歩いて来ていた。

「こちらのお方はハイデン伯爵家の御子息、コルネリアス・ハイデン様です。
今日はみなさんの魔法の練習を視察にいらっしゃいました」

「コルネリアス・ハイデンだ。今日はよろしく頼む」

――頭の中で警鐘が鳴っている。全ての音が遠くに聞こえた。どうして攻略対象者が孤児院に来ているんだ?

この場から今すぐ逃げ出したいのに体は石のように固まり震える指先が冷たくなっていく。

コルネリアス・ハイデン。君夜の攻略対象者の1人で伯爵家の次男。
銀色の髪は耳にかかるくらいの長さで切りそろえられていて青い瞳はやや鋭く
そのため氷の貴公子と呼ばれていた。

そんな彼の瞳が真っすぐ俺を見ている。見られているだけで心臓が止まりそうだった。間近で見る彼はゲームの画面越しに見ていたよりもずっと美しく気品があった。

彼が手を上げると、後ろにいた男二人が手に持っていた袋から金貨を取り出して神父様が持っていた木製のトレイの上に置いていく。子供たちは驚きの声を上げてそれを見る。

「孤児院へのお慈悲、大変ありがたく頂戴いたします」
「子供たちの才能を伸ばすためだ。よりよく使うが良い。ところで、君は魔力量が
多いそうだね?魔法の属性はなに?」
「はい。水属性を授かりました」

貴族に声を掛けられたら返事をしないわけにはいかない。
俺たち孤児は貴族に対しての礼儀作法も学んでいる。
答える声が少し震えるのは貴族を前にした緊張からと見えるはずだ。

「ああ、それは素晴らしいね。ぜひ私にも君の魔法を見せてくれないだろうか?」
「はい、わかりました」

俺は離れたところに移動して、水の球を作った。
空中に浮く水の球なら貴族の近くでも安全な魔法だと思ったからだ。
神父様の許可を取ってから、さらにもう一つ水の球を作る。
それをコルネリアス様に見せると、彼は感心したようにうなずいて見せた。

その後、他の子もそれぞれの属性魔法を披露するのを見てから
孤児院内を少し見て回ってコルネリアス様は帰っていった。

            ◇◇◇  
             
その日の夜、ベッドの中で必死にゲームの記憶を辿ってみた。
そしてゲームでも孤児院の視察をする場面があったのを思いだした。

確か、主人公が過ごした場所を見たいという理由で孤児院に差し入れを持って行くんだ。でもそれはゲーム終盤の主人公との好感度がMAXに近い相手とのイベントだったはずなので、こんなに早く、しかも学園に行く前に出会ってしまうのはおかしい。

そして俺が浄化魔法を開花するのはいつなんだろう。学園に入る前の事になるから、やっぱりオープニングムービーにヒントがあるかもしれない。

もう一度飛ばし気味に見ていた映像を思い出す。するとその中に見覚えのある顔があることに気付いた。この茶髪は...ナタリー⁉そうだ、呪いにかかったナタリーを浄化するために...それから次々記憶が繋がっていく。
簡単に整理すると___

・ ナタリーの呪いをきっかけに浄化魔法を使えるようになる
・ 孤児院で呪いにかかった人や物を浄化するようになる
・その噂が貴族や王族にも届いてしまう
・浄化魔法使いは希少なので、貴族の養子になる

そんな感じの解説が流れながらオープニングムービーが終わると見慣れた学園の入学式へと続いていく。…やっと思い出せた。

ナタリーへの苦手意識から彼女を救ったことにたどり着けなかったのかもしれない。
そうか、ナタリーが居なくなったから浄化魔法を開花出来ていないのか。
ならこのまま開花しない方が良い。学園には行きたくない。

「キリ~?まだ眠らないの~?」
「ああっごめんよ。もう寝るよ。ほら、ちゃんと毛布をかけて」

隣で眠る毛布のふくらみがもぞもぞ動いて眠そうな顔が出て来た。
考え込んでいたら、同じベッドに寝ているトニーの邪魔になってしまったようだ。

オルトが卒業してしばらくは1人で寝ていたが、今は7歳になったばかりのトニーと
2人でベッドを分けあって寝ている。体の大きかったオルトと眠っていたときよりも少し寒く感じてしまうベッドの中で俺も毛布を引き上げて眠りについた。

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